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第二章 舞踏会を君と 14、2人でごゆっくり

数日後に舞踏会を控えた学園は、生徒みんな浮き足立っていた。


あの令嬢とあの伯爵がパートナーで踊るみたいよ、とか、まだ相手が決まってないのどうしよう、とか、あの子誘っちゃえよフリーみたいだぜ、とか。


なんだか前世の、高校生の学園祭前のようなワクワクする雰囲気だな、とレベッカは思った。


中身はアラサーのため、十代の頃の懐かしい記憶を思い出しながらも、舞踏会が近いということは、服を完成させる期日もあと数日なのだと、授業が終わった後は一人部屋にこもり針を進める手を早めていた。


そうして、リリアのドレスが完成したので、急いで彼女の部屋へと向かう。


コンコン、と彼女の部屋の扉をノックすると、声がかかった。



「はい、誰ですか?」


「レベッカよ。例のもの、出来たわ」



すると勢いよく扉が開き、部屋にいたリリアは嬉しそうな笑顔でレベッカを迎え入れた。


布に包み、外からはわからないようにしたドレスを手に持ち、リリアの部屋へと入る。



「刺繍に手間取っちゃって、舞踏会直前になってごめんね」


「いえ、ありがとうございます……!」



他の令嬢たちは、もう城下町の人気の服飾店でドレスを選んでいる時期なので、出来上がるのか心配させてしまったかもしれない。

しかしリリアは首を横に振ると、嬉しそうにドレスを受け取った。

布を外し、両手に持ち広げる。



「うわぁ……!すごい、綺麗なドレス……!」



ドレスの全体を見て、彼女は感嘆の声をあげた。


この前言った通り、ブルベ夏な彼女に似合う、ラベンダー色の膝丈ドレス。


ふんわりと広がったスカートには刺繍がしてあり、可愛らしいというよりもエレガントだ。


胸が小さいことを気にしていたので、胸元はキラキラと輝くスパンコールを多くつけて、レースでボリュームも増やした。


全身鏡の前で自分の体に合わせて見ながら、リリアは目を輝かせていた。



「凄い…理想のドレスです…!」


「良かった、子供っぽく見られるのを気にしてたので、大人な雰囲気にしてみたの」



レベッカの言葉に、うんうん、と大きく頷くリリア。


コンプレックスを克服し、美しく映えるドレスをもらえて嬉しいのだろう。


ドレスを持ったまま、レベッカの手を繋ぎ上下に振ってきた。白い頬が嬉しさで桃色に染まっている。



「なんとお礼を言えばいいか…!」


「良いんですわよ。リリア様からはダンスを教えてもらえますから。部屋にいるときに一人で練習してますの」


「じゃあ、また教えます! 今からやりましょう」



嬉しかったのか、リリアはまたダンスを教えてくれるという。


女子二人で楽しく戯れていたら、部屋のドアがノックされる音が響いた。



「リリア、いるかい?」



青年の声が聞こえると、リリアはハッとした。



「ユリウス様です、どうしたのかしら…!」



すぐさま出ようと思ったが、手にはラベンダー色のドレスを持っている。



「ドレスは当日まで秘密にしておきましょう、隠して隠して!」



レベッカが布でくるみ、そっとソファの影に隠す。


ドアを開けると、輝くような金髪の、正統派イケメン王子様が現れた。



「リリア、今時間あるかい? おや、レベッカ嬢と一緒にいたのか」



ユリウスは部屋の中にいたレベッカを確認すると、意外そうに目を開いた。



(ううっ……爽やかすぎる……! オーラが半端ない……!)



さすがは乙女ゲームのメインヒーローの王子、眩しすぎるほどの魅力を放っている。



「ずいぶん仲良くなったんだね。じゃあ、女子同士の方が楽しいだろうから、俺は失礼するよ」



以前廊下でレベッカがリリアを突き飛ばした、という誤解はリリアが解いてくれたようなので、悪役令嬢にも優しく言葉をかけるユリウス。


せっかく部屋まで王子が来てくれたんだ、キャラ固有の好感度アップイベントに違いない。


リリアに目配せし、レベッカはすぐにユリウスに進言した。



「いえ、もう用事は終わりましたの。帰るところでしたから、ユリウス王子はリリア様とどうぞごゆっくり」


「いいのか?」


「ええ、もちろん」



ドレスの裾をつまみ、優雅に礼をするレベッカに、ユリウスの後ろに立っていたリリアが祈るような手で感謝していた。



(あなたの恋を応援するためにドレスも作ったんだから、このくらい当然よ)



舞踏会前のイベントなら、二人で甘いものを食べに行ったり、ダンスの練習をするキュンキュンシーンがあったはずだ。ぜひ正ヒロインに楽しんでもらいたい。


悪役令嬢のレベッカは、部屋から出る際、一度だけ振り返ってユリウスに尋ねた。



「今日、クロード公爵はどちらへ?」



「ああ、彼なら図書室で勉強するって言ってたよ」



仲の良い友人の居場所を教えてくれたユリウスに、今一度会釈をし、レベッカは部屋を出た。

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