人間になりたい吸血鬼の娘
「人間になりたい」
吸血鬼の娘はお墓の前で花を手向けて涙を流しました。
これまでに何度、最愛の人を失ってきたことでしょう。
吸血鬼は不死身なのでいつまでも生き続けることができますが、人間には寿命があります。
どれほど熱く激しく恋をしてもどうしても先に別れがきてしまうのです。
同じ人間ならば苦しみも短くてすみますが、吸血鬼ではそうもいきません。
泣いていると、木の上から小人が現れて訊ねました。
「お嬢さん、あんたどうして泣いているんだね」
吸血鬼の娘がこれまでの悲しい恋話を語りますと、小人は腕組みをして。
「あんたの気持ちはわかるが、人間になっても解決しないと思うぜ。
恋を続ける限り、愛し別れ、実らない時だってあるからな」
「それは、そうね……」
「あんたは吸血鬼としての長所を忘れちまってる。
吸血鬼ってのは不死身だ。多くの出会いも別れも経験するけど、思い出は消えないだろ?
人間よりもずーっと長く恋多き素敵な人生を過ごすことができるんだぜ。
傍から見りゃすごい恵まれているとは思わないかい?」
小人の言葉に吸血鬼の娘はハッとしました。
曇り空が晴れたかのように娘の目に光が宿りました。
「そうね。いつまでも泣いていちゃいたら愛した彼が悲しむもの。
彼の思い出も大事にするけど、新しい恋もしてみようかしら!」
「そうだな。それもいいかもしれないな」
晴れた空の下で小人と吸血鬼は互いに笑いあうのでした。
おしまい。