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 今日顔合わせの3名は正式には明日、新たなプロジェクトチーム(プロジェクト:ポッド?)のメンバーとなる。

所属は医療課や軍部など、元の所属のままで異動するわけではないのだが、重要なプロジェクトメンバーに選出されると、そちらの任が優先となる。

つまりはプロジェクト遂行の任務を与えられたような形になる。

その間の命令系統はプロジェクトの主幹となるセクションで、今回のケースだと研究課。

その為、プロジェクト責任者には研究課からフリージア少佐が任命されている。

彼女は研究者としても非常に優秀だったが、組織を機能させるマネジメント能力や、自分たちが動きやすいよう周りに根回しをし巻き込む能力が極めて高かった。


「今日はそろそろお開きにしましょう。皆、明日からよろしくね!」


 フリージアの一言で、各々軽く挨拶を済ませ、食器をカートに下げ退室していく。

リリシアはハンナとゴーシュに伴われ、隣の医療室に戻っていった。


 少し仕事の話がある、とラキエルがフリージアを呼び止めた。

食堂に戻す為、食器類を乗せたカートを押してジェレミーが退室し、ラキエルとフリージアだけが残された。


「預かっていた例の端末の調査報告を送っておいた。端末は通信回路を無効化したから、リリシアに返しても良い? どんな使い方をするものなのか聞いてみたい」

「渡すのは構わないけど、現段階で完全に返してしまうわけにはいかないわ。元は彼女の物だろうから心苦しいけど、一度軍が押収した以上、簡単には返してあげる事が出来ないの。」

「わかった、そのあたり折り合いがつけられそうなら、にする。あと、端末の情報と脳波を元に、リリシアが使っていた言語が少し解析できたから、あとはリリシアにも教えてもらう。相互に言語を学習して、早期の意思疎通を図る。リリシアが来た目的と背景を確認する必要がある、で、合ってるよね? 少佐」


 やはりラキエルは自由に動いてもらうに限る、改めてそう思った。


「ええ、あなたの考えている通り。なぜ彼女がここに来たのか、本意だったのか事故だったのか、確認する必要がある。状況から、事故だったんじゃないかと考えているわ。そして事故の原因として攻撃的な勢力の存在があるのであれば、その情報を早急に掴みたい。」

「昨日話してた3つの目的のうち3番目が最重要」

「そうね…」

「2番目の目的、リリシアが敵対するか否かについては、否という結論が出た場合、彼女をどう扱うつもりなの?」

「意思を持って今を生きている1人の人間として、私達と同じように自由な生活をさせてあげたい、と私は思っているわ。」

「でも決めるのは、もっと上、って事。わかった」


 ラキエルは用が済んだとばかりに退出する。

独り残されたフリージアは今の会話からラキエルの真意を考える。

リリシアが敵対しない場合、自由に。その言葉に反論が無かったどころか、誰が決定権を持っているのかまで意識していた。

つまりは、ラキエルはリリシアを自由にしてあげたい。そういう事なのだろう。

あの子が他人の行く末を、あんなに露骨に気にかけるなんて。

研究以外になかなか興味を示さなかった彼が、他人の行く末を案じている。

その事実が嬉しくて、フリージアはラキエルの希望が叶うのならば、自分も全力でそれを応援しよう、と心に決めたのだった。



>>>>>


 みんなで同じテーブルを囲んで、一緒に食事をして、笑顔で会話する。

あんなに賑やかに食事をしたのは本当に久しぶりだったし、まるで仲間として認めてもらえたようで、すごく楽しかった。


 実際はそうではない事はわかっている。

自分以外の皆は部屋を出た後にそれぞれ自由に去っていったが、自分はこの部屋に戻される。

完全な仲間ではない。

でも今はこれでも十分。

自由が無い事以外は、ほとんど不自由なく生活させてもらっている。


 言語を学習した事も、もしかしたら知られない方が良いのかとも考えたが、あの様子だと歓迎してくれているようだった。

明日は仮面のラキエルが教えてくれると言っていたし。


 昨晩モニター越しに見た時は本当に何も話さなくて、ほとんど動かなくて、置物かと思ったぐらいだけど、今日の彼はすごくたくさん話してくれていたな、と思い返す。

実際に会ってみたら自分と背丈が同じぐらいだったし、声も若かったから歳は近いのかもしれない。

名前を呼び合って、明日会う約束をした。

なんだか普通の友達同士みたい、と少し嬉しく思った。

仲良くなれると良いな。


 そういえば食事には全く手を付けていなかったけど、何か食べられない事情があるのだろうか?

もしかしてアンドロイドなのかも。

そうであれば、あの仮面のような頭部も納得だ。

でもその後、隣の席の人が食べるように奨めていたみたいだったから、やっぱり普通のヒトなのかも。(結局、奨めていた人がラキエルのご飯を食べてしまっていたけど。)

そのコントみたいな様子を思い出して、自然に笑みが溢れる。


 シャワーを浴び、新しい夜着に着替え、今日はTVのリモコンではなく、先ほどハンナから渡されたばかりの学習用タブレットを手にする。

おそらくこれは幼児が言語を学習する用途で開発されたものだろう。

全体的に丸みを帯び、角のない作りになっている。

表示される文字も大きく、読みやすい。

文字や単語を選択すると、それを読み上げているのだろう音声も聞く事ができる。

これであれば読み書きと発音を同時に覚えられそうだ。

色々といじっていると辞書のような機能もあるようで、TVを見るときにも重宝しそうだと思った。


 同じ頃、ラキエルは自分の研究室に居た。

総務にいくつかの備品申請を行う。

一息つき、さっき食堂で貰ってきた珈琲を口に含む。


(…やっぱり、ハンナさんが淹れてくれたやつの方が全然美味しいな)


 リリシアが生活する医療室の横にフリージアとハンナが事務スペースとして陣取った部屋、ハンナはあの部屋に珈琲豆や淹れるための道具も持ち込んでいた。

明日の朝早く訪ねたら、自分の分も淹れてくれるだろうか。


(明日…また会える。昨日は失敗したし今日もちょっと怪しかったけど話せた。明日の約束もできた)


 今日の食事会の間は、ほとんどの時間をリリシアの観察に充てた。

リリシアの言動ひとつひとつを思い出す。

なぜか顔や首に熱が集まるのを感じた。

美味しくない珈琲を飲み干し、デスクを片付けた後、ラキエルにしては珍しく日付が変わらないうちに寮の自室に戻り、身体を休めた。

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