表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/49

モニター越しの対面

「直近の進捗。例の情報端末へのアクセスは成功した。更に解析を進める為、しばらく電波遮断エリアにこもる」


 ラキエルが成果とこの後の予定を共有すると、ハンナからも報告があった。


「私からもご報告です。ヒト型の生命体は、先ほど目覚めました。健康状態に問題はない様子です。精神的にも安定しており、敵意も感じませんが、予想していた通り言葉が通じない為、コミュニケーション方法が課題です。ジェスチャーである程度は理解してもらえるので知能は高いでしょう、こちらを注意深く観察している様子も見て取れます。」


 これにはジェレミーが目を見開き、興奮気味に食い付いた。


「わ、私も会ってみたいです!会えるのですか?」

「そうね…今日はもう時間的に難しいから直接は難しいけど、この後すぐにモニター越しで、短時間だけで良ければ。その代わり、明日の夜はみんなで夕食をとりましょう。このチームに2-3名ではあるけど増員するつもりだから、その顔合わせも兼ねてね。」


 この提案にはハンナも少し驚いたようだ。

ジェレミーは大満足と言わんばかりに、嬉しそうに頭を下げた。


 その後すぐにフリージアとハンナは医療室の方へ、ジェレミーはラキエルの個人研究室に移動し、そこからモニター越しの面談を行う事となった。

ラキエルと並んで廊下を歩くジェレミーは、稀に見るハイテンションぶりだ。


「まさか起きて動いているところを、こんなに早く見られるなんて…楽しみですねっ、ラキエル博士!これも博士が昨日残って解析を進めてくれたおかげです。」

「睡眠は重要だから、残業は推奨しない」

「私の知る限り、ラキエル博士ほどの残業時間を叩き出す人間はいませんよ…死んじゃいますから。」


 ラキエルは普段、意識して残業しているわけではないが、一度集中し始めると周りも時間も見えなくなってしまう事は否定できない。

それでも、ここ数ヶ月はそこまで残業していないつもりであったが、どうやらジェレミーの頭の中には、朝出勤したときも、夜退勤するときも、常にラボに入り浸りひたすらに研究に明け暮れるラキエルのイメージが強く刻まれてしまっているのだろう。


「頼りないかもしれませんが、私も一端の研究者です。今回、ラキエル博士と同じチームになれた事、すごく嬉しいんです。足手まといにならないようにしますから、お力になれる事があれば何でも言って下さいね。博士から任せて頂けるのであれば精一杯頑張りますし、自分にとっても絶対良い経験になるって思ってますから。」

「うん、何かあればお願い。頼りにしてる」


 ラキエルの個人研究室に着いた2人は遠隔会議用のモニターの前で、少し緊張しながらその時を待った。



>>>>>


「ここから接続できそう?」

「はい、大丈夫です。もういつでも始められます。」

「今から、ここに私達の仲間を映すわね。ではハンナ、あっちはもう待っているみたいだから繋ぎましょう。」


 フリージアに促されるがまま、モニターの前に大人しく移動し、恐る恐る目の前のモニターを覗き込むと、その中に自分の姿と同じ部屋にいる彼女たちの姿が確認できた。


(姿を転写する仕組み? 何を始めるんだろう?)


 自分達の姿が映る窓の横に、新しい窓が表示される。

20代ぐらいの若い男性と、その人に比べるとかなり小柄な人物が映し出される。

小柄な方は仮面をかぶっており顔は確認できない。


(この人たちは? 別の場所に居る人なのかな。あの仮面は一体…?)


「フリージア少佐!ハンナさん!見えてますか? こちらは見えています!すごい…本当に起きてる。はじめまして、僕はジェレミーです。こちらはラキエルさんで…って、す、すみません…自分ばかり話してしまって…」


 画面に写った人が話しているらしいという事がわかり、何か反応をした方が良いのかと考える。

画面の向こうのジェレミーが、照れながらも恐る恐るこちらに手を振ってくる。

その動作を真似し、手をひらひらとして見せると、同じ部屋の2人は少し驚いたように目を見開き、画面の向こうのジェレミーは感激したように嬉しそうな表情をした。

自分の取った行動は、どうやら正解だったらしい。


 小柄な仮面の人物は微動だにせず、言葉も発しなかった。


(あの仮面の人は…置物?ではないよね、呼吸はしているような気がするし。話せない人なのかも。)


 少しの間3人が画面越しに何か話す様子を観察していたが、どうやらそろそろ終わりにするようだ。


「この後、このコの食事の時間にするから、今日はこれぐらいにしておきましょう。また明日ね、ジェレミー。ラキエルも。お疲れ様。」

「ラキエル博士は、何も話さなくて大丈夫ですか?」

「…」

「博士? 起きてます?? なんか反応無くなってしまったので…終わりますね。今日は僕の我儘を聞いて頂いて、ありがとうございました。フリージア少佐、ハンナさん、お疲れ様です。」


 ラキエル以外の3人がお互いに手を振るので、それを真似してまた手を振ってみる。

目の前のモニターが暗くなり、終了したのだと認識する。


 結局ラキエルと呼ばれた仮面の人物は、一言も喋らず、ほとんど動かないままだった。


 医療室の3人で夕食を済ませると、フリージアが「後は任せるわね。また明日、おやすみなさい。」と退室して行った。

残ったハンナはシャワーブースの使い方を丁寧にジェスチャーで教えてくれた。

着替えと思われる一式を置いて「また明日。おやすみなさい。」と優しく微笑んで出ていった。


 紅い髪の女性がフリージアショウサ。

 グレーの髪の女性がハンナ。

 グリーンの髪の男性がジェレミー。

 仮面の人がラキエル。


 別れの挨拶はマタアシタ、オヤスミナサイ。


 誰もいなくなった室内で、今日聞いた名前と、別れの挨拶を口に出してみる。

何度か復唱した後、彼女はまたTVのリモコンに手を伸ばすのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ