知恵熱
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「リリシア…大好き。ずっと俺の側にいて」
「ラキエル…私も。好き。」
「じゃあ、キスして。ちゃんとしたやつ」
「うん。」
「ありがとう、じゃあ今度は俺からするね。ちゃんとしたキスと、もっとヤバいキス」
「やっ…ヤバいって…!?」
「前に巨大海中槽行ったとき…もっとナカまで味わいたいって言ったでしょ? まだ味わえてなかったから」
「でも、ちょっと待って!」
「もう待てない。ほら、リリシア。口、開けて」
「あっ…」
(夢…? か…なぁんだ…)
カーテンの隙間から朝陽が射しこみ、気持ちの良い朝だったが、先程まで見ていた夢を思い出すと全身が熱っぽくなる。
未遂で良かったような、あのまま続きを見たかったような…
スポーツウェアに着替え、簡単に身支度を済ませると扉の外から声が聞こえた。
「おはよう、リリシア」
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ジムでも、ラボでも、日中はラキエルが常に仮面をつけていて良かった、と初めて思った。
朝の夢のことが頭から離れず、度々思い出しては悶絶してしまうのだ。
ラキエルが仮面を外し素顔を晒していたら、今日は1日中ずっと彼の唇に視線が吸い寄せられてしまいそうだった。
(夢で…ラキエルに会える事はあるけど、あんなに生々しいのは初めてで…あの後は、どうなるんだろ…)
「リリシア?」
「っ!ひゃい!ごめんなさい、ぼーっとして…」
ラキエルは少し首を傾げると「失礼」と短く断りを入れ、顔に触れてきた。
ラボには他の研究員も居る為、普段この場ではあまり触れられる事は無い。
ラキエルの大きな手が、おでこに当てられる。
もう片方の手は首元で、おそらく脈を確認している。
「少し…熱ある?」
「ね、熱? そうかな…?」
体調を崩す事もあるのか…?とラキエルは怪訝に思いながらも、彼女の事が心配でたまらない。
「今日はもう、帰って休もう。部屋まで送る。いこ」
送ると言い連れて来られた先は、リリシアの部屋ではなくラキエルの部屋だった。
大きなベッドに座らされ、彼の部屋着を渡される。
水のボトルを捻り開け、締め直してからそれを枕元に置く。
開けやすくしてくれたのだろう。
ついでとばかりに携帯食料も2つほど配備された。
「お腹は、空いてる? 何か食べれるなら食堂から持ってくる」
「ううん、大丈夫。熱も、別にそんな…」
きっと、あんな夢を見たから…考え過ぎただけだろう。
自分が体調を崩し熱を出すなんて、そんな事は滅多にない。
最近は深夜まで勉強をしていて、そのせいで疲れが出ただけだろう。
「ダメ。休んでて。他に欲しいものない?」
「うん、ないけど…」
どうしてラキエルの部屋なのか、聞こうとして、少し考えて口を噤んだ。
彼はただ、自分の事を心配してくれて、看病してくれるつもりなのだろう。
リリシアの部屋だと、彼は自由に出入りが出来ない。
「少し、触るよ」
喉や首のあたりを重点的に、触診される。
以前、ハンナやエミリにもされた事がある動きと同じだった。
デバイスで簡易スキャンもされ、やっと納得したらしい彼はリリシアの頬に手を添える。
「今のところ微熱だけだね。俺はラボに戻るけど、欲しい物とか、何かあればすぐ連絡して」
「うん、わかった。迷惑かけてごめんなさい、ありがとう。」
「謝らないで、迷惑なんて思ってないから。じゃ、行ってくる。着替えて、寝てて」
ラキエルが部屋を出た後、自分の服を脱いだリリシアは彼の部屋着を被り、袖を通す。
洗い立ての良い香りのする部屋着は彼がいつも着ている、見慣れたものだ。
でも上下共に、リリシアにはかなりぶかぶかだった。
(最初会った頃は私より少し背が高いぐらいで、ほとんど同じだったのに…)
日に日に背が伸びて、逞しく成長するラキエルを思い出し、また熱が上がった気がした。
慌ててベッドに入り、横になってみる。
(あ…ラキエルのにおい、する。どきどきするけど…すごく落ち着く。)
大好きな彼に抱きしめられているような気になり、リリシアは安心して眠りに落ちた。
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16時頃になり、部屋のインターホンが鳴る。
リリシアはベッドから起き上がり相手を確認すると、外にはハンナが居るようだった。
「リリシアさん? ハンナです。ラキエル博士に言われて、様子を見に来ました。」
「ハンナさん…ありがとうございます。」
扉を開け、迎え入れる。
「あら、ラキエル博士から聞いていたより熱が高いですね。」
「はい、少し上がってしまったみたいです。でも1晩寝れば回復すると思います、いつもそうですから。たまに…あるんです。」
「そうでしたか、それでしたら問題ないと思いますが、念の為に診察させて下さいね。」
一通りの診察を受け、ハンナも大きな心配は無いとの結論に至ったようだ。
「疲れが出たのかもしれませんね。学校の試験をすごい勢いでパスしていると聞いていますよ。その上、ラボの方も手伝って頂いてるのですから…あまり無理をし過ぎないようにして下さいね。」
「はい。ご迷惑をおかけしてしまって、すみません。気を付けるように…します。」
「今夜はここでお休みになるのなら、何かあればラキエル博士がついて居てくれますから安心ですね。もし入浴されるのであれば、その付き添いだけして欲しいと言われてますよ。ちゃんと新しい着替えも持ってきましたから。」
「あ、じゃあ…シャワーを浴びたいです。」
「この部屋は浴槽もあるはずなので、そっちにしましょう。すぐに用意しますね。」
浴槽に湯を張ってもらい、湯船に浸かる。
全身が温かいお湯に包まれる感覚が、なんとも心地良い。
入浴の付き添いと言われて少し恥ずかしく思ったが、基本的には1人で入浴させてくれた。
万が一があってはいけないから、とハンナは部屋で待機してくれている。
湯船に浸かったのなんて、いつ振りだろうか。
この星に来てからは、初めての事だった。
(本当に気持ち良いなぁ…お風呂、好きなんだよね。今後もラキエルに頼んだら、入れさせてもらえるかな? でもラキエルが部屋に居るときに入るのは…なんだか恥ずかしいし…)
「リリシアさん、大丈夫そうですか?」
「はーい、平気です。もう少し浸かっていても良いですか?」
「大丈夫ですよ、のぼせないようにだけ気をつけて下さいね。」
定期的にハンナが声を掛けてくれる。
おそらく湯船でまったりし過ぎたせいで無音となり、心配してくれたのだろう。
入浴を終え、ハンナが持ってきてくれた新しい下着と部屋着を身につける。
「ハンナさん、すごくさっぱりしました。色々とありがとうございます。」
「良かったです、何かあればすぐ連絡して下さいね。それでは、お大事に。」
ハンナが去った後、デバイスを確認するとラキエルから「後でハンナさんが行く」とメッセージが入っていた。
「来てくれて、今戻ったよ。連絡遅くなってごめんね。」と返信すると、すぐに着信があった。
「さっきハンナさんから連絡あった。熱上がったって? 食欲は?」
「1晩眠れば回復するから大丈夫だよ。お腹は少し空いたから夕食はとれると思うけど、あまりこってりした物は食べたくないかも。」
「わかった。食べやすそうなのにする。他に欲しいものは? アイスは?」
「アイス…食べたい。」
「他にも思いついたらメッセージ入れておいて。18時過ぎには帰るから」
「うん、わかった。待ってるね。」
今夜の事を考える。
ここでお風呂に入り、部屋着を着て、ベッドに入っている。
おそらく今夜は、このままここで眠る事になるのだろう。
以前、一緒に眠りたいと言ってみた時はラキエルに断られたが、その時とは状況が違う。
彼は純粋にリリシアの身を案じ、ここに置いてくれている。一切の下心無く。
でも、どうしても想像してしまう。
このベッドでラキエルと一緒に眠る事を。
広いベッドだから離れて眠る事も可能ではあるだろう。
(でも一緒のベッドに入ったら…絶対に離れて眠るなんて無理だと思う。隣にラキエルが居たらきっと、くっつきたくなっちゃうし…くっついたら…どうなっちゃうんだろう…)
また熱が上がるような事を考えてしまった事を反省し、おそらく自分の体温を下げてくれるであろうアイスクリームに思いを馳せ、早く来ないかな、と楽しみに待つ。
アイスクリームを運んで来るのは、確実に彼女の体温を上げる存在だが、その事に気づくのはもう少し先の話だった。




