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昇進の理由は邪だし、ご褒美も貰うよ

 宙軍の一部の者が地上に一時帰還した折を見て、ミルズアース軍本部では表彰式が執り行われた。

メラーニ侵攻の際、功績を上げた者に対し勲章が授与されたのだ。

主に宙軍に所属する者が多数を占めたが、応援に向かった他の軍部や、医療課の者も数人含まれた。

地上に残った者からは唯一、ラキエルが勲章を授与された。

誰もが認める、当然の結果だった。


 ラキエルはこれまでも、主に兵器開発において多大な功績を残してきたが、他の者に比べ年齢が極端に若く、部隊の全責任を背負い指揮を執る立場に置くのは適当でないとして、成人するまでは表向きの昇進をさせない事が、上層部と本人との間で合意されていた。

だが直近で彼が参加するプロジェクトでは実質的に指揮を執っていた事や、侵攻時においては惑星防衛システムを動かす為の提案から組織設計、運用までを自ら行ったとして、成人した者と同様に評価・昇進させる事となったのだ。


 ラキエル本人は、昇進には正直興味が無かったし、有事の際に部隊の責任者とされるのは面倒だな、と思っていた。

だが彼の気持ちを変えた悪魔の囁きがあったのだ。


「今のあなたなら十分に務まると思うけれど。あと…そうね。忘れているみたいだから良いコトを教えてあげるわ。下級士官と上級士官では…違うのよ? 寮の部屋の豪華さがね。ベッドも大きくなるし、部屋にソファーや応接セットだって置けるわ。とってもゆったりと快適なお部屋時間を過ごせるのよ。日当たりの良いバルコニーもある。どう?」

「わかった。昇進しても良い」


 フリージアはほくそ笑んだ。

ラキエルったら、いつからこんなにチョロくなったのかしら、と。

チャド元帥を始め、他の上級士官達も、人知れず胸を撫で下ろした。


 そんなこんなで快適なお部屋時間にまんまと釣られ昇進を承諾し、元々裏では密かに中尉相当とされていたラキエルはこの度、大尉となった。

表向きでは下級士官の一等であった為、前代未聞の三階級特進である。

上層部の思惑としては、これ以上の功績を重ねられて裏で階級が上がると、成人した瞬間に何階級特進させれば良いのか未知数で周囲への示しがつかない、という悩みもあったのだろう。

この男は、更に功績を上積みしかねない、非常に危険な人物だ。


 表彰式の後は、ささやかなパーティーも開かれた。


「ラキエル博士、大尉昇進おめでとうございます!」

「これからはラキエル大尉って呼ばなくちゃですね。」

「タイラーさんも少尉になったんでしょ? おめでとう」

「ありがとうございます。いやぁ、結構照れるもんですね…」


 少しの間、会場に滞在していたラキエルだったが、一通りの面々と話し終えると、出口に向かった。

フリージアを見かけ、足を止める。


「ラキエル、本当におめでとう。あなたのこと誇りに思うわ。ねぇ、良ければ明日、夕食でもどう?」

「…わかりました。俺も話があります」

「ふふ。あなたが食事に応じてくれるなんて。じゃあ19時に、私の家に来て。彼女も一緒に、どうぞ。」

「承知しました。明日19時に伺います、フリージア少佐」

「なぁに? その話し方。じゃ、よろしくね。」


 そうして立ち去るフリージアを見送ってから会場を後にしたラキエルは、リリシアを待たせている自分の部屋に戻った。


「ごめん、リリシア。遅くなった」

「あ、ラキエル。おかえりなさい、表彰式すっごくカッコよかったね。昇進おめでとう!」


 そう言ってリリシアは、ふんわりと柔らかい笑顔をくれる。

彼女は現状、軍の所属ではない為、表彰式には出れなかった。

だが軍の内部からはモニター越しに式の様子を見る事が出来たので、それを見てくれていたのだろう。


「ありがとう。ご褒美ちょうだい」

「ご褒美? 何が欲しいの?」

「キス」

「え!わ、わかった…じゃあ、ちょっとかがんで…?」


 少しかがんだラキエルの頬に、リリシアはキスを贈った。

ラキエルは一瞬嬉しそうな表情を見せるが、すぐに無表情を装い、ご褒美に対するクレームを入れたのだった。

ちなみに、嬉しそうな表情をしてから無表情になるまでの一連の流れは、ばっちりリリシアに目撃されていたのに、そんな事はお構いなしに堂々とクレームを入れる。


「そんなんじゃダメ。もっと、ちゃんとしたやつ」

「えぇ? でも今ラキエル、嬉しそうな顔してたよ?」

「それは条件反射だから。ちゃんとしたキスちょうだい」


 そう言いながら、ラキエルはかがむのを止めて、リリシアを軽々と抱き上げた。

少し遅い成長期が訪れたのかラキエルの背は急に伸び、真面目に毎朝のトレーニングも欠かさないので、若干逞しい身体つきになっていた。


「わぁ!もう、びっくりするよ…じゃあ…その…キスするから、目を閉じて?」

「ダメ。キスする時のリリシアの顔を、じっくり観察するのも含めてご褒美だから」

「もう!わがままばっかり言う!恥ずかしいのに…」

「恥ずかしがりながら、俺の唇にちゃんと自分の唇くっつけるとこ、見せて。軽くじゃなくて、ちゃんとね」


 ラキエルはこの短期間で外見も大人びていたが、意地悪さにも更に磨きがかかっていた。

もう完全に勝てる気がしない。

諦めたリリシアはラキエルの顔を両手で挟んで潰し、変顔を作るという非常にささやかな抵抗を見せたあと、ちゅ、と彼からオーダーされたちゃんとしたキスを贈る。

ラキエルは満足そうに笑うと「ありがと」と言って、リリシアを抱えたまま椅子に座った。


 2人のちゃんとしたキスは、未だにこの健全で初々しいキスのままだった。


 巨大海中槽でデートした日は結局、夕食後にラキエルが緊急で呼び出され仕事に戻った為、リリシアはあれ以上の辱めから逃れる事が出来た。

翌日以降も、リリシアが試験の予定を入れていたり、調査レポートの件で呼び出されたり、ラキエルは昇進関係でお偉方の会議に呼び出されたり、ラボから質問の嵐を受けたりで、すれ違いが多かったのだ。

でもラキエルは結果的に、それで良かったのかもしれない、と思っていた。


 きっと一度知ったら戻れそうにないし、その流れでもっと先を求めてしまいそうだから。


「そういえば明日、フリージアの家に夕食に招かれてる。リリシアも一緒に」

「フリージアさんの家? 私も一緒に…?」

「うん。実は…フリージアは俺の保護者なんだ。関係的には叔母。俺がリリシアと付き合ってる事は把握済みだと思うけど、ちゃんと自分の口から報告しておきたくて」

「そうだったんだ!知らなかった…でも一緒には暮らしていないんだね。」

「俺が、ちゃんと甘えられなかったから。昔は一緒に暮らしてたけど、軍に来てからは寮に入ったし、軍に入る前も俺が研究ばかりであまり顔は合わせてなかった」

「そっか…でも少し納得。だからフリージアさんは、いつもラキエルの事を心配して、見守ってくれていたんだね。」

「そうなんだと思う。明日、一緒に来てくれる?」

「もちろんっ。一緒に行くよ。」

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