お時間10分前です
「あと10分でお終いだよ」
「うん…」
「怒ってるの? もっと見たいの?」
「怒ってないよ…もっと見たい。」
「また今度、一緒に来よう。ここが好きなら水族館も好きだと思うから、そっちも別の機会に行こう」
「うん。」
もっと見たいのもあるけど、この狭い空間に2人で居ると、世界で2人きりしか居ないみたいに感じて、嬉しかった。
ラキエルは普段優しいのに、たまに…急にすごく意地悪をしてくる。
わざと恥ずかしがらせて来たりする。
リリシアも、たまには同じような事をしてラキエルを追い詰めるし、それが結構楽しいのも知っている。
でも、彼が本気モードに切り替わって攻めてきた時には全く敵わないのだ。
(あと10分…ラキエルに少しくっつきたいけど…でも、さっきよりも凄いこと、されたら? 私、ラキエルになら何されても嬉しいって言ったのに…実際、あんな事されたらすごく恥ずかしいなんて…)
全然嫌ではなかったが、身が持たないと思った。
自分がラキエルの部屋に泊まりたいと言ったときの、ラキエルの様子を思い出す。
(あのときは…ラキエルも、こんな気持ちだったのかな…もっと進みたいけど、進むのが少し怖い…みたいな。)
「リリシア、こっち来て。何もしない。我慢するから」
ラキエルが縋るような目でこちらを見ていた。
さっきあんなに意地悪してきた人とは、まるで別人のようだ。
自信なさげに眉を下げて、紫色の瞳に懇願の色を乗せて、こちらの様子を伺ってくる。
子犬のようで、とっても可愛い。
「…失礼します。」
リリシアはラキエルの隣ではなく、彼の上にゆっくりと腰を降ろす素振りをみせる。
ラキエルの部屋で、一緒に椅子に座ってくっついたときのようなポジションだ。
彼はすぐにリリシアの意図を理解し、少し後ろに下がると優しく受け止めて、自分の足の間に座らせてくれた。
さっき意地悪された仕返しとばかりに、彼に寄り掛かるように体重をかけてみるが、意外とびくともしない。
後ろからラキエルの腕がまわされ、そっと抱きしめられる。
それから、また頬を合わせてすりすりとされた後、頬に口付けをされた。
「あ…やば。もしかしてこれ、何かしたうちに入る?」
「どうかなぁ、ラキエルはどう思う?」
「無意識だったから、ノーカン」
目の前で優しく微笑む彼が、好き。
ラキエルが好き。意地悪されても…好き。
もうすぐ遊覧ポッドの終着点だ。
静かに止まり、ロックされていた扉が開いた。
「お楽しみ頂けましたか? お帰りは、あちらのエレベーターです。」
建物の外に出る頃には日が傾きかけており、遠くに見える夕焼けの色が美しい。
「夕飯も外で食べてく? でも朝から出てたから疲れたか」
「そうだね、さすがに少し疲れたかも。夕飯は寮で食べよっか…その…ラキエルの部屋で。」
ラキエルはリリシアを見て、笑顔を見せる。
口端だけ少し上げて、目は笑っているというよりは、獲物を狙うような目だ。
「早く帰ろう。早く帰ってご飯食べて、歯磨きしないと…ね?」
「もう…ラキエル、また意地悪する気でしょ…」
「意地悪じゃないよ。嫌ならやめる」
「嫌じゃ…ないよ。」
そう言って少しだけ睨みつけてくる可愛い彼女の手を握って、軍本部への帰路についた。




