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もう、どこかに監禁して好き勝手するか?

 好きな人に好きと伝えて、同じ気持ちが返ってくる。

どんなに近づいても、触れても拒絶されず、むしろ嬉しそうな反応をかえしてくれる。


(まじで…やばいな。幸せ過ぎる。俺、死なないよな?)


 こんな幸せな気持ちに全く免疫の無いラキエルは、常に根拠の無い不安に悩まされる。

ちらりと横を見る。手を繋いだ先、隣に居るのは愛しいリリシア。

出会ってからずっと欲しかった、やっと手に入れた。でも、もっともっと彼女が欲しい。


「これって、もしかしてどこかに向かってるの?」

「一応行き先決めてある。着いてからのお楽しみで良い? たぶん、喜んでくれると思う」

「うん、わかった。楽しみにしてるね。」


 ラキエルがリリシアを連れて来たのは、無機質な四角い建物だった。

入り口にはゲートがあり、ラキエルがデバイスをかざすと入場する事ができた。

中には上品なスーツに身を包んだ男が立っており「こんにちは。こちらにどうぞ。」と丁寧にエレベーターまで案内される。


 エレベーターは二人を地下に運ぶ。

降りた先は、地下だと言うのに一面ガラス張りで、水で満たされたそこは巨大な水槽のようだった。

中には様々な生物たちが、ゆったりと泳いでいる。


「す、すごい!ラキエル!ここは、何??」

「ここは海洋生物研究所が運営している、巨大海中槽。昔、海の中の生態系を再現するプロジェクトがあって、その名残。今は一般公開されていて、水族館みたいに見学できる。けど完全予約制だから、空いてて良いでしょ」


 リリシアはラキエルをちらりと確認する。

ラキエルに止める様子は見られ無い為、自由に見学して問題ないのだろう。

終わりの見えない大きな水槽のガラス面に張り付き、中をまじまじと見学する。


「わー、これ本当に水槽? 全然終わりが見えないね…海の中につながってるとか?なんだか、こっちが水槽に入ってるみたい。」


「確かに、言えてるかも。海には繋がってないよ、ここからだと海まで少し距離があるから」

「あの中で動いてるポッドみたいなのは? 人が乗ってるの?」

「うん、あれに乗って中の見学が出来る。俺たちも乗れるよ。行こ」


 ガラスからリリシアをそっと引き剥がし、彼女の手を引いてポットの乗り場へ向かう。

巨大海中槽に備え付けられた遊覧ポッドは、大人6人ほどがゆったりと乗れるぐらいのサイズで、搭乗口と床底の2面以外はすべて曲面ガラスで出来ていた。

中にはぐるりと手すりがついており、ポッドの真ん中には背もたれの無い座席も備えられていた。


「15分刻みで1時間まで選べるけど」

「1時間!がいいなぁ。」


 彼女に悩む素振りは微塵も無く、即答だった。

遊覧ポッドの扉がロックされ、静かにゆっくりと、海中に溶け込むように動き出す。

手すりに手をかけて、桃色の瞳を大きく見開いた彼女は、初めての水中世界に満足してくれたようで周囲の移りゆく景色に次々と目を奪われる。


 そんな彼女の様子をしばらく目で楽しんだ後、ラキエルも彼女の隣に並んで水中内を観察する。

幼い頃に1度だけフリージアに連れてきてもらった事があるが、その時の自分は目の前の彼女のように楽しんではいなかっただろう。

ただ、資料で得た知識の通りの生物である事を目視確認した、それだけだった。

あの頃と同じ水槽のはずなのに、今日は全く違って見える。

揺らめく気泡、色とりどりのイソギンチャク、体をキラキラと光らせて泳ぐ魚、雄大に泳ぐ軟骨魚綱。

全てが美しく、かけがえの無い物に見えた。


「エイってあんなに大きいんだ…なんか圧倒されちゃった。自然ってすごいね。」

「うん、すごい。知らなかった」

「え?」

「こんなに感動するものだって、知らなかった」


 リリシアが不安そうに、こちらを向く。ラキエルは寂しそうに笑った。

片手を手すりから一度離し、彼女の向こう側にある手すりを掴む。

腕の中に閉じ込め、逃げられなくしてから頬を寄せる。

おでことおでこをくっ付けて、それから鼻の先で彼女の鼻をつつく。


「感動も、食事の美味しさも、好きな人に好きって言える喜びも、全部リリシアがくれた。リリシアのお陰。好きだよ… ねぇ、キスしたい。キスして良い?」


 至近距離で触れ合いながら見つめ合って、彼女にお願いをする。

彼女は一瞬だけとろんとした目をして、そして…何かにハッとして、拒絶するようにラキエルの胸をぐいっと押した。


「だ、ダメッ…!」

「…」


 まじかよ、今のイケる雰囲気だと思ったのに、ダメなの?なんで?調子乗りすぎた?普段あんなに煽るくせに直前でこれ?そーゆう作戦?むり、死ぬ…保たない。

もう、どこかに監禁して好き勝手するか?

衝撃で言葉が出ないが、自分の眉間にシワが寄るのを感じる。

バレない監禁計画を立てるのに脳のリソースを割いていると、おそらく酷い顔をしていたのだろう、慌てたリリシアが弁明をする。


「ち、違うの!ラキエル!あのね、その…ランチの時に、にんにくを食べたのを思い出して…私、くさいかなって…だから、歯磨きしてから!ね?」


 なんだよ、そんな事か。

危うく行方不明事件が発生するところだった事を、この可愛い人はわかっているのだろうか?


「…嫌じゃないって事? じゃあキスしても良い?」

「い、嫌じゃないよ!すごく嬉しい…けど、でも今はっ」

「それなら、もういいから黙って」


 彼女の言葉を遮り、後頭部を押さえつけ、逃げられないようにして、少し強引にその唇に触れた。自分の唇で。

優しく合わせるように味わった後、それよりも少し強めに押し付けてみる。


「んっ…!」


 可愛い声を漏らしてガチガチに身体を硬直させる彼女の背中に、もう片方の手をまわす。

ぎゅっと背中の手に力を込めて彼女の身体を自分に押し付けて、何度も何度もついばむように、その唇の柔らかさを堪能した。

桃色の瞳を潤ませて、目の周りは羞恥心からか真っ赤になっている。

可愛い。可愛い、俺のリリシア。


 彼女に優しくしたいのに、強引に手に入れた事実に、正直言って興奮している。

心からの笑顔に欲情を乗せて、彼女にお強請りをする。


「ハァ…かわいい。ねぇ、もっとナカまで味わいたい」

「なっ…中まで…!?」


 彼女の可憐な唇を、舌の先でぺろりと舐める。


「ひゃっ!も、もうダメ、許してぇ…」

「何されても嬉しいって、リリシアが言ったんだよ。じゃあ歯磨きするまで待ってあげる。続きは寮に帰ってから、ね?」


 そう言って上機嫌で彼女を開放し、中央のベンチに腰を下ろす。

そろそろ一度離れて落ち着かないと、今以上に暴走してしまいそうだ。


「リリシアもこっち座ったら? くっつく? どうなっても知らないけど」

「くっ、くっつかない!もう!ラキエルの意地悪!」


 怒った様子の彼女は、遊覧終了の10分前になるまでは、くっついて来なかった。

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