何この無愛想なイケメン可愛い
「え、高っ…」
健全で一般的な学生であるスイは後悔していた。
この星の学生は、学習内容の密度が濃い為、学生である間にアルバイトをする者は滅多にいない。
全く居ないと言ってもいい。
そんな時間の余裕はない。
つまりは、もれなくお小遣い制である。
全員同じぐらいの年齢だろうからと完全に油断していたが、ジェレミーおすすめのこの店は、普段学生同士で入るような価格帯の店では無かったのだ。
普通に注文したら1ヶ月分のお小遣いの1/3が吹き飛ぶ。
ランチコースが大々的にメニューに記される中、端から端まで確認すると、一応パスタ単品でも注文は可能なようだ。
(単品なら…ギリ…行けるか…?)
「今日、俺出すから平気」
「え!でも、そんなの悪いです…」
「今日、リリシア初めて学校行って不安だったと思うから。スイさんが一緒に居てくれて安心したと思う。そのお礼、させて。好きなの頼んで下さい」
「そう、スイが話しかけてくれて嬉しかった…ありがとう。ラキエル、ありがとう。」
「だそうだから、遠慮しないで」
「じゃあ…お言葉に甘えちゃいますよ? なんか、すみません…」
「私は、これ…食べてみたいけど、こっちも…うーん。」
リリシアはパスタと、見たことのない平たい食べ物で悩んでいる。ピザだ。
ちなみにリリシアは生活費の他に、軍の研究課からアドバイザリーの報酬も出ている為、金銭感覚は大人のそれに近いだろう。
「リリシア、パスタとピザどっちも選んで良いよ。で、どっちも食べたら。俺、余ったの貰うから」
「ラキエル、選ばなくて良いの?」
「うん、リリシアが食べたいやつが食べたい」
この無愛想で無表情なイケメンは、彼女にはとことん甘いようだ。
一生懸命メニューと睨めっこするリリシアを見て、愛おしそうに目を細めたのをスイは見逃さなかった。
(わー、めっちゃ両想いだ…こっちまで照れる。)
注文したコースが始まり、前菜から順に料理が運ばれる。
ラキエルは最初あまり話さず、リリシアとスイが楽しそうに話すのを見守っていた。
「ピザ? 初めて食べたけど、美味しい〜。このモチモチの生地から小麦粉の良い香りがして、にんにく?も変なニオイだけどクセになる…!」
「ピザ初めてなの? そっか、移民って言ってたもんね。ここに来てから、どれぐらい経つの?」
「まだ半月ぐらいかな?」
「もしかしてラキエルさんもリリシアと一緒に…?」
「いや、俺はこの星出身。リリシアと会ったのは半月前が初めて」
「じゃあ二人はまだお付き合いしたばかりなんですね。出会って半月で、もう付き合ってるって、なんかすごいね!」
「お付き合いしたのは3日前ぐらいだよ。好きになっちゃったのは…来てすぐぐらいだったけど…」
ラキエルの無表情が若干崩れ、明らかに顔が赤くなる。
なんだ、この無愛想なイケメン。可愛いぞ。もう少しイジりたい。
「ラキエルさんは、いつからリリシアの事好きだったんですか?」
この答えはリリシアも知らなかった。
ラキエルの回答が気になり、ピザを食べていたナイフとフォークを皿の上に置いた。
「俺は…たぶん…初めて見た時…一目惚れ、した。その後、話してくうちに…どんどん好きになって…」
そこまで言ってラキエルは、下を向き両手でフードを引っ張って顔を隠した。
リリシアとスイは「え?なにこれ、ヤバ可愛くない?」とお互いに頬を真っ赤に染めて目で語り合ったのだった。
食後のデザートを済ませ、女性陣は紅茶を。ラキエルは珈琲を楽しむ。
そしてまたイジられる前に無難な話題を出しておこう、と考え今更な質問をした。
「今日の試験は、どうだった?」
「私は、出来たよ。昨日、ラキエルに説明してもらったところが丁度出て、あれ独学だけじゃ解けなかったかもって思った。スイはどうだった?」
「私は1科目落としちゃって追試…すごく苦手なところがあって…」
「高等科の理系科目なら教えられると思うけど、どのへん?」
「えっと、物理なんですけど…ここの…」
「あぁ、これは…」
ラキエルの説明は教員よりもわかりやすく、丁寧だった。
スイに確実に理解できるように、複数の異なる視点からの説明を重ねる。
リリシアも夢中になって、ラキエルの説明を聞き入る。
「はぁ…リリシアもすごいと思ったけど、ラキエルさんもめちゃめちゃ頭良いんですね。若く見えるから最初、同い年ぐらいかと思っちゃいました。」
こんな店をご馳走してくれると言うし、通学している様子も無いが高等科の学習内容は余裕そうだし、珈琲をストレートで飲んでいる。
確実に大人だ。
小柄だし、少年のように見えるが。
「どうかな…秘密。そろそろ出ようか」
会計を済ませ、店を出る。
ラキエルとリリシアどっちが支払うかで若干揉めていたが、結局ラキエルが済ませていた。
「今日はご馳走様でした、勉強も教えてもらっちゃって…本当にありがとうございました。リリシア、良かったらまた遊んでくれる?」
「うん!私もスイと遊びたいな。今日は本当にありがとう。あの…スイ…私とお友達になってくれる?」
「え!私、もう友達かと思ってた… もちろん、こちらこそよろしくね、リリシア。」
「そっか!良かったぁ、またね、スイ!」
「じゃあ。気を付けて」
リリシアとスイが手を振り、分かれる。
ラキエルは棒立ちのまま、首だけの会釈で簡単に挨拶をすませる。
本当に無愛想な人だった。でも優しい人だった。
リリシアの事を本当に大切にしている事が伝わって、スイはなんだか嬉しい気持ちになった。
少し歩いたところでスイが振り返り目にしたのは、仲良く手を繋いで歩く二人の後ろ姿だった。




