彼女以外の女性を食事に誘ってみた
翌朝のトレーニングは少しだけ早めに切り上げ、朝食も軽いもので済ませる。
8時には敷地の外に出て、ラキエルの家に寄ってから9時開始の試験に間に合うよう、街を目指した。
「朝早くから付き合わせちゃって、ごめんね。」
「平気。俺が送迎したいだけだから」
リリシアは今日は中等科の制服に身を包んでいた。
年齢に合わせたものだろう。
とてもよく似合っている。
彼女の小さな唇に視線が吸い寄せられる。
昨晩ほど、仮面の存在を邪魔だと思った事は無い。
俺のリリシアの唇を奪った、己の仮面。
仮面相手にも嫉妬出来る自分に呆れて苦笑する。
あれは、キスしても良いって意味だよな? 彼女の言動に心が乱されっぱなしだ。
本当に何しても嬉しいって思ってくれるのだろうか。
どこまで許されるのか…恋愛初心者のラキエルには全くわからなかった。
でも決意した事が1つだけある。
(今日こそは俺が絶対に、直接リリシアの唇を貰う)
「また終わる頃に迎えに来るよ。試験、頑張って」
「うん、ありがとう。いってくるね。」
校門から少し離れたところまでリリシアを送ったラキエルは、彼女が他の生徒達に紛れて校門をくぐるところまでを見守っていた。
人の流れに乗り、リリシアは初めて学校に足を踏み入れる。
大きくて綺麗な校舎は、全体的に白を基調としているが、ところどころに色とりどりの基本色もバランス良く散りばめられ、若者達の学び舎である事が象徴されている。
友達同士で仲良く行動する者も見え、リリシアは少しだけ羨ましく思った。
指定された教室に向かい、着席すると隣の席の学生が声をかけてきた。
「ねぇ、あなたの髪、とっても綺麗で珍しい色合いだね。その制服、中等科でしょう?何年生?」
「ありがとうございます。私、まだ中等科には上がれていなくて初等科なんです。」
「そうなんだ、今いくつ? 私は14歳で高等科の1年生だよ。」
「私も14歳です。」
「じゃあ同じぐらいなんだね。私はスイって言うの、よろしくね。今、初等科って事は身体が弱くて入院していたとか…?」
「いえ、身体はとっても丈夫です。私、他の宙域からの移民なんです。最近、受け入れてもらって…勉強の機会を頂いて、ここに来るのは今日が初めてなんです。知り合いもいないし、少し不安だったから、話し掛けてくれてありがとうございます、スイさん。私はリリシアって言います。」
「今日が初めて? 授業は受けていないの? …あ、そろそろ始まる。また後で聞かせて!」
ミルズアースの学科試験は、学科も年齢もランダムに決められた教室、座席で行われる。
試験内容も、難易度は同等となるようAIが個別生成する為、カンニングも無意味だ。
この仕組みは、軍の総務課にある試験用ブースで受けても同様だった。
45分間の試験と試験の間、15分ずつの休憩時間でリリシアとスイはおしゃべりに夢中になっていた。
「独学? しかもこの短期間で、そんなところまで試験を合格してるの? 信じられない…リリシアってすっごく頭良いんだね。そのペースだと、同じクラスになるどころか抜かされちゃいそう。」
「学ぶ事は楽しいから好きだし、勉強見てくれる人がいるから。」
「それって彼氏? リリシア今、恋するオトメ〜って顔してた!」
「えっ!? あっ…うん…そうなの。大好きな人。」
「いいなー、羨ましい!ね、私リリシアの事もっと知りたいな。試験の後、良ければどこかでお茶しない?」
「私も、もっとスイと話したいな。でも今日は先約があって…ごめんなさい。良ければ後日、また会ってくれたら嬉しいな。」
「うん、そうしよう!じゃあさ、連絡先交換しよ。」
連絡先を交換した二人は、試験の後も仲良く話しながら教室を後にした。
校門までの間、スイは高等科の制服を来た何人かから声をかけられ、簡単に挨拶を交わす。友達だろうか。
リリシアも、彼女と仲良くなれたら…友達になれたら良いな、と期待していた。
校門を出ると、門から少し離れたところで、こちらに向けて軽く手を挙げるラキエルを見つける。
「ラキエル!いつから待っててくれたの? ごめんね。」
「平気。…リリシアの知り合い? どうも」
「こっ、こんにちは!」
「さっき知り合った、スイだよ。」
「そうなんだ。試験お疲れさま。荷物貸して、持つ」
ラキエルに半ば強引に荷物を奪われていると、スイがリリシアに耳打ちする。
「え、この人? リリシアのカレ? めっちゃイケメンじゃん…!フードで顔隠れちゃってて、もったいないね。」
「うん、恥ずかしがり屋なの。」
ラキエルは今日もキャップとフードを目深に被っていた。
挨拶するも名乗りもせず、愛想笑いも一切なく無表情で感情が読めないが、顔の見えている部分は只ひたすらに整っていた。
ラキエルはリリシアが嬉しそうにスイを紹介した事や、二人のやり取りの様子を観察し、少し考えてから口を開いた。
「お腹空いてる? ご飯食べに行こう。スイさんも、良ければ一緒に」
「え、いいんですか?」
「うん。リリシアが喜びそうだから」
「わー、それすっごく嬉しい!スイ、来てくれる??」
「じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔しちゃおうかな!」
「イタリアンで良い?知り合いに聞いたオススメのとこ、今日行こうと思ってた。別なもの食べたければ、他でも良いけど」
情報源は、毎度お馴染みジェレミーである。
「…イタリアン!うん。」
リリシアはイタリアンが何か良く分かっていなかった。
「はい、私もイタリアン大好きです。」
「じゃあ決まり。行こ」




