仮面は俺の味方だと思ってたけど敵だったわ
なんだ?なんなんだ?
こんなに好きなのに、あんなに可愛く、あんな事言われたら、我慢できない。
ゆっくり進もうと努力しているのに、本当に抑え切れなくなる。
なんで、あんなに抵抗しないんだ?
なんで、全部受け入れてくれるんだ?
なんで、部屋に泊まったんだ?俺の事叩き起こしてでも自分の部屋に帰るべきだ。
もう本当に、彼女の事が好き過ぎて、おかしくなりそうだ。
大事にしたいのに。
自分の思うままに、彼女を閉じ込めて、酷いこと沢山したい。
めちゃくちゃに、したい。
走って軍部の演習場付近まで来たラキエルは、むさ苦しい軍人たちが夜の訓練に励むのを目に焼き付け、心を落ち着かせるのだった。
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(また…やり過ぎちゃったかな…でも、本当の事なのに。)
1人、ラキエルの部屋に残されたリリシアは自分の顔を両手で覆い、深いため息をついていた。
ラキエルを好きになって、手を繋いで、恋人同士になれて、くっついて…
でも、もっともっと。もっとラキエルが欲しいと思ってしまう。
どんどん欲張りになる、こんなに心の底から何かを欲しいと思った事は今までに無かった。
昨日、彼の部屋に泊まってしまった事を思い出す。
(また…一緒に眠りたいな…一晩中抱きしめられて…朝まで…)
また今夜も彼のベッドで一緒に眠りたいと打ち明けたら、どんな反応をするだろうか?
また突然どこかへ走り去ってしまう?
さっきも自分の言葉に顔を真っ赤にして、いつも綺麗なその紫色の瞳の奥を欲に染めて、それを懸命に耐えるように、隠すように部屋を出て行ってしまった。
おそらく…彼も自分と同じように、もっと欲しいと思ってくれていて、その上でなぜかそれを我慢してくれているのだろう。
(ラキエルに欲しがられたら嬉しいのになぁ…我慢…しなくていいのに。)
そこでリリシアは自分の失敗に気付いた。
告白の時も受身でいて後悔した。
今回も「何されても嬉しいと思う」と伝えただけで、自分から何かしたいと伝えていない。
(そっか。私が、ちゃんとどうしたいか伝えれば良いんだ。そうしたらラキエル逃げないで居てくれるかも。)
リリシアはラキエルが帰ってきたら、ちゃんと自分から具体的に何がしたいか伝えてみよう、と決意するのだった。
この決意により、ラキエルがこの後、瀕死の重症を負う事になるとは知らずに…
「ただいま…」
「ラキエル、おかえりなさい。どこまで行ってたの?」
「軍部の…演習場」
「なんで!そんなところまで…」
「なんとなく…急にいなくなって、ごめん。勉強してたの?」
「うん、また聞きたいところあるんだけど、教えてくれる?」
隣に来たラキエルに勉強を見てもらいながら、ちらりとラキエルの髪に目をやる。
仮面を被って走っていたのか、ふわふわのくせ毛が汗でしんなりしている。
真面目に教えてくれるラキエルの横顔から、目が離せない。
(かっこいいなぁ…)
22時前になると、ラキエルが部屋まで送ると提案してきた。
「あのね、ラキエル。お願いがあるんだけど。」
「なに?」
「また、ここで一緒に寝ちゃダメ?」
「っ!…ダメ」
「どうしてダメなの? いや?」
「嫌じゃない、一緒に寝たいけど…ダメ」
「今朝までは一緒に寝てたのに…どうしてもダメ?」
「くっ…!ど、どうしても…ダメです。今朝のは、その…事故だから」
(少しだけ揺らいでる…? これは、もっと押せば行けるかも!)
「私、ラキエルとくっついて一緒に寝たいの。」
「っ!!あぁ!もう!ダメ無理しぬ…ほんと…勘弁して下さい…」
ラキエルは心臓のあたりを押さえ、その場にしゃがみ込んだ。
「ごめん、本当に…勘弁して…許して。まだ、俺の心臓が…保たない、から…」
結局、リリシアに許してもらい彼女を部屋まで送る事が出来た。
部屋に入る直前、彼女の綺麗な顔が急に近くなる。
彼女はラキエルの仮面の口元に静かにキスを贈ると「おやすみなさい!」と足早に部屋に引っ込んだ。
ラキエルはおやすみも言えず、ただ呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。




