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ハジメテの…

 午後の試験が終わる頃、またラキエルが迎えに来てくれた。

それから2人でポッドのある部屋に行き、リリシアは調査レポートを、ラキエルは自身の仕事を進める。


 ポッドに搭載された動力炉の調査レポートの作成は佳境を迎えていた。

途中までジェレミーが進めていた仕事とはいえ、この短期間でここまで纏め上げたリリシアは、やはりかなり優秀な研究者であると言えるだろう。

なんとか定時までにまとめ上げ、ラキエルがチェックに入る。


「すごいね、良くまとまってる。こんな理論は全く思いつかなかったな…ロアの技術力は素晴らしいね。お疲れさま、リリシア」

「ジェレミーさんとラキエルのお陰だよ、私は最後少しだけ…良い所を貰っちゃっただけだもの。」

「それでも十分すごいよ。」


 レポートをフリージアに転送し、併せて試作機の製作着手の申請も行う。

ラキエルは退勤前に、少しだけラボに顔を出した。もちろん、リリシアも連れて。


「おつかれ、ジェイク、いる?」

「はい、ラキエル博士…!お疲れ様です。」

「なんか報告書の件で質問あるって…ジェレミーから聞いた。遅くなってごめん、今から聞ける?」

「は、はい!ありがとうございます!」


 生贄…もといジェイクは、ラキエルの個人研究室で報告書作成にあたって困っていた部分を余すことなく質問し、30分程経つ頃にはとてもスッキリとした顔でラボに戻ってきた。


(え、まじで良い職場じゃん。)


「じゃ、俺今日はもう上がるから。みんなも程々に。お疲れさま」


 そう言ってあの仕事の鬼だったラキエルが、すんなりと帰っていった。

隣には色素が薄めな、綺麗な人。


 ジェイクが不思議に思ったのは、ラキエルの個人研究室で、あの綺麗で小柄な女性も同席し、熱心にこちらの話に耳を傾けていた事。

あの、ラキエル博士が? 個人研究室に女性を連れ込んでいる…?

何かの研究のアドバイザリーの可能性もある為、決めつけるのは危険だが、今まで彼がアドバイザリーをお願いしていたところなど1度も見たことがなかった。



>>>>>


食堂に向かい、日替わり定食を2人分頼む。

出来上がるのを待っている間、ラキエルは明日の予定をリリシアに尋ねた。


「明日も午前中に受けたい試験があるんだ。ラキエルはお休みだよね?」

「うん、休み。試験の後は勉強? それとも…また俺とデートしてくれる?」


 先日の厳戒態勢の辺りから、彼女は勉強尽くめのようでラキエルは少し心配していた。

だが本人が勉強を苦とせずに楽しそうにしているから…しばらく見守るつもりだったが、少しだけ誘惑してみる事にした。


 彼女が勉強すると言えばラキエルも勉強を見る。

デートをしてくれるなら精一杯楽しめるようにエスコートしたい。

どちらにせよ、彼女の側に居られるように約束を取り付けるつもりだ。

少し考えた後、リリシアはラキエルの耳元で希望を伝えた。


「あのね、明日の試験は試験ブースじゃなくて学校に行って受けてみたいの。それで、試験が終わった後はそのままデートしたいな。だめかな?」

「そうしよ」


 ラキエルに、リリシアの希望を断る理由は何も無かった。

夕食が出来上がり、持ち帰り用のケースを受け取る。


「あら、この前の…まだまだ小柄ね。食後のデザートも持っていったら? 保冷ケースに入れてあげるから、何時間かは持つわよ。たくさん食べてね。」


 そう言って半ば強引に、アイスを入れた発泡スチロールのようなケースも渡される。


「ありがとうございます!」


(保冷ケースがあったのか…良い事聞いたな)


 いつものようにラキエルの部屋で2人で夕食をとる。

食後はアイスを食べる。

結局リリシアはこの日になってようやく、ちゃんとアイスをアイスの形で食べる事が出来た。


「冷たくて美味しい!不思議な感じ…」

「まだ食べてなかったんだね」

「ラキエルと一緒に食べたかったから。」


 そう言って、嬉しそうにアイスを少しずつ、スプーンにすくって食べるリリシア。

エミリが以前口にしていた「可愛くて辛い」が、ラキエルは最近嫌と言う程理解出来るようになってしまった。


「そういえば、ランチの時エミリさんに報告していたけど…何か相談してたの?」


 途端にリリシアの顔が赤く染まる。


「えっと…う、ん。そうなの。前に一緒にランチした時にね、ラキエルと…どうやったら付き合えるか、とか。この星の恋愛の手順とか…貞操観念のことを教えてもらったの。」


 ラキエルは絶句した。

前にランチした時って? ジェレミーと2人で食堂に向かった時の事か?

恋愛の手順…貞操観念…そういえばリリシアの星ではどうだったのか、確認する前に色々としてしまった事を申し訳なく思った。

手をつないだり、抱きしめたり、告白したり。一緒に寝たり…


「その…ロアでは…どう言う…」


 動揺で思考が纏まらず、きちんとした質問が紡げないが、リリシアはちゃんと察して答えをくれた。


「ロアでも一緒だよ。恋愛して、結婚する人が多かった。家の都合で結婚することもあるみたいだけど、私の周りではあんまり聞かなかったかも。小さい子は友達同士手を繋ぐけど、ある程度の年齢になったら、付き合ってないとしない。夜に、異性の部屋に行ったりしない…のも同じ。」

「ちゃんと付き合う前に…手を繋いだりして、ごめん」

「それは、私も…ラキエルの部屋に押しかけちゃったり…ちょっと強引だったかなって反省したの。一緒にご飯を食べたかったのも本当だけど、もっと2人きりで過ごしたいって…思って…我慢できなかったの。」


 胸の奥から首にかけてが、なぜかぞくぞくした。

嬉しくて、目の前の人がたまらなく愛しくて。

そして、ほんの少し意地悪が、したくなった。


「ねぇ、リリシア。教えて。恋人はあと、どんな事をして良いの? 結婚するまでダメな事、ある?」

「え、どんな事って…えっと…その…結婚するまでダメな事は…人によると思うけど…赤ちゃんが産まれるのは良くないと思う…」

「人によるの? じゃあ、リリシアは結婚するまで俺にして欲しくない事、なに?」

「ラキエルになら…何をされても、嬉しいと思う。」


 恥ずかしがりながらも真っ直ぐラキエルの目を見据えて放たれた言葉に、ラキエルは見事にカウンターをくらい完全に勝てない事を悟った。

少し意地悪をして、彼女の顔が羞恥に染まる様子を観察してやろうと思ったのに、やられた。

思い返せば、彼女がラキエルを拒絶した事は無かった。

何をしても、恥ずかしがるが受け止めてくれる。


 じゃあこの後、俺が今したいと思っている事をしたら?拒絶せずに受け入れ「嬉しい」と言ってくれる彼女を想像し…


「ちょっと、ごめん。すぐ戻る」


 ラキエルは逃亡した。

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