寝落ちしたら、めちゃめちゃ良い夢見た
夕食の後もリリシアは勉強に励んでいた。
ラキエルがちゃんと休めないのではないかと思い、食後は自分の部屋に帰るつもりだったが「まだ一緒に居たい、ここに居て」と彼に引き止められ、未だ彼の部屋で勉強していた。
彼の飾らない、まっすぐな物言いが嬉しくて、心地よかった。
「ラキエル、ここちょっとわからなくて…ラキエル?」
気付くと、彼は寝落ちしていた。
ベッドの真ん中を横切る様に倒れ、ベッドからはみ出した脚は投げ出されている。
斬新な寝相だった。
リリシアは席を立ち、ラキエルに近づき観察する。
すーすーと寝息をたて、口が少し開いた寝顔はあどけない。
(かっ、かわいい…!)
仰向けの為、長めの前髪もフルオープンであり、おでこが丸出しだ。
こんなラキエルは初めて見た。
そもそも寝顔を見たのは初めてだ。
もっと近くで見たくて、ベッドに片膝を乗せ体重をかける。
少し沈むが、彼に起きる気配は無かった。
そのままもう片方の膝も乗せてみる。
四つん這いでラキエルの顔を覗き込む。
意外と睫毛が長くてセクシーだ。
右眼の周りの痣に手をかざし、それからそっと包み込むように触る。
ゆっくりと瞬きをして、それから手を移動させ、唇を親指でぷにっと押してみる。
(今日、くっついたとき…キスされるかと思った…のに。)
昨日、お互いに想いを伝え合ったときも。
今日、くっついていたときも。
顔を近付けたと思っても、頰やおでこを重ねるだけ、それだけだ。
(もう恋人だから…キスできるよね? どうしてしてくれないんだろう。また…くっつきたいな…)
あの包まれるような幸せを思い出す。
ラキエルの唇を、更にぷにぷにと追撃する。
「んっ…」
(あ、起きちゃう…?)
身体を硬直させていると、うっすらと開いた瞼から綺麗な紫色が少しだけ覗く。
目があった気がするが、眩しそうにしてすぐに閉じる。
セーフだ。
「…やく…こ、っち…」
「へ? ぁっ」
ラキエルの手が腰に回り、そのまま優しく押されバランスを崩すと、彼の首元に倒れこむ。
腰から上がってきた手がリリシアの肩を抱くように、凄い力で引き寄せた。
「!!」
それから彼は寝返りをうつように、もう片方の腕もまわしリリシアを抱き締める。
リリシアは突然の状況に自分の顔を真っ赤に染めるが、抵抗する気は起きなかった。
大人しく、されるがままだ。
「う、ん…リ…ア…」
満足そうに笑うような声を零した彼は、おそらくまだ眠ったままなのだろう。
ぎゅうぎゅうとラキエルの身体に押し付けられたリリシアはちょうどラキエルの首元から胸のあたりに顔を埋める格好で、彼の顔は見えない。
鼻先に感じる彼のにおい、初めて認識したのは採血の時。
あれ以来、たまらなく好きになってしまったにおい。
(ラキエル、中途半端な時間に起きたくないって言ってたから…このまま朝まで寝かせてあげた方が良いよね?)
そう自分に言い訳をして、そのまま彼のにおいを堪能し、まだ厚いとは言えない胸板の感触を楽しむ。
起こさないように、彼に抱きしめられた状態のまま。
(男の人の身体って…なんか筋張ってて…感触が全然違うんだなぁ)
そのうちリリシアにも眠気が訪れ、大好きなにおいと体温に包まれたまま、彼女は意識を手放した。
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目の前にある透き通るような桃色のサラサラに、一瞬ぎょっとするが、すぐに「あぁ、またか」と心を落ち着ける。
彼女を抱えている腕の力を少しだけ緩めると、自分の胸元から離れた彼女の可愛い寝顔が確認できた。
(寝てる…? おかしいな、いつもは起きてるのに)
彼女の顔を、そっと自分の方に向ける。
いつ見ても綺麗だ。
でも今日はいつもよりも柔らかく感じる。
逆に骨であろう部分の硬さも鮮明に感じた。
(恋人になれて…少し触れ合えたから、それで鮮明になったのか?)
しばらく寝顔を見てから、彼女の顔に自分の顔を寄せる。
(次は…キス、したいな。まだ早い? 俺がっつき過ぎ?? もっと、ゆっくり進んだ方が良いのか?)
人を好きになるのも、誰かと付き合うのも初めてだからわからない。
でも遅かれ早かれ、彼女の全部は自分のもので、誰にも渡す気はない。
結果が同じなら、早くした方が沢山堪能できるのでは?
でも彼女が不快に感じたり、嫌われるような事は絶対にしたくない。
(とりあえず…練習しとこう)
彼女の唇に、自分の唇を重ねようとして、直前でピタッと静止する。
彼女の規則的な吐息や、心地よい鼓動を感じたからだった。
(えっ…え?? これ夢じゃない…本物!? な、なんで…!ぅあ、、あぶな…)
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「誠に、申し訳ございませんでした…!」
ベッドの上で土下座するラキエル。
その前に座るリリシアは困ったように笑い、ラキエルの寝癖をふわふわと触ってみた。
「確かにラキエルの力強くて動けなかったけど…起こさないようにしたのは私だし、そんなに謝らないで。私、嫌な事は何もされてないよ。」
「でも…寝るつもり無くて、ちゃんとリリシアの部屋まで送るつもりだったのに…」
「お仕事で疲れていたんだから、しょうがないよ。昨日は全然寝てなかったんでしょ?」
「うん…」
「それに、寝ているラキエルの近くで色々…触ったりしてた私が悪いから。」
「え、触って…?」
「ラキエルに捕まった後も、ちょっと…色々堪能しちゃったし、私の方こそごめんね?」
「あ、あの…具体的には何を?」
「んー、恥ずかしいから、秘密!」
そう言って悪戯っ子のような笑みを浮かべるリリシア。
まだ、いつでも土下座可能な体勢を維持するラキエル。
このカップルの力関係は明白だった。
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その後はジムで汗を流す。
シャワーを浴び、2人で朝食を貰いに食堂に行った。
ラキエルは食堂に行きたくないなどとは、もう言っていられない。
また昨日のような男が現れて、リリシアにちょっかいをかけるかもしれない。
考えてみれば、ラキエルの危機管理が甘かった。
こんなに可愛いリリシアが1人でうろついて、無事で済むわけがないのだ。
食堂以外はラキエルがぴったりと貼り付き送迎していたのに、混雑時間帯の食堂の往復だけはなぜか頭からすっぽりと抜けて、リリシアに甘えてしまっていた。
「本当に私1人でも大丈夫だよ? 何かあったら、すぐに言うから。」
「だめ。これからは俺も一緒か、俺が1人で来る。」
いつもはリリシアの意思を尊重してくれるラキエルだが、この時ばかりは頑なだった。
朝食を食べた後はリリシアが珈琲を淹れてくれた。
久々にかいだ芳醇な香り。
いつもの紙カップではなく、マグで飲むと更に香りがダイレクトに感じられた。
自分の部屋で、仮面をせずにこの珈琲を味わえるようになるなんて思わなかったな、と彼女が与えてくれる幸せを噛み締めた。
リリシアの珈琲を淹れる腕は更に上達しており、もう誰が飲んでも感動する域に達していた。
それからリリシアを総務課の試験用ブースに送り届ける。
今日は昼休憩を挟み15時まで初等科の試験があるらしい。
終わる頃に迎えに来る旨を伝え、ラキエルはラボに出勤した。
「ラキエル博士、おはようございます。先日お送りした報告書、とても丁寧に添削して下さり、ありがとうございました。大変参考にさせて頂きました!」
「おはよ。そういえばあの報告書、すごく良かった。AIチームが今やってる事にも役立ちそうだから伝えておいた。向こうから問い合わせあったら、対応お願い」
「え? あ、ありがとうございます!!承知しました!」
その後もラキエルは何人かに声をかけ、報告書の内容について言葉を交わす。
そうして11時を過ぎた頃、ラボを後にした。




