表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/49

俺の全てを、彼女に捧げる

 後に人は語る。


 突然、見た事が無いぐらい超ご機嫌な空気を纏い現れたラキエル博士が、誰かと電話で話していたかと思うとその後、瞬く間にエネルギー不足を解決してしまった、と。


 彼曰く、どこかから買ったそうだ。

どこから?どうやって?謎は深まるばかりだった。

十分な電力を確保した惑星防衛システムは、最後までこの星を守りきったのだった。


 惑星への直接攻撃も一向に効かず、メラーニは勝機が無いと悟ると撤退して行った。

敵戦艦の半数ほどは迎撃し、またすぐに同じ規模の侵攻は無いだろうと判断され、軍本部内の厳戒態勢は解除された。


 今回ラキエルが提案、運用と改修を行った惑星防衛システムの功績は極めて大きかった。

実践で絶大な効果を発揮した件のシステムは、常時運用を行う事が軍内で正式に決定された。

現在、運用できる技術者は4名と少なく、元々が試作機であった為に荒削りな部分があるが、新たな技術者育成と並行で設備改修も予定され、すべてが整い次第、常時運用がスタートする。


「研修、俺がやっても良いけど、ミランダが適任じゃない?」

「私…ですか?」

「うん、一番筋が良かったし、アウトプットも上手だから。嫌じゃなければ、次の研修はミランダ中心でやって欲しい」

「こ、光栄です!精一杯務めます!」

「ありがと、お願い。何かあれば、俺もサポートするから。マルクは一番イマイチだったから、どうしたらもっと誰もが使いやすいシステムになるか、課題抽出して」

「はい、承知しました!って、博士から降りてくるタスク、完了するよりも新タスクの方が多くて、積み上がってるんですけど!?」

「じゃあ、完了するタスクを増やそう。完了しない理由は?」

「…詰めが甘くて、差し戻し食らいまくるからです。」

「じゃあ、詰めきって確認してから提出して。引っかかることあったら、提出前に聞いて」

「わかりました…」

「俺もう今日は上がるから。お疲れさま」

「はい、承知しました。お疲れさまです、ラキエル博士。」


 厳戒態勢が解かれ、通常勤務に少しずつ戻っていく。

期間中に時間外勤務を強いられた者は、当面は時短での勤務か振替休暇が与えられる。

惑星防衛システムの運用を行うものは、担当できる者が少ないためすぐの調整が難しいが、ラキエルはさすがに働き詰めだった為、フリージアから優先して調整するようお達しが出たのだ。


 昨夜も寝ていないが気分は晴れやかで、スキップしたいぐらいだ。

まっすぐリリシアの部屋に向かい、ノックをする。


「リリシア、来たよ」


 扉はすぐに開いた。


「ラキエル!おかえりなさい。早かったね!」

「ただいま。勉強してたの? 俺教えるから、部屋に来ない?」

「うん、わかった。準備するね。少しだけ待ってて。」

「荷物持つ。いこ」


 通路を歩きながら、隣にいるリリシアの事を考える。

昨日はだいぶ取り乱していたが、今は落ち着いているようだ。


(俺…リリシアと、本当に恋人になったんだよな?)


 未だに、夢だったのではないかと不安になる。

リリシアがラキエルの視線に気付き、こちらに笑いかけてくる。

その表情がどうしようもないぐらい魅力的に見えるのは、それが恋する人間の表情だから。

恋する相手だけに、見せる表情だから。

リリシアは、俺に恋をしている。

そう確信できる程に、彼女は甘い表情を向けてくれた。


 部屋に彼女を招き入れる。

扉が閉まった瞬間、仮面を脱いで彼女を後ろから抱き締める。

彼女は驚いた様子を見せるが、抵抗する素振りは全くない。


「昨日の…嘘じゃないよね? 夢じゃないよね?」

「うん、違うよ。噓じゃなくて夢じゃない、って…私は思ってるけど。」

「よかった…」


 そう言ってまたラキエルは、リリシアの頬に、後ろから頬ずりをした。


「やわらかい…どうなってんだ」

「ふはっ、どうもなってないよ。」

「…そういえば俺…シャワー浴びたい。適当に座って、先に勉強してて」

「うん、わかった。いってらっしゃい。」


 シャワーを浴びながら、リリシアの頬の柔らかさを思い出す。

抱きしめた時の良い香りや、華奢な肩を思い出す。


 それだけでラキエルの身体は反応してしまった。


(…恋人が自分の部屋に居るって、ヤバくないか?)


 いつもはサクッとシャワーを済ませるラキエルだが、この日はなかなか…出るに出られなかった。

なんとか上がり、頭をタオルでガシガシと雑に拭きながらリリシアの様子を伺う。

ラキエルが出てきた事に気付いたリリシアが、振り返る。


「ラキエル、おかえ…ちょっと…ら、ラキエル…!服!着て!」

「え? ああ。ごめん」


 顔を真っ赤にして慌てるリリシアが、すごく可愛い。

謝ったものの、わざとゆっくりクローゼットの前まで歩き、それからまたゆっくりと新しいシャツに袖を通した。


(ラキエル、細いって思ってたけど。私の身体と全然違う、男の人のカラダなんだ…男の…ひとなんだ。)


 頭を拭いていたタオルを肩にかけ、ボトルから水をごくごくと飲む彼の、その喉の動きが妙に男らしく感じ、目が離せずじっと見つめる。

ボトルから口を離したラキエル。

整った顔立ちは、あどけなさと大人っぽさが絶妙に入り交じり、少し眠そうに伏せられた瞼からは紫色が覗いている。

視線に気づいた彼が優しく微笑みながら、こちらに少しずつ近づく。


「どうしたの? リリシア。服、着たよ?」

「う、うん。ありがとう…?」

「あとは? 何かして欲しい事、ある?」

「じゃあ…少しの間だけ…くっついてみたい、な。」


(まじかよ…死ぬかも。殺す気か?)


「…わかった。どうなっても知らないよ」


 そう言って空いている方の椅子を引き、めいっぱいまで深く座ったラキエルはリリシアの手をとった。


「立って。こっち、来て」

「え、どうやって? わわっ!」


 リリシアが言われるがままに立つと、ラキエルが意外な程に強い力で彼女を引き寄せる。

リリシアを自分が座る椅子の上、ラキエルの太腿の間に座らせた。

狭い座面に無理矢理座るので、リリシアの脚はラキエルの太腿の上に乗り上げてしまう。


「ラキエル!重いよ!恥ずかしいし!」

「重くない。恥ずかしいの? 俺も」


 そう言って、また悪巧みを始めたらしい彼は、その顔に笑みを浮かべる。

悪戯好きの美しい悪魔が、彼女に意地悪をする為に再降臨したようだ。


 リリシアが椅子から落ちないように、逃げないように、ラキエルは両腕を彼女に回し、抱え込む。

羞恥に染まる桃色の瞳を覗き込み、悪戯っ子のような眼差しで見つめてから、彼女の耳元に口を近付け囁く。


「くっついたよ」

「…っ!」

「リリシアが言ったんだよ、くっつきたいって」

「こんなに…恥ずかしいなんて思わなかったから…!」

「恥ずかしいのは慣れるしかないよ、これから先もずっとするんだから」


 達観した様子のラキエルは、リリシアのおでこに自分のおでこをくっつける。

次に視線の合った彼は、先ほどの妖艶な悪魔のような笑みではなく、いっぱいいっぱいな少年の表情だった。


「リリシア…好き…大好きだよ」

「私も…ラキエルの事が、好き。」

「俺の…恋人。俺のリリシア?」

「うん。そうだよ。」

「俺もリリシアのだから。全部リリシアにあげる。俺の持ってるものも全部」

「そしたら私も、私の元に返ってきちゃうよ?」

「…それはダメ。それだけは、もう絶対に返せないから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ