リリシアの防衛戦
「私にも、何か出来る事はありませんか?」
翌朝、フリージアの元を訪れたリリシアは、そう彼女に迫っていた。
「ないわ。あなたはアドバイザリーとしてここに滞在してもらっているけれど、私達が守るべき民間人なの。だから軍が壊滅的な被害を受けていない以上、民間人のあなたにお願い出来る事は無いわ…本来であればね。」
彼女の最後の言葉に希望を見出したリリシアは、フリージアをじっと見つめる。
「やって欲しい事なら…あるわ。あなたの求めている事とは少し違うかもしれないけれど。ジェレミーの仕事を一部引き継いでレポートを仕上げて欲しいのよ。あれが仕上がれば、ラキエルが運用している惑星防衛システムのエネルギー問題を大きく解消する事が出来るわ。それと、その実績を引っさげて、あなたには高等科に入学してもらいたい。」
「調査レポートと…学校ですか?」
「そうよ。今、何も出来なくて悔しい? ラキエルと一緒に戦えなくて。」
「はい…悔しいです。」
「じゃあ同じことがあったときに悔しい思いをしないよう、早く入隊しておきたいと思わない? 入隊には高等科を卒業後、入隊試験をパスする必要があるわ。この星の高等科は通常であれば15歳〜17歳が学ぶ。けど、やろうと思えば飛び級する事が可能なのは知っているでしょう? ラキエルのように。」
「はい、ラキエルから聞きました。」
「本来であれば7歳から5年間を初等科、12歳から3年間を中等科、15歳から3年間を高等科で学ぶのだけど…あなたは地頭が良くて、学習能力も極めて高い。研究者としての素養もある。だからラキエル程とは行かなくても、多少の飛び級は可能だと思っているの。そこに、実戦に投入実績のある新技術のレポートがあれば、鬼に金棒だと思わない?」
リリシアはフリージアの提案を聞き、それであれば確かに、早くラキエルと肩を並べられるようになるかもしれない、と希望を見出す。
ただ、ジェレミーやエミリほどの優秀な人間でさえも飛び級せずにストレートで卒業している事を考えると、おそらく飛び級などというのは通常ありえないような密度の教育内容である事は伺える。
リリシアも、ちゃんと気付いている。
その点においては、ラキエルが異常だと言う事を。
「わかりました、フリージアさん。ジェレミーさんの研究を引き継いで、レポートをまとめます。初等科と中等科の卒業は、どうすれば出来ますか?」
「そう言ってくれると思っていたわ、ありがとう。初等科と中等科は、授業に出なくても試験をパスすれば卒業扱いに出来るわ。初等科の後半や、中等科もかなり難しいわよ。テキストと試験スケジュールを送っておくから、確認して。試験の時は街にある学校まで行って受けるか、総務課にある試験用の個室が予約出来れば、そこで受けられるわ。本当は軍に所属していないと使えないものだけど、ラキエルの名前で予約できるように手配しておくわ。」
「はい、送って頂いた資料に目を通してみます、ありがとうございます。」
通常であればリリシアは中等科に通学すべき年頃だったが、普通に通学して、普通に卒業するような話は一切出なかった。
つまりは、飛び級できるように頑張れと、そういう事なのだろう。
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「こんな複雑な制御が必要なやつ、僕らが休憩してる間の何時間も1人で運用してるとか化け物?」
「悪かったな、化け物で」
「ヒッ!!ラキエル博士、お早いお帰りで…」
3人が出勤した後、近くのシャワー室に行っていたラキエルがちょうど帰ってくる。
彼が出て行ってから15分も経っていなかった為、マルクは完全に油断していた。
少なくともあと10分は帰ってこないと思っていたのに。
「問題は?」
「はい、今のところ安定しています。これはなかなか…1人で運用するのは骨が折れそうです。今のところ3人でやっとですから。」
「うん、試作段階でほぼ放置状態だったから、ちゃんと作り込めてなくて。消費エネルギーが大き過ぎたから。まさか日の目を見る事になるとはね」
「解体していなくて本当に良かったですね。あのポッドに搭載されていた技術がすべて明らかになれば、エネルギー消費の件も多少は解決しそうですけど…私の調査がなかなか進んでおらず、不甲斐ないです。」
「あれは結構難解そうだった、ゆっくりやるしか無かったと思う」
「ラキエル博士も、お休みになった方が良いのではないですか?」
ミランダが心配そうに気遣い、あとの2人も同意する。
「そうだね、あとで少し仮眠とらせてもらう」
5時間ほど研修を行った後、昼休憩を挟む。
ランチから帰ってきた3人に「何かあれば起こして」と伝えるとその場で寝袋にくるまり3時間程眠った。
その後はまた3人の研修を進めつつ、防衛システムの制御プログラム改修を進める。
21時頃にはまた3人に8時間休憩をとるように伝え、ラキエルだけが制御室に残る。
リリシアに連絡を入れようか悩み、やめておく。
連絡したら、また声が聞きたくなって、声を聞いたら顔を見たくなるに決まってる。
0時を回ろうとした頃、ラキエルのデバイスにメッセージが入る。
リリシアからだった。
「おやすみなさい、お疲れ様です、ラキエル。」
(リリシア…会いたい…)
ほら、やっぱり会いたくなった。
だから連絡しないと心に決めたのに。
でも向こうから来てしまったものはしょうがない。
なんとか電話は我慢して、当たり障りないメッセージを返信するだけにとどめる。
「リリシアもお疲れ様、ゆっくり休んで。おやすみ」
翌朝また3人に研修を行い、その後は制御用プログラムに少しずつ更新を反映していく。
「ラキエル博士!劇的に制御しやすくなりましたよ!」
「よかった。今日まわしてみて問題が無さそうなら、明日の朝からは4人交代で運用出来るようスケジューリングして欲しいんだけど」
「こ、これなら…安定していますね。大丈夫な気がしてきました。」
「昨日から開発されていたものですか? この短期間で、ここまで…すごいです。」
「また少し仮眠させて貰うから、問題あったら教えて。シフトも順番を相談しておいて、俺は夜中とか。何時でも良いから」
「承知しました、詰めておきます。」
「よろしく…おやすみ」
さすがに疲れた。その日は5時間程眠ってしまう。
「今夜からでも4人交代で行けますが、本当に明朝からでよろしいのですか?ラキエル博士、こちらでの仮眠だけできちんとした休息を取られていないのでは…」
「さっき結構寝かしてもらったから平気。明日からお願い」
3人を追い出すとフリージアに状況報告とシステム改修の件、それと運用方法変更についてのメッセージを入れる。
それからリリシアに「明日たぶん一度帰る」と短いメッセージを入れた。
リリシアからの返事は無かった。
その夜、ミルズアースの空には大量の兵器が降り注いだ。




