彼女の手汗?俺のだろ
「ラキエル、たくさん付き合ってくれてありがとう。一緒に色々見れて、楽しかった。」
「俺も。すごく楽しい。お腹は減ってる? そろそろランチにしよう」
「確かに、お腹が空いたね。ラキエルは何が食べたい?」
「店、俺が適当なところ連れて行っても良い?」
「うん、ありがとう。お願いします。楽しみっ!」
ショッピングモールを出て2人が向かったのは、近隣の大きなホテルだった。
上層階にある眺めの良いラウンジに入り、窓際の席に通される。
「ここも景色がすごいね!街がずっと先まで見渡せて…すごい。」
「気に入った? 良かった。今日は天気が良いから、気持ち良いね」
人も多くなく、落ち着いた雰囲気の店内の中央にあるカウンターには、リリシアが見たことのない料理がずらりと並んでいた。
「あそこに並んでいるのは見本? にしては本物のごはんのようだけど…」
「ここは好きな料理を好きな量、自分で選んで取れるシステム。メニューを見て選ぶよりも、選びやすいでしょ? 色んなものを少しずつ試せるから、良いかと思って」
それを聞いたリリシアは、目を輝かせた。
彼女はまだこの星の料理に馴染みがない。
メニューに書かれた名前だけでは、どんなものかわからない為、目で見て選べて色々試せるビュッフェ形式が良いのではないかと、ラキエルは彼女をここへ連れてきたのだ。
「食事、取りに行こ」と席を立ち、彼女をエスコートする。
「すごい…!これ全部、好きなものを取って平気なの?」
「うん、食べ切れるなら好きなものを好きなだけ取れるよ。向こうにデザートもあるから」
「わぁ…そんな…贅沢だね。」
そう言うと彼女は食事に添えられたカードに書かれている料理名と簡単な説明を読みながら、皿に少量ずつ、丁寧に盛り付けていった。
その様子をしばらく後ろから見守っていたラキエルは、リリシアの皿がある程度埋まった段階で、サラダコーナーで生野菜を皿に山盛りにするだけで席に戻ろうとする。
「ラキエル…サラダしかないよ?」
「他はまた後で取りに来る。とりあえずサラダ食べたいから」
「そっか、何回でも貰いに来れるんだね、そこは食堂と一緒なんだ。」
彼女はビュッフェを気に入ってくれた様子だった。
「景色も良いし、食べ物もどれも美味しいし、メニューの勉強にもなるし!素敵なお店だね。連れてきてくれてありがとう!ラキエルは、ここ良く来るの?」
「ううん、小さい頃に両親に連れてこられた事があるぐらい。自分で来たのは今日が初めて。そもそも街にあまり来ないから」
「それにしては、すごくしっかり案内してくれるよね。いっつも来ている場所みたいに。」
「昨夜、勉強したから」
「あははっ、ラキエルらしいね!わざわざ勉強してくれたんだね、ありがとう。」
「今日、リリシアとデート…のつもりで来たから、俺は。昨日、手を繋いでも良いって言われた時から…そう思ってた。だから、リリシアの思い出に残るように…したくて…」
「デート…!」
「デートの意味…知ってる?」
「知ってる…よ? エミリさんに教えてもらったから。ラキエル、私…デート初めて、なの。ラキエルは…?」
「俺も初めてだし、それに…」
それからラキエルは少し考え込んだ後、言葉を続けた。
「デート…したいって思ったのも、手を繋ぎたいって思ったのも、初めてだから。上手く出来てなかったら、ごめん。そろそろ出よう」
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「ありがとうございました、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
そう言って丁寧に見送られ、店を後にする。
会計はリリシアがデザートを取りに席を立った間に、ラキエルが済ませてしまったのだろう。
少し前を歩くラキエルが、こちらを振り返る。顔が少し赤い。
「この後も…手を繋いでも良い?」
「はい…あの、私も…ラキエルと手を繋ぎたいから…ラキエル、だけ、だよ?」
つっかえつっかえだったが、自分の言いたかった事は彼に伝わっただろうか。
彼の紫色の瞳が少し揺れたように見え、それからリリシアの手を取り、エレベーターに向かう。
食事前までとは違い、お互いの指を絡ませるような手の繋ぎ方に、リリシアは少しびっくりしたが抵抗はしなかった。
「あ、あのね…手汗が…ね。」
「ごめん、許して。どうにも出来ない」
「え!私の手汗だよ?」
「俺のかと思ってた。俺のじゃない?」
そう言い合ってお互いに微笑む。
その後は生活雑貨や家具が揃う大きな店で、目当てだった物を買う。
珈琲を入れる為の道具だ。
豆はハンナさんに分けてもらったものがあるので、道具さえ手に入れば、もういつでもラキエルに珈琲を淹れてあげられる。
道具一式もラキエルが支払いをしようとするが、それだけは断固として拒否した。
「服もたくさん買ってもらっちゃったし、食事も全部ご馳走になったのに…そんなに甘えてばっかりじゃ駄目!」
「いいのに。俺に甘えないと生きていけなくなれば良い」
「え、えぇ!? ど、どういう意味… もう、これだけは絶対に自分で買うから!じゃないとラキエルとは、もう…デートしない…」
「え? わ、わかった、ごめん。もうそれは諦める。ごめん、許して。ね?」
驚きの速さで引き下がり、下手に出るラキエルが面白くて、また笑ってしまう。
チャド元帥から提案された通り、リリシアはこの星での衣食住が保証されており、生活費が支給されていた。
現状は軍の寮を1室与えられ、食堂に行けば食費もかからないので、その分が差し引かれてはいるが、それでも十分な金額だった。
ある程度の余暇を楽しむ事だって出来る。
「ふう…ラキエルが全部お支払いしちゃうから…やっと自分で初めての買い物できたよ。」
「許して下さい。もう諦めましたから」
「もう!怒ってないよ、冗談だよ。」
この店ではラキエルも買いたいものがあったようで、謎の筒状の機械を買っていた。
それを自分のリュックに仕舞うと、スペースに余裕があるようで、リリシアが購入した道具一式もリュックに詰めてくれる。
「荷物…結局全部ラキエルに持たせちゃってる。ごめん…」
「平気だよ」
リュックを背負ったラキエルと、また当然のように手を絡ませる。
この後は、どうするんだろう。
どこへ行くんだろう。
彼とだったらどこでも楽しい。
ゆっくり話もしたい、そんな風に思っていた時。
ラキエルのデバイスが激しく震える。
軍からの緊急連絡で、召集命令だった。




