もう可愛すぎて、可愛いしか出てこない
ミルズアース軍本部の敷地から出入りする為にはセキュリティを突破する必要がある。
堅牢な門の前で警備に当たる兵士に、IDを見せると目視確認とスキャンが行われた。
「リリシアさんですね、付き添いの方が必要な為、お連れの方もIDを確認させて下さい。ラキエルさんですね、確認できました。街までの送迎は必要ですか?」
「平気です、ありがとう」
「承知しました、それではお気を付けて。」
難なく突破し、門の外へ出る。
「ラキエルは仮面をしたままでも通してもらえるんだね。顔を確認されるかと思ったのに。」
「俺は…IDの顔写真がこの仮面になってるから、たぶん脱いでたら通れない」
「えっ!? そんなの、アリなんだ…」
「たぶんナシだけど…俺が、仮面が許可されないなら入隊しないって言ったから、こうなった」
「そ、そうなんだ。ふふっ、ラキエルはちゃめちゃだね。」
「どーゆう意味? 別に葉茶目茶だなんてこと…」
「10歳で学校全部、独学で卒業しちゃうし。仮面で入隊しちゃうし。宇宙から落ちてきたポッドを1日で開けちゃうし。ロアの言葉もすぐに解析しちゃうし。普通なところ、ないよ?」
「…」
「!!」
黙り込んでしまったラキエルは、無言のままリリシアの手を掴んだ。
そして、そのまま歩みを進める。
手を繋ぐ約束はしていたが、突然力強く繋がれた手に、顔が熱くなる。
「…ちょっと寄りたいところあるから、付き合って」
「う、うん。」
そうして連れて来られた場所は、小綺麗な建物だった。
サイズ的に、住宅だろうか。
「入ろう」
デバイスをかざし建物の扉を解錠すると、ラキエルはリリシアを連れて、なんの遠慮もせず中に入った。
家の中はさっぱりとしているが必要な家具家電は揃っており、窓が大きく広々としている。
「ここは?」
「俺が小さい頃に、両親と住んでた家。今はほとんど使ってないけど、ここに仮面を置いて行こうかと思って」
そう言いながらラキエルは仮面を脱いでその辺に置き、髪で右眼を隠しキャップを被った。
更にその上から、パーカーのフードを被る。
オーバーサイズのパーカーは、痣を隠すのになかなかの貢献を見せた。
「ラキエルは、そのうちこの家に戻ってくるの?」
「どうかな、わからない」
「素敵なお家なのに、誰も住んでいないなんて、もったいないね。」
「気に入った?」
「うん、お洒落だし。窓が大きくて、お庭も広くて明るいね。とっても素敵だと思うな。」
「リリシアが気に入ったなら、この家に住んで良いよ。その代わり、俺も好きな時に上がらせてもらうけど」
「あはっ、何それ。ラキエルの家なのに、変なの。」
「そう? さ、準備できたから、いこ」
玄関を出て鍵を掛ける。
デバイスをポケットに突っ込むと、ラキエルが今度は手を差し出して来た。
リリシアは、どきどきしながらその手に自分の手を重ねる。
手を繋いだ2人は、長い坂を下り、街を目指した。
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「これが…この星の街…!人がたくさん!」
「人すごいね。俺もあんまり来ないから。まず何かご希望はありますか?」
「なに、その喋り方。いつものラキエルじゃないみたい、可笑しい。」
そう言って思い切り笑う彼女は楽しそうだ。
幸先は良い。手もばっちり繋いでいる。
緊張で手汗がすごいのだけが目下の悩みだ。
「希望が無いなら、俺が決めるよ」
「うん、まだびっくりしていてわからないから…どこか連れて行ってくれたら嬉しいな。」
「わかった。その前に、とりあえず一緒に人間観察しよ、ちょっとこっち来て」
そう言ってラキエルはリリシアの手を引き、人通りの多い大通りと広場を見渡せるベンチに腰を下ろした。
「街に生きる人の生態を観察しよう。まず見るべきは、気に入った服装。ある?」
「えっと…みんな、すごくお洒落だね。あの人が着てる服、すごく綺麗な色。あれは何色? あ!あの人の着てるのも…どうなってるんだろ、とっても可愛い。」
リリシアの視線の先を追い、彼女が好みそうな服装をチェックする。
しばらくそうしていたが、往来している人間が何人か立ち止まり、こちらを見ている事に気付く。
男女まちまちだが、男性比率が圧倒的に高い。
(まぁ…綺麗だし、可愛いし…無理もない。けど見せたくない)
「リリシア、そろそろ次、移動して良い?」
「うん。人間観察、結構楽しいね!知らなかった。」
意外と満足気なリリシアの手を引き、その場を立ち去る。
大きなショッピングモールに入り、女性向けのファッションブランドが立ち並ぶエリアに足を運ぶ。
「ここで、今日着る服、選ぼう。せっかくのデ…お出掛けだから、お洒落したいかなって思って。どの店が良い? 気になるとこ、入ってみよう」
リリシアの今日の服装は、軍からの支給品のシンプルなものだった。
今日が初めての街で、初めての買い物なのだから、当然だ。
ジェレミーから聞いた話も参考にしつつ、まずは服を買おうと思っていた。
ラキエルも、色々な服を着たリリシアを見てみたかった。
「だからさっき人間観察させてくれたんだね。すごく参考になったよ!じゃあ…あのお店見てみたいな。」
「別に1軒じゃなくて全部見ても良いけどね。行こうか」
「わー、沢山あって、どれにすれば良いのか迷っちゃうね。」
「ご試着も出来ますから、おっしゃって下さいね。」
「ラキエル、ごしちゃくって…?」
「買う前に、試しに着れる。あっちに試着用の小部屋があるんだよ。何着か着てみたら?」
「そうなんだ、親切なお店なんだね。じゃあこれ…どうかな?」
「うん、似合いそう。俺も選んでも良い? リリシアに着て欲しい服」
「う、うん!」
「じゃあ…これ…着たとこ見たい」
「わかった、じゃあ試着させてもらってくるね。」
最初に試着して見せてくれたのは、ラキエルが選んだ淡いブルーのワンピースだった。
シンプルだがアクセントに上品なレースが使われており、リリシアの可憐さを引き立たせるデザインだった。
(天使か…? 空から来たもんな…そうだった)
妙に納得する。リリシアも気に入ったようで、くるくると回って見せる。
「めっちゃ良い。可愛い…え、可愛い。なに?かわいい…」
自分の語彙力どこ行ったんだろうと思いながらも、譫言のように「可愛い」しか出てこなかった。
そして心の中で呟いたつもりだったのに、ばっちり声に出ていたようだ。
リリシアは真っ赤になりながら試着室の中に引っ込んで行ってしまう。
次に姿を見せた彼女は、自分で選んだ服を試着していた。
紫色のオーバーサイズのスウェットに、短めのタイトなキュロットだ。
だぼっとした首元から覗く彼女の華奢な鎖骨や、すらりとした脚が際立ち、めちゃめちゃ似合っている。が、多少目のやり場に困る。
「すっっごくお似合いです!先ほどのブルーのワンピースもとんでもない破壊力でしたが、それとはまた違った印象で…あの、差し出がましいかもしれませんが、こちらも試着してみて頂けませんか?お客様に似合いそうだなって思いながら、気付いたら選んでいたんです。その…あまりにも、可愛らしい方がいらしたので…興奮してしまって。」
「えっと、はい。ありがとうございます…?」
こうして試した3着目は、ロールカラーのリブカットソーで、襟元や袖には控え目なプリーツが付いた、凝ったデザインだ。
それとデニム地のワイドパンツ。
こちらもウエスト部分が他にはないデザインで、タイトなトップスと見事に調和が取れている。
「これも、とっても素敵!ね、ラキエル!」
「うん、ヤバイ。さすがプロですね…ありがとうございます」
似合っているし、お洒落だが、上下ともに布面積が多く、目のやり場に困る事のない安心のデザインだ。
「いえいえ、私もとっても良いもの見せて頂いて…こちらこそ、ありがとうございます!」
「リリシア、どれかこのまま着て行こう。どれにする?」
「今日は…ラキエルが選んでくれた服にしようかな。」
(俺が選んだ服…? なんだこれ…めちゃめちゃ嬉しい…)
また顔に熱が集まるのを感じて、急いでフードを引っ張り顔を隠そうとするも遅く、リリシアとばっちり目が合う。
いたずらっ子のような笑顔を寄越す彼女に、観念するしかなかった。
「じ、じゃあ先に…お会計お願いします」
「はい、ブルーのワンピースですねっ。ありがとうございます。」
「いえ、試着したやつ全部で。ワンピースだけタグ切って着せてあげて下さい」
「全部ですか? あ、ありがとうございます!」
「全部!? ラキエル、わたしそんなには買えないと思う…!」
「俺が買うから平気。プレゼントさせて?」
「そんなに、いっぱい買って貰うなんてダメだよ…」
「じゃあ俺の物ね。俺が俺の欲しい服を買う。それをリリシアが着る。プレゼントはしない、俺の服をリリシアが着るだけ」
「もう…すぐ変なこと言う。…ありがとう、ラキエル。」
会計を済ませ、タグを切ったワンピースをリリシアの居る試着室まで持って行ったスタッフは、リリシアに耳打ちした。
「とっても優しくて素敵な彼氏さんですね、羨ましいです。」
「…まだ友達なんです。」
「えっ!? そうだったんですか? てっきり…だって、あんなに大切にして下さっているんですから、絶対お客様の事大好きじゃないですか!」
「そう思いますか? わたし、勇気を出しても良いと思いますか?」
「全然行けますよ!勇気出さなくても近いうちに…大丈夫だと、思いますよ?」
ラキエルの選んだワンピースに身を包んだリリシアは、スタッフにお礼を言うと、2人仲良く手を繋いで店を後にした。
ラキエルはリリシアを愛おしそうに、満足そうに見つめている。
(あの年頃の子が、あれで付き合ってないって…どう言う事なの? 世も末なの??)




