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ハンナのちょうど良い応援

 ラキエルに珈琲を淹れてあげたいけど、豆も道具も持っていない。


(ハンナさんに相談してみようかな…)


 午前中のうちにメッセージを入れると「午後ならいつでも平気ですよ」と返事があり、快諾してくれた。

本当はランチを早めに切り上げて、午後一番で珈琲を持って行きたかったけど、予定外にランチが盛り上がり、長引いてしまったのだ。

夕方に訪ねる旨を改めて連絡し、16時過ぎにハンナが居るという、フリージアの執務室へ向かう 。


 向かっている途中、つい先ほどまで同じ部屋に居たラキエルからメッセージが入った。

何事だろう?と確認すると「夕飯、一緒に食べたい」それだけだった。

思わず笑みが溢れる。

彼らしい簡潔な、用件だけのメッセージ。


(きっとジェレミーさんみたいな人なら、もっと違う、気の利いた言葉選びをするのだろうな。)


 でも、この短い文章が、とてつもなくラキエルらしいと感じ、何度も読み返してしまった。


「失礼します、ハンナさん居ますか?」

「リリシアさん、お疲れさまです。ポッドの解析は順調ですか?慣れない作業で大変でしょう。」


 フリージアは不在のようだ。


「とっても楽しいです、ジェレミーさんは話しやすくて優しいですし、お話しているととても勉強になります。」

「ラキエル博士もテストルームに?」

「はい、一緒にいます。作業は、別な事をしているみたいですけど…あの、ハンナさん。珈琲を淹れるための道具は、どうすれば手に入りますか?」


 ハンナはリリシアに、道具が買える店の事や、選ぶ際のポイントなどを丁寧に教えてくれる。


「お買い物に、ついていく必要があれば教えてくださいね。喜んでお供いたしますよ。」


 最初から、ついて来てくれると言わないあたりが、彼女らしい。

本当に気の利く、優しい人だ。

こういう気遣いが出来るから、フリージアはハンナを側に置き、重宝するのだろう。


「ハンナさん、ありがとうございます。」


 そうして珈琲を淹れさせて貰い、フリージアの執務室を後にしてから、ラキエルのメッセージに返事をしていなかった事を思い出す。

しかも気付けばラキエルの業務終了時刻だ。

幸いにも元の部屋にまだ留まっていた彼と合流する事ができた。


(珈琲…すごく喜んでくれたみたい、良かった。明日からは、自分の道具で淹れられたら良いな。)


 問題は…この仮面の男が、一緒に街に買い物に行ってくれるかどうか。

厳密には、連れて行ってくれるかどうか。

リリシアは、まだこのミルズアース軍本部の敷地から出た事が無かった。

市民権を得て自由にはなったものの、安全性の面から単身での外出は、まだ許可が下りていないのだ。


「ラキエル、夕飯なんだけどね」


 その言葉にラキエルがビクッと身体を震わせる。


(どうしたんだろ…?)「あのね、私が食堂から持ってくるから、ラキエルは部屋で待ってて。メニュー良くわからないから日替わりで良い?」


 朝食の時間帯、人のたくさんいる食堂に、ラキエルは滞在するのが辛そうな様子だった。

昼食の時間帯も、すごい人だった。

夕食時も、そうなのだろう。

だから混雑している時間帯は、ラキエルが食堂に近づかなくても良いようにしてあげたかった。

彼が無理して「一緒に行く」と言わないように、リリシアは策を講じた。

先ほど、ハンナに入れ知恵してもらったのだ。

備品保管庫と言う、素敵な場所の存在を。


「そのかわりね、お願いがあって…備品保管庫から、椅子を貰ってきて欲しいの。ラキエルの部屋、椅子が1つしかないから。これから毎日使うと思うし、だめ?」

「毎日…?」

「う、うん…あ、嫌だった? 私は、ラキエルと毎日一緒にご飯が食べたいって思ってたんだけど…」

「毎日使うなら、あった方が良い。椅子もらってくる」


 先ほどまで何かに若干怯えたような素振りを見せていたラキエルが、急に背筋をスッと伸ばし、いつもよりキリッとした声で椅子を持ってきてくれると言った。

良くわからないけど、良かった。

そして毎日一緒に食事をしたいと言う少しゴリ押し気味の要望も、受け入れられたと思って差し支えないだろう。


 そうして2人は一旦分かれ、それぞれのミッションを遂行した。

食料調達任務を果たしたリリシアはラキエルの部屋を訪ね、2脚の椅子が並んだラキエルのデスクで2人で仲良く食事をするのだった。

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