ジェレミーの精一杯の応援
「お付き合いをするには、お互いの想いを確認して、お互いが恋人同士であると認め合う必要があります!」
「お友達になるときと、一緒ですね?」
「友達とはそんな…全然違いますよ!友達はまぁ誰とでもなれますし何人でも良いですけれど、恋人はたった1人です。特殊な方々を除いては… そのたった1人と心を通わせるのは、結構大変なんですよ。相手も自分と同じ気持ちかわからないし、最悪他に好きな人が居たりすると、もう…目も当てられないですね。なので恋は先手必勝!なのですが、出来れば男性から…ラキエル博士から告白して欲しいですね。」
「どうして男性からなのですか?」
「その方が大切にしてもらえるという話を、良く聞くからです!」
「僕の友達は彼女の方から告白してきたみたいけど、仲良いし上手く行ってるみたいだよ。爆ぜろ…」
「マルクさんは黙っていて下さい。」
「さっき援護しろって言ってたのに…」
「それは援護じゃなくて、味方を撃つ行為です。」
「エミリさんは、恋人がいるのですね。その人からは、告白してもらったのですか?」
「…」
「え」
「え?」
「あんなこと言っておいて、まさか自分から…? 告白したの??」
「…いない…」
「んん?」
「…いた事ない…恋人なんて…」
「えっと…ごめんなさい。」
リリシアが謝り、エミリは更にダメージを受けた。
彼女は、医者になるための勉強ばかりで、恋愛どころでは無かった。などと供述した。
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ランチを終え、食堂からテストルームに向かう間、「お節介かもしれませんが」と前置きした上でジェレミーが教えてくれた。
「ラキエル博士、たぶん…というか絶対。リリシアさんの事、大好きだと思いますよ。これまで他人に興味を示すことなんて無かったし、本当に仕事人間だったんです。でもこのプロジェクトが始まってから、仕事以外の話もするようになったし、BBQとか参加しちゃうし。以前とは別人みたいになりましたから。とても良い変化だと思いますし、博士が変わったのはリリシアさんがきっかけだと思うんですよ。だから…お二人の事、すごく応援してます。」
「ジェレミーさん、ありがとうございます。ランチも、仲間に入れてくれて。楽しかったです。」
「また行きましょう!今度はラキエル博士も来てくれると良いですね。」
「はい、なかなか来てくれないですけど。」
第2テストルームの扉を開けると、目の前にラキエルが立っていた。
丁度、部屋から出て行くところだったようだ。
「わっ!」
「っ…!」
危うくぶつかりそうになる。
「すみません、大丈夫ですか? 只今戻りました。」
「ただいま、ラキエル。大丈夫?」
「おかえり、平気」
そう言って、外に出るように見えたラキエルは、そのまま室内に戻った。
「どこか行かれるところだったのでは?」
「や、そろそろリリシアを迎えに行こうかと思っただけ。遅くて心配だったから」
ジェレミーがリリシアにアイコンタクトを送る。
(ほらね、以前の博士なら、心配で誰かを迎えに行くなんて、絶対言わないセリフですもん!)
どこまで伝わったのかわからないが、リリシアが嬉しそうに笑う。
その意味深な2人の様子に、ラキエルが不機嫌になるが、仮面のお陰でバレずに済んだ。
その後も当然、ポッドの技術解析をジェレミーとリリシアが行い、ラキエルはその様子を眺めながら自身の溜まった仕事を片付けて行く。
ランチでは、どんな話をしたのだろうか。
リリシアは元来明るい性格のようで、よく喋る。
自由になった彼女が、様々な場所で多数の人の目に触れたら、彼女を好きになる人間は大勢現れるに違いない。
あんなに可愛くて、明るくて、聡明で、優しい。
ジェレミーとも、すっかり仲良くなってしまったようだ。
彼女が楽しそうに過ごせていて喜ばしいと思う気持ちもあるが、どろどろとした嫉妬の方が勢力を増し、どうにかなりそうだった。
(俺、余裕なくて…格好悪い。もしも、リリシアの一番になれたら少しは安心するのかな)
そんな自分を全く想像する事ができないが、そんな夢みたいな事を考えずにはいられない。
夕方になり、リリシアはハンナのところへ行く予定があるから、と退室して行った。
(夕飯の約束…してないけど、一緒に食べてくれるのかな。ランチの時に誰か他の人と約束してたり…して)
急に不安になって、リリシアにメッセージを入れる。
「夕飯、一緒に食べたい」と送ってから、もう少し気の利いた誘い方が出来たのではないかと後悔したが遅かった。
「ラキエル博士、明日はどうされるんですか?」
「明日…どうしようか悩んでる」
明日の予定。
ちょうどその事も、ラキエルの頭を悩ませる1つだった。
明日は非番だ。
普段のラキエルなら悩むまでも無く、自分の興味の赴くままに知識を貪ったり研究したり、仕事の進捗が気になれば仕事をしている。
先週までは、そんな過ごし方しかしてこなかった。
でも今、そんな事に時間を費やす気は全く起こらない。
今日だって残業するつもりは更々無い。
夕飯を口実に、早く彼女を自分の部屋に誘い込んで、隠してしまいたい。
自分の部屋に来て欲しいと思いながらも同時に、無防備に来ないで欲しいとも思う。
明日の事も、どうすれば彼女を独占する事が出来るのか、そればかり考えている。
(休日の過ごし方を悩むなんて、俺らしくないって…もうバレてるんだろうな)
諦めて目の前の年上の、人生の先輩に教えを請う。
「ジェレミーが…俺ぐらいの年齢の時は、どんな事をして過ごしてた?」
憧れの研究者に訪れた良い変化に、ジェレミーは心から喜びを感じる。
そして少しでも役に立てれば良いな、と自分の持ち得る精一杯を伝える事にした。
「そうですね、友達と街に出る事もありましたし、部屋でゲームをして過ごす事もありました。どちらにせよ、誰かと一緒に過ごすなら、相手と相談して決めていましたね。あと参考になるかわかりませんが…実は私、博士と同じぐらいの歳の妹が居るんです。妹は休みになると録り溜めた恋愛ドラマを見たり、出掛けるとお洒落なカフェに行きたいとか、可愛い文具が欲しい、服や装飾品が欲しい、とか言っていますね。」
「なるほど…すごく参考になった。ありがとう」
「いえいえ。また明日も妹に付き合わされるんです。博士も、楽しい休日が過ごせると良いですね。」
定刻になり、ジェレミーが「お疲れ様でした」と退勤していった。
その後姿は、どこか満足気に見えた。
ラキエルも帰ろうか悩み、デバイスを見やる。
リリシアからの返信はまだ無い。と思ったとき、ちょうどメッセージを受信する。
「まだポッドの部屋にいる?」「いるよ、仕事終わりにする」「行くから、待ってて!」そんなやり取りをする。
夕飯の件には触れられない。
(これは…断られるパターン? なんで…誰と…)
「ラキエル!お仕事、お疲れさま。珈琲、どうぞ!」
「え…これ、どうしたの…?」
「ハンナさんのところで淹れさせてもらったの。昨日のよりも上手に出来たと思う、どうかな?」
「わざわざ淹れて持ってきてくれたの…?」
「今日も飲みたいって、ラキエル昨日言ってたでしょ。だから。」
そう言って、少し首を傾げながら感想を求めるよう送られる視線に、仮面の中の自分の顔がむずむずとにやつく。
どうしようもなく嬉しいし、めちゃめちゃ可愛いし、なんだこれ、つらい。
にやつく口元にリリシアが淹れてくれた珈琲を近付けると、あの芳ばしい香りが仮面の中まで侵入する。
あ…確かに、美味しい。
「うん…美味しい。わざわざ…ありがとう。すごく嬉しい」
それを聞いた時の彼女の笑顔は格別だった。




