自由
フリージアはチャド元帥を見やる。
彼女の視線に、大きく頷いて返したチャド元帥は、リリシアに問いかけた。
「ロアのお嬢さん。有益な情報を、ありがとう。非常に助かりましたよ。故郷の件は非常に残念です。あなたさえ良ければ、この星の市民権を贈らせてください、衣食住も保証しましょう。」
「しみんけん…と、いしょくじゅう?ですか?」
「この星の人になるって事だよ。衣食住は、着るもの食べ物、住むところ」
ラキエルが、横からフォローを入れる。
「あ、ありがとうごさいます!嬉しい、です。」
「では、すぐに手配しましょう。他に何か望みはありますか?」
「私、ここで働きたい、です。」
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あの会議の後、すぐに全軍に通達が出された。
敵対勢力であるメラーニが活発化しているという事、自国や友好国を害した場合は即時攻撃対象となる事。
リリシアはミルズアースの市民権を得る事となり、これで晴れて自由の身だ。
にもかかわらず、彼女はここで働かせてほしいと望んだ。
チャド元帥は、それはすぐに許可出来ないという判断を下した。
入隊には正規の試験を受けるように、それに受かれば入隊できるとしたのだ。
ただポッドや新素材の解析がまだまだ途中である事から、その件に関するアドバイザリーとして、研究区画への出入りは認められ、寮の1室も与えられる事になった。
「それではー、リリシアがこの星の仲間になる事を祝って!乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
今夜は軍本部の敷地内にある会場を使い、BBQを楽しんでいた。
「俺達マジで何も仕事しないうちにお役御免だわ…」
タイラーとゴーシュがボヤくのを、フリージアがフォローする。
「こんなに早く、プロジェクトの最重要ミッションをコンプリートするとは思っていなかったからねー、ラキエルを侮っていたわ…リリシアも言語学習能力があんなに高いなんてね。」
「それ!思いました!前回、夕食を食べたの3日前ですよね? あのとき初めて話したんですよね? それから3日で、あんな話せます?? 今日、びっくりしましたよ。めちゃめちゃ話すから。」
「ラキエルに教えてもらいました!ずっと教えてもらったから、たくさん話せるようになりましたよ。」
そう嬉しそうに笑うと、ラキエルを目で探す。遠くで一人、食材を焼く彼を見つけ、そちらに向かう。
「さっきのチャド元帥に堂々と話すリリシアさん…可愛かった、尊かった。何がって、ラキエル博士がリリシアさんの手を」
「「「え!なにそれ!!」」」
「そういえば、この前男らしい体格がどーのこーのって相談に来たなー」
「私のところにも、所作や言葉遣いが云々、聞いてきましたよ!」
「え、何。そーゆう事なの?」
「そーゆう事??」
「まじで?」
「ふふ。たぶん、そうなんだと思いますよ。」
ハンナが肯定した事で、一気に現実味が増した。
飲酒した大人達が大人気なく騒いでいるのを遠くに聞きながら、ラキエルは食材を焼いていた。
「ラキエル。」
「リリシア、食べてる?」
「はい、食べてる。ラキエルは? 食べた?」
「俺は、後で部屋で食べるから大丈夫だよ。…自由になれて、良かったね」
「ラキエルのお陰、ありがとう。すごく感謝してる。」
「俺は…自分がやりたいようにやってただけだから…あっちで、みんなと話してきたら?」
「…私はラキエルと一緒がいい。」
少し怒ったような眼差しで、桃色の瞳がラキエルを捕える。
「ラキエルが後で部屋で食べるなら、私も一緒にそうする。」
なんで。なんで、そんな…
ラキエルは話題を逸らした。ずっと気になってた事を聞いた。
「俺…リリシアと友達…?」
「はい!友達、でしょ?」
「でも、友達になって欲しいって言った時、リリシア泣いてたから…」
「はい。すごく嬉しかったから。」
なんだ。そーゆう事か。
縁がなさすぎて、嬉し泣きという事象を完全に失念していたラキエルは脱力して、その場にしゃがみこんだ。
「そ、か…なんだ。嫌だったのかと思って…良かった。」
「嫌なんて、ないでしょ!すごく嬉しかったって言ったのに!」
リリシアも追随してしゃがみこみ、目線を合わせる。
「俺、今まで友達いなくて、リリシアが初めての友達なんだけど、いい?」
「私も、友達いないよ。ラキエルだけ。」
「友達いないなんて寂しい事言わないで下さいよぉ、みんな仲間じゃあないですかぁ!」
ジェレミー、少し酒癖悪いのか? ラキエルの肩に腕を置き絡んできた、普段とんでもなく感じの良い男が、ほんの少し好感度を下げている。
「そうそう、友達とは言い難くても、仲間として頼って下さいよ。特に恋愛相談とか、恋愛相談とか。あと恋愛相談とか!」
エミリももう、目が座っていた。
「ちょ!肉!焦げてる!」
「おー、これは食べ頃。こっちの真っ黒なのは、お前な。」
「タイラー先輩、知ってます? そーゆうのパワハラって言うんすよぉ」
兵士2人は特に酔った様子も無く、通常運転でコントを始めた。
ラキエルがしゃがんでいる間に焦がしてしまったらしい諸々を処理してくれた。
ありがたい。さすが残飯処理班を名乗るだけはある。
「ふふ。花火もありますけど、やってみますか?」
「リリシアの星にも、こーゆうのあった? 楽しいわよ!」
騒がしいのは本当に苦手。だった。
でも今は、たまにはこんな賑やかな夜も良いなと思っている自分がいた。
ここ数日で、世界の色ががらりと変わった気がした。




