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マッチョ鑑賞は心の拠り所

「どーしたんですかー? そんなに俺のこと見つめて。」

「ちょっとね。気にしないで下さい」


 廊下で警備の為に立つタイラーの正面、反対側の廊下の壁にもたれ、ラキエルが溜息をつく。

これまた原理は不明だが、タイラーの姿を見ると先程までの妙な気分が驚くほど落ち着いた。

最悪、タイラーには室内の警備をしてもらおう。

とりあえず、むさ苦しいタイラーの姿を目に焼き付けてから、リリシアの部屋に戻る事にした。

自分のデバイスをかざすと、本当に入室できてしまった。

今このタイミングで、この権限いらなかったな、とフリージアを恨めしく思う。


「ラキエル、おかえりなさい。」

「ただいま、ごめん急に出て行って。勉強しようか」

「はい。珈琲もう飲まない?」


 そういえば飲みきれていなかった。


「少しずつ大切に飲むよ、ありがとう」


 リリシアは先程自分のマグに淹れた珈琲を、ラテにしたようだった。

だから珈琲の量は少な目だったのか、と納得する。

また昨日と同様に2人でノートを書いて行く。

お互いに、お互いの言語情報を交換しながら。


「今度は交代しよう、俺がリリシアに聞きたい言葉を伝えるから、リリシアが先に書いて、教えてくれる?」


「ラキエルも、私の言語を知っているの?」


「うん。リリシアが乗ってきたポッドと、持っていた情報端末、それからノートと、リリシアが寝ているときに測定した脳波を…申し訳ないけど解析させてもらった。」


 リリシアは特に狼狽える様子も無く、ある程度予想はついていた、とでも言うかのように静かに頷いて見せた。

聡明だ。


「今は、軍が押収した、軍の物として扱われているから、まだ返せないんだ。リリシアの持ち物なのに、ごめん。でも俺が管理しているから、必要であれば見せる事は出来る」


 リリシアは首を横に振った。


「ノートは、航行記録。情報端末は…ここの人が使っているデバイスと同じ。もう通信する相手が居ないから、私は使わない。でも私が居た場所の地図が見れると思う。航行記録も、何が書いてあるか全部覚えていないけど、今ならここの言葉に書き換えられるかも。」


 ラキエルは、リリシアの端末と航行記録だというノートをテーブルに並べた。

まずリリシアが端末を起動させ、マップ情報を展開する。

星の配置から、ラキエルには思い当たる宙域があった。


「ここ…まさか…リリシアの星は、目が3つあるヒト型にやられたの?」

「なんで…知って…そう、ラキエル。目が3つの、自分たちの事をメラーニと、名乗ってた。」

「好戦的で侵略を厭わない人種だ。昔、ここも攻撃された事がある。リリシアが乗ってきたのは、脱出用のポッドなの?」

「そう。メラーニと戦っていた戦艦の。」

「なるほど…リリシア、俺は今聞いた話を上に報告しなきゃならない。報告したら、上の人間がリリシアに話を聞きたがるかもしれない」

「秘密にすることは…無い、から。知ってることなら…言葉がわかる限り、全部話すよ。」

「わかった、ありがとう」


 ラキエルはフリージアに「メラーニがリリシアの星を滅ぼした」と緊急メッセージを入れた。

ラキエルとリリシア、同プロジェクトメンバーは緊急召集される事になった。



>>>>>


 会議室に入ると、別件で会議をしていたらしいフリージア少佐、ハンナ、エミリ、それから医療区画の責任者である通称“医院長”と、宙域外交の責任者ルーカス、このミルズアース軍本部の最高責任者であるチャド元帥が席についていた。

まだ若いジェレミー、ゴーシュは錚々たる顔ぶれに、ガクブルしながら着席した。

最後にラキエルとタイラーが、リリシアを伴う形で入室し、席についた。


「揃いましたので、始めます。つい先程ラキエル博士から報告を受けた件について、きわめて重要性が高く、急を要する内容と認識しています。本来であれば私の方で掌握してからご報告すべきところですが、チャド元帥はじめ各所の責任者の方が直接、話をお聞きになりたい、との事で、こうして集まってもらいました。ラキエル博士、経緯含め説明を。」

「はい。4日前に海上で回収されたポッドの中には彼女、リリシアが乗っていました。彼女の故郷は滅ぼされ、先程その周辺の宙域図を見せてもらったところ、かつてこのミルズアースにも侵略を試みたメラーニが拠点としていた宙域でした。彼女に、故郷を滅ぼしたのは3つ目のヒト型かと聞くと、肯定し、彼らがメラーニと名乗っていた事を話してくれました」

「メラーニ人がまだ残っていたとは…彼らはまだ大勢いたのかな?」


 優しい声色で、好々爺然としたチャド元帥がリリシアに問いかける。


「はい、そのときは大型の戦艦の数が7来ました、2落とし、残っていたのは5でした。遠くからの砲撃があり、他の大きい艦があると思います。」

「君は、そこから脱出してきたのかい? 君が脱出するときの様子を、よければ詳しく教えて欲しい。」

「はい。脱出するとき、私の星、ロアには…使ってはいけない兵器が落とされ、もう人の住めない場所になりました。私が脱出したとき、ロアの他の戦艦が全部落とされ、残る1つ…でした。小型機で戦っていた私は、残る戦艦の長の命令で戻され、あのポッドに乗せられて、ここに着きました。」

「他に逃げた人は? 長が君を逃がしたのは、何か理由があるのかな?」

「他はわかりません。みんなずっと戦っていて、どんどん落とされて…脱出ポッドはたくさん残っていました、使えなくされたものもありました。なので、脱出は…あまり考えられません。長が私を逃がしたのは、長が私の父だからです。」


 覚えたばかりの言語で懸命に、力強く説明するリリシアの目から、静かに涙が零れていた。

ラキエルは隣に座るリリシアの手を握り、もう片方の手でハンカチを渡した。

リリシアが握られた手を、ぎゅっと握り返してきた。


 宙域外交官のルーカスが口を開く。


「メラーニと思わしき艦の目撃情報は、確かに最近各所で話を聞きます。またロアと交流のあった星に今確認を取ったところ、確かにロアとは数日前から音信普通であるとの話でした。彼女の話は真実であると、私は思います。」

「彼女の生活の様子や人柄は、フリージア少佐から報告を受けているよ。だから今日、すべて決めてしまいたいと思っていてね。ロアとミルズアースとの交流記録はないのかな? ルーカス。」

「はっ。我々とメラーニの宙域交戦の際、ロアに不時着したミルズアース艦の乗員を介抱して頂いたと、記録があります。」

「では、その時の恩を仇で返すわけには行かないね。身体の状態はどうなのかな、医院長。この星での生活に耐え得るものなのか、この星の生態系に悪影響を及ぼさないのか。」


 医院長と呼ばれた人物は外見も声も、中性的で本当に性別がわからなかった。


「この星の人とほとんど同じです、血液にも互換性がありますし、変なウィルスを持っているわけでもない。何も問題は無いでしょう。」

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