秘伝の珈琲を、彼のために
「コーヒーと言うのは…コーヒー豆を材料にして作る飲み物ですよ。」
「コーチャとは違うもの?ですか?」
「はい、違います。どちらも飲み物の名前ですけどね。紅茶は植物の葉を材料にしますが、珈琲は豆…実を材料にするんです。少し待っていて下さい。」
そう言ってハンナは一度部屋を出て、近くの部屋に置いてあったのだろう、何かを持ってきて見せてくれた。
「これが珈琲豆です。珈琲の実を乾燥させて、炒った物です。乾燥とは、水分を飛ばす、水気を無くす、という事。炒った、とは炒る、炒める、焼くに似た手法です。」
ハンナが単語の意味も含めて丁寧に、珈琲の事をリリシアに説明する。
何粒か取り出した珈琲豆をパラパラとリリシアの手に乗せる。
「かたい、良いにおい」
「はい、とても芳ばしい香りですね。この豆を細かく砕いてから使うんですよ。」
豆と一緒に持ってきた道具で、湯を沸かし始める。
リリシアの部屋に置いてあるケトルとは、注ぎ口の形が違うタイプの物だった。
手動のミルで丁寧に豆を挽く。
湯が沸くと、見た事のない形の道具を組み合わせ、ハンナは珈琲を淹れた。
その間、工程のひとつひとつをリリシアに丁寧に説明する。
リリシアは興味津々でハンナの動きを目に焼き付けながら、静かに話を聞いていた。
「飲むのは初めてだと思うので、少な目です。とっても苦いですから、お口に合わなければ残しても大丈夫ですよ。熱いので気を付けて下さいね。」
目の前に置かれたマグからは、本当に芳ばしくて良い香りがした。
恐る恐る、少し口に含むと、少しの酸味と、その後に苦味を感じた。
ハンナには申し訳ないが、苦手な味かもしれない。
紅茶の方が美味しい。
「ラキエルは、これが好きなの?」
「はい、最近お気に入りのようですよ。昨日は朝早く訪ねてきて、淹れて欲しいと言われましたから。フリージア少佐も、これが大好きで毎日飲まれていますよ。」
リリシアは勇気を出して、もう一度飲んでみた。
今度は先程のように少しではなく、ちゃんと一口。
良い香りを楽しみながら、こくんと喉に流す。
(あ、ちょっとわかったかも。全部を同時に感じれば良いんだ。苦いけど…その苦味が、なんだかクセになるのかも。)
「少し苦いけど、とっても良い香りでおいしいです。」
「リリシアさんは、もしかしたらこちらの方が好きな味かもしれません。珈琲が苦手な方でも、これが好きという方は多いんですよ。カフェラテです。」
「!!美味しい!」
珈琲の一口目で少し腰が引けてしまった事が、ハンナにはお見通しだったようだ。
二口目は、本当に大丈夫だったのに。
でも毎日飲みたいかと言われたら、微妙なところだ。
迷わずカフェラテを選ぶだろう。
「ハンナさん。私、珈琲の作り方を勉強できますか?」




