対策検討①男らしいカラダ
ベッドに入る前にシャワーを浴び、着替える。
棚から水のストックを取り出し、喉を潤した。
今日は夕食の時間になるとラキエルは早々に去っていった。
1日中ずっと勉強に付き合ってくれていたから疲れてしまったのだろうか、最後の方は元気が無いように見えた。
心配だが、様子を伺う為の手段をリリシアは何も持っていなかった。
(今日はたくさん考えたから疲れたな、でも本当に楽しかったぁ)
疲れた身体をベッドに横たえる。
疲れているはずなのに、眠ろうと思っても今日あった事を思い出すと、心臓が激しく脈打ち寝付けない。
初めて見た時は、あの仮面が少し怖かったが、話してみれば優しい。すごく優しい。
採血のとき、自分の身体に針を刺し、見本になって安心させてくれた。
具合が悪くなったときも優しくベッドに寝かせてくれた。
寝かされる時は、抱きしめられたのかと勘違いして、すごくどきどきして…その後、髪を触られて褒められたときも、同じ。
嫌じゃなかった、嬉しかった。
体格のわりに大きい、少し骨ばった手ですらすらと文字を書くのも。
勉強や採血など何かを進めるとき、いつも必ず私の意思を確認し尊重してくれるところも。
同じ歳ぐらいだから仲良くなれたら、友達になれたら良いなって思っていたけど、今日ラキエルがくれた言葉は、本当にすごく嬉しかった。
友達になってくれるって…ずっと…側に居るって…
早く寝て、早く明日になれば、またラキエルに会える。
もう何も考えないように心を無にし、ただひたすらに眠気を待った。
時は遡り、夕食の時間帯。
ごった返した食堂に、またラキエルの姿があった。
今まで食堂に寄り付かなかった彼が、日に2回もこの場にいるのは本当に珍しく、と言うより初めての事であった。
この場ではあまりお目にかからない小柄な仮面の男に、また注目が集まる。
「おー、ラキエル博士。良く会いますね。お疲れ様です。」
声をかけてきたのはタイラーだった。
「…タイラーさん、お疲れ様。夕食ですか?」
「今、食い終わったところですよ、夜食だけ包んでもらおうと思ってね。」
「夜食…食べるんですね。やっぱり身体が資本だから、食べる量多いんです?」
「そうですね、良く食べて良く動かす。博士もラボにばかりこもってないで、身体動かした方が良いですよ。」
「そうすると、タイラーさんみたいな体格に? 男らしい身体を手に入れるには、どうすれば…」
「え?」
まさか、ちょっと絡んだだけのつもりが、こんなに真剣に…悩んでいる??
少し楽しくなってきたタイラーは、ラキエルを誘った。
「夜食頼んでくるんで、出来上がるまで付き合って下さいよ、ちょっと語りましょう。」
「俺も…夕飯を頼もうと思って、持ち帰れるやつ。タイラーさんメニュー選んでくれない?」
「いいっすよ、男らしい男が食べるべくやつですね?? じゃあちょっと注文してきますから、その辺座っといて下さい。」
「わかった」
注文を終えたタイラーがラキエルの隣に腰を降ろした。
「さっきの話の続きですけど。軍人はみんな良い感じに身体できてるでしょう?つまりは作り方のポイントを押さえれば、誰でもそこそこはイイ身体が構築できるってことです。」
ラキエルは大人しくタイラーの話に耳を傾けていた。
最年少で特別入隊を果たした天才が自分の話を真剣に聞くというシュチュエーションは、なるほど悪くない。
「確かに、ゴーシュも良い体格してる。そういえば2人とも、エイマット大尉とシルエットが似てる?」
「さすがです、ラキエル博士。ポイントはそこなんです。我々、エイマット大尉の部隊は、皆でエイマット式の訓練を受ける事で、大尉の体格に似てくるんです。」
「まさか、そんな…」
「そのまさかですよ。当然、軍部内での合同訓練もありますが、汎用的な内容が多いですから。その点、エイマット式の訓練は完全にエイマット大尉の経験により実践に近い形で行われ、基本的にはエイマット大尉の部隊員である我々だけが受ける訓練なんです。」
軍部の文化にまで精通していなかったラキエルは、初めて聞いた話に衝撃を受けた。
「つまり…各部隊には、それぞれ独自の訓練がある場合がありますから。博士の目指す、理想の体格の兵士が多く所属する部隊の訓練に潜り込むか訓練内容を盗むかすれば、理想の体格に近づける、というわけです。」
「なるほど」
これは早急に、軍部に偵察に行く必要がありそうだ。
「俺やゴーシュはエイマット大尉に憧れちゃってますし、あの体格目指したいって思ってますけど、冷静に考えるとちょっとゴリゴリ過ぎますからね。もう少し細マッチョ的なのを理想としたり、上半身と下半身の筋肉のバランスとかを意識して観察してみると良いかもしれないですね。あ、ちなみに身長はどうにもならないので、あまり見ない方向で。博士は今から成長期でしょうし、ちゃんと栄養とって規則正しい生活してれば伸びますよ。」
ちょうどタイラーの夜食と、ラキエルの夕飯が出来たらしく、2人で持ち帰り用のケースを受け取った。
「タイラーさん、すごく参考になった」
「いえいえ、お役に立てたなら良かったです。進展あったら、教えて下さいよ。」
そう言ってウィンクすると、タイラーは夜食を引っさげて、軍部寮の方に消えて行った。
ラキエルは夕飯の重量に嫌な予感がしながらも、規則正しい生活をしよう、と寮の自室に帰っていった。
思った通り、夕飯はとんでもない物量で、普段携帯食料ばかりのラキエルの胃には収まりきらなかった。
少しずつ慣らしていくしかないだろう。




