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後から思うと、結構ぐいぐい行ってたかもしれない

「まだ採血はした事が無いんですよ。他の検査ならまだしも、身体に針を刺しますから、少し慣れてからにしようと思って。検査数も多いので、一度に必要量は採れませんから、数日に分けて採血する必要があると思っています。」

「この検査項目であれば、最近導入した検査器で同時検査が可能です。他にもそういったものがあれば、採血量は少し抑えられるかと思います。確認してみますね。」


 フリージアは朝少し顔を出した後、上との会議があるとの事ですぐに出ていった。(おそらく珈琲を飲みに来ただけだろう。)

その後は残ったハンナとエミリが午前中の検査項目に関する打合せを行っていた。

ラキエルは持ち込んだPCで、ラボから上がってくる報告書に目を通し、コメントを付けて返信していく。

ここ昨日はリリシアの言語解析に集中してしまっていたから、ラボからの報告書はほとんど放置状態であった。

ずばずばとダメ出しのコメントをつけては、どんどん返信し捌いていく。

おそらく今頃、ラボではコメントの多さに研究員たちの悲鳴が上がっている事だろう。

問題の無さそうな報告書は、そのままフリージアに回した。


 10時を回った頃、ハンナとエミリはリリシアの検査の為に、彼女の元へ向かった。

11時を回った頃に、エミリから通信が入った。


「ラキエル博士、お忙しいところ申し訳ないのですが、少し手伝って頂けないでしょうか。ハンナ先生が急用で席を外されてしまいまして…どうしてもお力をお借りしたくて。」

「今そっち行きます、俺ドア開けられないので、中から開けて下さい」


 廊下に出ると武装した兵士が立っていた。ゴーシュだ。

ラキエルに視線を向け、敬礼する。

ラキエルはこくりと頷く。

リリシアの部屋の扉が開くと、怯えた様子のリリシアと、困り果てた様子のエミリが目に入った。


「入る。おはよう、リリシア」

「ラキエル、さん!おはよう、ござ、います。」


 リリシアの表情から怯えが完全に消えたわけではないが、ラキエルの姿を見て安堵した様子を見せた。


「何があったの? エミリさん」

「それが…採血をしようと思ったのですが、やはり怖がってしまって。慣れているハンナさんが居なくなってしまったのもありますし、そもそも針が怖いんだと思います。採血をどのように説明すれば良いかも、ちょっとわからなくて。」

「わかった。針は余分あるよね? まず俺に刺して」


 そう言ってラキエルは袖をまくりあげ、自分の腕を差し出す。


「よろしいのですか?」

「いいよ。それが一番、効果的でしょ。血も抜いていいから」


 ラキエルはリリシアのすぐ隣に腰を下ろした。


「リリシア、見てて」

「はい…」

「では、採血しますね。」


 エミリは、ラキエルの腕に針を刺した。

刺した瞬間にリリシアはビクッと身体を震わせ、不安そうな表情でラキエルの仮面を覗き込んだ。


「少しだけ、痛い」


 ラキエルは、なるべく少ない単語で状況を説明する。


「でも大丈夫。検査につかう」


 ラキエルの腕から血が抜かれ、小さなボトルに入っていく。

採血が終わり針を抜く。

抜かれた箇所を、ラキエルは強く押さえながら言った。


「リリシアも、できる? いや?」


 嫌がったら、また明日同じように自分が見本を見せて、彼女の意思が変わったか確認をすれば良い。

自分の血が何度抜かれようと、それで少しずつでもリリシアが慣れて理解して、不安を拭えるなら構わなかった。

少し考えたリリシアは、怖がりながらもエミリに腕を差し出した。


「見なくても良いよ。見てるの怖かったら、俺の方見て」

「はい。」


 不安に揺れる宝石みたいな桃色の瞳が、ラキエルを真っ直ぐ見る。


(綺麗だな…吸い込まれそう)


 無意識に、ラキエルの仮面がリリシアに少しずつ接近する。


「はい、終わりました!リリシアさん、お疲れさまでした。ここを強く押さえられますか? ラキエル博士も、ありがとうございます。お陰で助かりました。」


 ラキエルは圧迫していた自分の腕から手を離すと、今度はリリシアの腕を圧迫した。

ひと仕事終え、安堵したエミリは採取した血液を薬剤と混合しながら、リリシアの様子を確認し「平気そうですね」と、検査器のある医療区画へ向かうため部屋を後にした。


「リリシア、大丈夫?」

「すこし…」


 終わった直後よりも明らかに青白い顔で具合が悪そうなリリシアを、ラキエルは抱きしめるように抱えた。

2人で腰掛けていた場所はリリシアの使うベッドだった。

リリシアを抱えたラキエルは、そのまま優しく上半身をベッドに倒した。

そして離れると、リリシアの足もベッドの上にあげ、水平に寝かせた。


「少しこのまま休めば良くなるよ」


 圧迫していない方の手で、リリシアの顔に掛かった髪を除けようと、髪をサイドに流すよう撫で付ける。


「さらさらだね、綺麗な髪」


 これも無意識だったが、目の前のリリシアの青白かった顔がみるみる赤く染まっていくのを見て、自分の考えた事がそのまま口から出ていた事に衝撃を受ける。

昨日も無意識に名前を呼んでしまい焦ったばかりなのに。


(え、俺また変なこと口走ってる)


「ご、ごめん…」


 顔が赤くなるほどに血液が回ったのが功を奏したのか、リリシアの顔色はその後すぐに元に戻り、ベッドから起き上がった。

圧迫も、そろそろ必要ないだろう。

ラキエルはリリシアの腕から手を離すと勢い良くベッドから立ち上がり、椅子に座り直した。


「ラキエルさん、ありがとう、ございます。」


 さっき介抱した事に対するお礼だろうか。

少し混乱して余計な事までしてしまった気がするから、お礼を言われるのは忍びない。


「…ラキエル、って呼んでみて」

「ラキエル…?」

「うん、それがいい。勉強はじめても、いい?」

「はいっ!」


 嬉しそうな笑顔に乗せて返ってきた返事からは、彼女が本当に勉強熱心である事が覗えた。

ラキエルは今朝受け取ってきた備品のうち、ノートと筆記用具を取り出す。

途端にリリシアが目を輝かせた。


(日誌もつけていたし、ペーパーメディアに文字を書くのが好きかもって予想はビンゴかな)


「最初は、俺が書く。リリシアが覚えた、ここの言葉を教えて欲しい」

「はい。おはようございます。ありがとうございます。おつかれさまです。いただきます、ごちそうさまでした。またあした、おやすみなさい…」


 まずは挨拶から攻めるのか、なるほど…と思いながら、少し行間を広めにとって書き留める。

挨拶をまとめてきたという事は、挨拶であるという事を間違いなく認識している、さすがだ。

そしておそらく省略されたかたちも丁寧なかたちも両方耳にしているはずだが、より丁寧な言葉で記憶しているようだ。

これも後から、それぞれの違いや使いどころを教える際に都合が良くて助かるな。なんて、考えながら書いていると、文字を書くところを見たいのかリリシアの言葉が止まり、ノートとペンに視線が釘付けになる。

書き終わると、今度は書いたものを再度読んで、簡単に説明をする。


「おはようございます、は朝の挨拶。起きたときとか、午前中とか。リリシアの言葉では、何と言うの?」


『おはようございます』


「それ、ノートのこっち側に書いて」


 そう言ってペンを渡すと、リリシアはノートの右側に文字を書いた。

それを見たラキエルは、ここ2日で解析した内容と一致している事を確認する。

そうして上から順番に、同じようにお互いの言葉で読んだり、書いたりを繰り返していった。


 最初の見開きは、すべて挨拶の言葉で埋まった。

リリシアが覚えていなかった関連する単語も、広めにとった行間に書き足し、同じようにお互いの言葉を教え合った。

例えば「おはようございます」に関連して、日中であれば「こんにちは」、夜間は「こんばんは」、の挨拶がある事を彼女は認識できていなかった。

それもそのはずだ、研究所内では朝の挨拶はすれど、その後はいつの時間帯でも「お疲れ様です」になってしまうのだから。

日常的に使う言葉を優先して記憶するのは自然な事だ。


「少し休憩しようか」

「はい。」


 休憩と伝えたはずだが、彼女は先ほどまで一緒に書いていたノートを、嬉しそうに読み返していた。

言語学習の端末が与えられているようで、そちらとノートを見比べて単語の発音を再確認していた。


「聞くと、話す、ができても読む、と書き方わからなかったから。勉強、ありがとうございます。ラキエル。」

「うん、よかったね」

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