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応援席

作者: ホチ

 「どうして言わなかったんだよ?逃すのこれで何度目だ?」

 榎本は友人の沖のあまりのヘタレっぷりに呆れ半分怒り半分でジョッキに残っていたビールを一気に飲み干した。

 「せっかく美歩と隣になれるように仕組んだのにチャンス潰しやがって」

 「だからごめんって。もう勘弁してくれよ、僕なりに頑張ったんだよ」

 打ち上げ会場となった店で、榎本はトイレから帰ってきたときにそれとなく沖を美歩の隣になるように席に着いた。話も多々振ったのにもかかわらず沖は話を弾ませるどころか美歩が隣になったとたんにしどろもどろになり、二人の会話は榎本の観る限りゼロだ。なんと情けないことか。

 打ち上げ後、榎本と沖二人での二次会は当然のように反省会となっていった。

 「どうすんだよ、美歩の奴その気になったら男なんてすぐにできるぞ。見て呉れはかなりのもんなんだから」

 「そうなんだよ、美歩ちゃんかわいいんだよ。可愛すぎて緊張するんだよ・・・・・・」

 沖は榎本になら躊躇いなく「かわいい」「好きだ」「etc」と連呼する。榎本が躊躇う恥ずかしい言葉の数々だ。何故これを本人に言えない。美歩の前で喋ったらいけないというルールでもあるのかとたまに榎本は本気で疑ってしまう。

 「とにかくだ。次の作戦を練ろう。早く決着つけないと本当に手遅れになるぞ。次で決めろ、なんとしても」

 「わかった」

 榎本の激励に沖は決意を新たにした。

 「僕も、次こそ覚悟を決めるよ。そのためにも何とか二人きりになりたいーー」

 二人の案が練られていった。

 榎本としては結果がどうであれ、沖に一刻も早く美歩に想いを伝えて欲しかった。ーーこれ以上は自分は保たない。想いが揺らぎ、沖を裏切ってしまいそうで怖かった。

 沖が先にぶっちゃけた。「美歩が好きだ」と。

 榎本も以前から美歩のことを当然気にしていた。しかし、今の関係が揺らいでしまうことを恐れ様子を見ることしかできなかった。その結果がこれだ。榎本は身動きがとれなくなってしまい、無二の友人を応援するしか選択肢は残されていなかった。美歩への想いはひた隠して。

 今更「俺も」とは言えない。沖は榎本を完全に信用しきっている、これで榎本が動けばそれは裏切りだ。だから動けない。



 榎本は美歩と世間話をしつつ沖のため行ってみたい場所などの情報を探り少しずつ集めた。

 話している最中の美歩は魅力的だった。誰にでも自然体で、表情がころころ変わる。媚びもしないし、嫌なことはハッキリ断る。だが、嫌な感じはしない。美歩と話す相手は皆笑顔だ。そこに沖は惚れた。榎本も、他のみんなも。



 「沖、美歩が行きたい場所ってミナトミライのイベントだってさ。おまえと今度の日曜行くって言ったら一緒に行くってさ!」

 「マジか!?ありがとう榎本!今度こそ決めるよ」

 「それじゃあ頑張れよ。俺は行かないから結果だけは報告してくれ」

 「一緒にいてくれないのか?」

 「アホか。二人きりになりたいって言ったの沖の方だろ。当日俺は風邪引いたことにするから」

 「そうか・・・・・・わかった。ありがとな」

 「沖、告白はタイミングと勇気だからな」

 榎本は早くもそわそわしだした沖に苦笑しながら伝授した。ーー今度こそ諦めがつく。



 「来れない?風邪?何それ!罰として今度の昼おごりだからね」

 日曜、榎本は謝罪の連絡に怒られながらも美歩には許しをもらえた。後は沖の健闘を祈るばかりだ。

 今日で終わる。そう考えると何もする気が起きず、貴重な休日は家でゴロゴロするばかりになってしまった。

 夕方になり、沖からのメールが届いた。果たして上手くいったのだろうか、しかし解散にはまだ早いのではないかと思いつつメールを開いてみると、

 「やっぱり言えなかった。それで今日はもう解散した」

 ずっこけた。何をやっているんだ。榎本は憤慨した。急いで詳細を求めるメールを送ると電話が鳴った。

 「沖か。何やってんだよ!いい加減協力するの辞めるぞ」

 「ごめん。だけどもういいよ。これからは自分一人でなんとかする」

 「・・・・・・どうした?」

 「気付いたから。美歩ちゃんはもちろん最高だったよ。いつもみたいに明るくて笑ってたんだよ。だけど気付いちゃってさ、告白するテンションにまで持って行けなかった。それに多分今言っても振られてたと思う。残念ながら美歩ちゃんはまだ僕のことをそういう目で見てくれてないらしい」

 「そっか。けど、どうして突然一人でするなんて言いだしたんだ?それに気付いたって何にだよ?美歩の好きな奴とかか?」沖の様子が少し違い戸惑った。

 「違うよ、そうじゃない。美歩ちゃんとおまえの話をしたんだよ。おまえが美歩ちゃんとどういう風に話してるのかを訊いたんだよ。そしたら榎本、おまえが美歩ちゃんのこと好きだってことがわかったよ。安心しろって、美歩ちゃんはおまえの気持ちに気付いてない。良くも悪くも美歩ちゃんは天然だよ」沖は電話越しで笑った。

 「なんで俺との話を聞いただけでそうとわかるんだ?俺は美歩のことなんて好きじゃないよ」

 「何年おまえと親友してきたと思うんだよ。わかるよそのくらい。・・・・・・二人のときに全く気付けなかった奴の言葉じゃないな。今までごめん、しんどかったろ」

 「だから、違うって!」榎本は声を荒げた。心臓が倍になった気分だ。どうして今頃になって気付いた。

 「いいんだよ。だから本当のことを教えてくれ。僕ら親友だろ?」

 沖は本当に恥ずかしい言葉をよく使う。親友なんて電話越しにしても面と向かって普通言えるか。

 「で、どうなんだよ?」

 「・・・・・・好き、かな」榎本は呟いた。

 「何?電波悪くて聞こえない」

 「・・・・・・だから!俺も好きだよ!美歩のこと!」

 やっと言えた。秘めていたものを吐き出せた。

 「わかった。榎本、これからはおまえも戦列に加われ。言っておくけど競争率半端じゃないよ」

 「わかってるよそんなこと」ーーずっと後ろで観てきたのだから。

 「それじゃあこれからは僕らはライバルだな」

 「悪いけど沖には負けない自信あるよ。おまえはヘタレだからな。こうなった以上は本気で美歩のこと狙いにいく。ライバル多そうだし、出遅れた分は急いで取り戻す」

 「いいね〜その決意。これからは親友と書いてライバルと読む関係だな」

 「危機感ないんだな、そこは沖らしいけど。・・・・・・恨みっこなしだからな」

 「わかってるよ。けど僕は榎本にだったらたとえ負けたとしても後腐れなく祝福できると思うよ」

 俺もだよ。とは榎本には言えない。裏切ろうかと思ってしまったことのある自分を恥じた。そして、この照れくさい言葉をすぐ言えるという武器を美歩の前でも使えるようになったとき、その時が自分の負けが決まる瞬間かもしれない。と電話を切った後、榎本は沖と美歩二人並ぶ姿を漠然と想像した。お似合いで困った。

読んで下さってありがとうございました

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