この出会いに感謝を(前編)
昼食を食べ終えると、私達は再び町を歩き回った。特に目的があるわけでもなく、ただぶらぶらと歩くだけ。それでも楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、気づけば夕暮れ時になっていた。
「もうこんな時間か」
「そうね」
茜色に染まった空を見上げ、私達は呟く。
「おや? そこにいるのは……」
振り返ってみると、そこには見覚えのある人物が立っていた。
「確か君は……ハルト君だったかな?」
「あ……えっと、はい。お久しぶりです」
以前会った時とは服装が違うため一瞬戸惑ったが、すぐにその人の名前を思い出すことができた。
「今日はまたどうしてこの町へ?」
「はい。ちょっと観光に来まして」
「ほう、それはいいな! ぜひ楽しんでいってくれたまえ!」
快活に笑う彼を見て、私も思わず笑みを浮かべる。
彼はエルドレッド・フォン・エインヘルヤル公爵だ。
王都にいるはずの彼が何故ここにいるのかと思ったのだが、どうやら公務ではなく休暇を利用してきたらしい。
「それにしても、まさかこんなところで君に会うなんて思ってなかったよ」
「ですね。私も同じ気持ちですよ」
そんな会話を交わした後、私達はお互いに顔を見合わせると、同時に噴き出した。
「フッ……ハハハッ!!」
「アハハッ!!」
何が可笑しいのか自分でもよく分からないけれど、とにかく笑いが止まらない。
しばらく腹を抱えて笑い続けた後、ようやく収まった私は目尻に浮かんだ涙を拭いながら言った。
「本当に奇遇ですね」
「ああ、まったくだよ」
そうして二人の間に穏やかな空気が流れる中、突然私の服の裾がくいくいと引っ張られた。
「ん? どうかした?」
「ねえ、ハルト兄ちゃん」
視線を向けると、そこにはどこか不機嫌そうな表情を浮かべているユノの姿があった。彼女は頬を膨らませながら言う。
「このおじさん誰なの?」
「こっ、おじ!?」
「ちょ、ちょっと待ってくれないか!? 私はこれでもまだ二十七なんだぞ!?」
衝撃を受けたように叫ぶエルドレッドさん。しかしユノはさらに追い打ちをかける。
「だって私より十歳も年上なんでしょう?」
「そ、それは確かにそうだが……」
「じゃあやっぱり『おじさん』じゃないの」
「ぐぬうぅ……ッ!!」
容赦のないユノの言葉攻めに、エルドレッドさんは胸を押さえながら膝をつく。その姿からは哀愁すら漂っていた。
それを見ていた私は再び噴き出しそうになるのを堪えながら、なんとかフォローしようと口を開く。
「えっと……ユノ、この人はね――」
だが、そこでふと思い留まる。
果たして、私が彼のことを説明してもいいものだろうか。仮にここで彼に自己紹介をしてもらったとしても、それでユノの記憶に残るとは限らない。むしろ逆に忘れてしまう可能性の方が高いだろう。
だとしたらここは私が代わりに紹介するよりも、本人に直接名前を聞いてもらう方が確実かもしれない。そう考えた私は、未だショックを引きずっている様子のエルドレッドさんに声をかけた。




