長瀞に着いたら何をしようか
長瀞に着いたら何をしようか。
「……あ、そうだ」
私は思い出した。
そういえば、この前、夢に出てきた人が言っていたっけ。
「――あなたはきっと、いつかまた私のところにくる」
あの言葉の意味を確かめてみようか?いや、でも……
私があれこれ考えているうちに、電車は長瀞駅に到着した。長瀞駅は観光客を意識した駅舎である。赤い方形屋根である。「歴史を物語る木造建築の駅」として「関東の駅百選」に選定されている。駅舎の中にはカエルのマスコットが置かれている。郵便ポストも円筒形でレトロである。
長瀞駅から徒歩五分くらいのところにある食堂で私は甘酒を飲みながら読書をしていた。窓の外には鬱蒼とした木々が見える。今日も天気が良く、山々から吹き下ろす風は爽やかな冷たさを帯びている。店内に流れるクラシック音楽を聴きながら、本を読んでいると、時間が経つのを忘れてしまう。
しかし、ふと思い立って時計を見ると、午後二時を過ぎていた。そろそろお昼を食べないと……。
その時だった。カランコロンという音とともに店のドアが開き、誰かが入ってきた。その人物はまっすぐ私の席まで来ると、テーブルを挟んで向かい側に座った。
私は顔を上げて言った。
「こんにちは」
「……え?」
彼女は戸惑っている様子だ。まぁ、無理もない。突然見知らぬ人が声をかけてきたんだからな。私は苦笑しながら言った。
「覚えてませんか?ほら、前に一度、夢の中で会った……」
すると、彼女の表情が変わった。そして、驚いたように目を見開いた。
「あ!あのときの!」
彼女は言った。
「思い出してくれたみたいですね」
「はい」
彼女はうなずき、微笑んだ。
「まさかこんなところで会うなんて思ってませんでした」
「私もです」
私は言った。
「ここで何してるんですか?」
「ちょっと休憩しにきたんですよ」
「そうなんですね。仕事ですか?」
「いえ、学校に通っています」
「へぇー。学生さんなんですね」
「はい。文学部の三年生です」
「じゃあ、今は就職活動とか忙しい時期じゃないですか?」
「そうですね。でも、今年はまだ少し余裕ある感じですよ」
「そうなんですか」
「そういう人もいるってことです」
「なるほど」
私はうなずくと、彼女に訊いた。
「ここに来たのは初めてですか?」
「はい」
「甘酒は美味しかったでしょう?」
「すごく美味しかったです。あんなに香りの良い甘酒は飲んだことなかったかも」
「よかった。ここに来て正解でしょ?」
「はい」
彼女は笑顔を浮かべると、思い出したように言った。
「そういえば、自己紹介がまだでしたよね。私の名前は小森陽菜子といいます」
「私は高坂茜と言います」
「よろしくお願いします」
小森さんはとても嬉しそうだ。それから私たちは色々な話をした。好きな小説の話や趣味のことなどを話し合った。




