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林田力 短編小説集  作者: 林田力
短編2
89/103

サンタクロースの衣装で冬期講習

「それでは、私はこれで」

「あぁ、またな」

そう言って、私と神原は別れた。

帰り道。

まだ日が暮れていない時間帯だからか、人通りは多い。いつも通りの街並みに、いつも通りに人が歩いている風景だ。ただ、その人々の格好だけが普段とは少し違う。どことなく、浮ついた雰囲気がある。

――クリスマスの余韻がまだ残っているのだ。

まあそれも無理のないことだけれど……、しかし、そんな街の風景の中で、明らかに不釣り合いな格好をした少女がいた。その少女は、サンタクロースだった。

赤い服を着て白い髭をつけた、典型的なサンタクロースの姿である。……何だろう、この違和感のある光景は? いや、確かにサンタ服自体は、そこまで奇抜なものではないから、街中でも見かけないことはないのだが、問題はそこじゃない。

どうしてこんなところに、サンタがいるのかということなのだ。しかも、そのサンタは、小さな女の子だった。小学生くらいだろうか……、とにかく小さい。私が知っている限りでも、この町には子供がいないはずだし、だとするとあの子はどこから来たんだろう。まさか、この町の子供ではないよな……。

私の視線に気付いたらしく、そのサンタの少女はこちらを振り向いた。そして、「あっ!」という顔をする。それから小走りになって駆け寄ってきた。

「阿良々木先輩! 阿良々木先輩ですよね!?」

「えっ?」

見覚えはない……と思う。だが、向こうは僕を知っているらしい。私は記憶力が悪い方ではないが、それでもやはり知らない顔だと思うのだが。

「ほら、去年の夏休みに、忍野さんと一緒に来てたでしょう?」

言われて思い出す。ああ、そうだ。確か八九寺真宵とかいう名前だったか。あの時のことは鮮明に憶えている。印象的だったからだ。戦場ヶ原のことを『鬼』と呼んだ少女。あの時はまだ、忍野とも出会っていなかった時期だった。

「……ん? でもお前、あの時は、髪形違ったよな?」

今はショートヘアになっているが、当時は髪を下ろしていた。それに服装だって全然違う。今日は普通の洋服だし。

「はい、あれから伸ばしました」

「へー……って、じゃあ、今は何歳なんだ?」

「十一歳です」

ということは小学五年生か。

そう言えば、中学一年生の春休みの頃だったか、戦場ヶ原の家に家庭教師をしに行ったとき、戦場ヶ原の妹の同級生ということで、会ったことがあったような気がする。

「背丈も随分伸びたな……」

「そうなんです。もうすぐ百四十センチになります」

しかし、こうして見ると、本当に可愛らしい子だ。戦場ヶ原の友達とは思えないほどに。

「それで、どうしたんだよ、八九寺。こんなところで何してるんだ?」

「はい、これから学習塾に行くところなんですよ。ここからバスで十分ほどのところにあるのですけど、そこで冬期講習が行われることになっているんです。毎年恒例のイベントなので、わたしのような小学生は全員強制参加というわけですね」

「なるほどな。そりゃ大変だ」

「いえいえ、別に苦ではありませんよ。楽しみにしてることの方が大きいですし。ただ、サンタクロースの衣装を着て参加することになっていて、それが恥ずかしかったものですから」

「そうなのか?……うん。まあ、可愛いんじゃないか?」

「ありがとうございます。阿良々木先輩に褒められると嬉しいです」

「僕の言うことを何でも素直に信じちゃ駄目だよ。鵜呑みにし過ぎるのはよくない。特に男の言葉は気をつけろ。奴らはいつだって嘘をつくからな。すぐに調子に乗るぞ」

「大丈夫ですよ。阿良々木先輩の言うことでしたら信じられます」

「お世辞を言ってくれるじゃないか」

「本心ですよ?」

「……」

何だろう、この罪悪感は。小学生相手に何を言ってるんだろう、僕は。


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