サンタクロースの衣装で冬期講習
「それでは、私はこれで」
「あぁ、またな」
そう言って、私と神原は別れた。
帰り道。
まだ日が暮れていない時間帯だからか、人通りは多い。いつも通りの街並みに、いつも通りに人が歩いている風景だ。ただ、その人々の格好だけが普段とは少し違う。どことなく、浮ついた雰囲気がある。
――クリスマスの余韻がまだ残っているのだ。
まあそれも無理のないことだけれど……、しかし、そんな街の風景の中で、明らかに不釣り合いな格好をした少女がいた。その少女は、サンタクロースだった。
赤い服を着て白い髭をつけた、典型的なサンタクロースの姿である。……何だろう、この違和感のある光景は? いや、確かにサンタ服自体は、そこまで奇抜なものではないから、街中でも見かけないことはないのだが、問題はそこじゃない。
どうしてこんなところに、サンタがいるのかということなのだ。しかも、そのサンタは、小さな女の子だった。小学生くらいだろうか……、とにかく小さい。私が知っている限りでも、この町には子供がいないはずだし、だとするとあの子はどこから来たんだろう。まさか、この町の子供ではないよな……。
私の視線に気付いたらしく、そのサンタの少女はこちらを振り向いた。そして、「あっ!」という顔をする。それから小走りになって駆け寄ってきた。
「阿良々木先輩! 阿良々木先輩ですよね!?」
「えっ?」
見覚えはない……と思う。だが、向こうは僕を知っているらしい。私は記憶力が悪い方ではないが、それでもやはり知らない顔だと思うのだが。
「ほら、去年の夏休みに、忍野さんと一緒に来てたでしょう?」
言われて思い出す。ああ、そうだ。確か八九寺真宵とかいう名前だったか。あの時のことは鮮明に憶えている。印象的だったからだ。戦場ヶ原のことを『鬼』と呼んだ少女。あの時はまだ、忍野とも出会っていなかった時期だった。
「……ん? でもお前、あの時は、髪形違ったよな?」
今はショートヘアになっているが、当時は髪を下ろしていた。それに服装だって全然違う。今日は普通の洋服だし。
「はい、あれから伸ばしました」
「へー……って、じゃあ、今は何歳なんだ?」
「十一歳です」
ということは小学五年生か。
そう言えば、中学一年生の春休みの頃だったか、戦場ヶ原の家に家庭教師をしに行ったとき、戦場ヶ原の妹の同級生ということで、会ったことがあったような気がする。
「背丈も随分伸びたな……」
「そうなんです。もうすぐ百四十センチになります」
しかし、こうして見ると、本当に可愛らしい子だ。戦場ヶ原の友達とは思えないほどに。
「それで、どうしたんだよ、八九寺。こんなところで何してるんだ?」
「はい、これから学習塾に行くところなんですよ。ここからバスで十分ほどのところにあるのですけど、そこで冬期講習が行われることになっているんです。毎年恒例のイベントなので、わたしのような小学生は全員強制参加というわけですね」
「なるほどな。そりゃ大変だ」
「いえいえ、別に苦ではありませんよ。楽しみにしてることの方が大きいですし。ただ、サンタクロースの衣装を着て参加することになっていて、それが恥ずかしかったものですから」
「そうなのか?……うん。まあ、可愛いんじゃないか?」
「ありがとうございます。阿良々木先輩に褒められると嬉しいです」
「僕の言うことを何でも素直に信じちゃ駄目だよ。鵜呑みにし過ぎるのはよくない。特に男の言葉は気をつけろ。奴らはいつだって嘘をつくからな。すぐに調子に乗るぞ」
「大丈夫ですよ。阿良々木先輩の言うことでしたら信じられます」
「お世辞を言ってくれるじゃないか」
「本心ですよ?」
「……」
何だろう、この罪悪感は。小学生相手に何を言ってるんだろう、僕は。




