帰宅後に僕はベッドの上に寝転んで天井を眺めていた
帰宅後に僕はベッドの上に寝転んで天井を眺めていた。
「幽霊か――」
僕は目を閉じて記憶を辿った。しかし、いくら考えても、あの日、あの場所に女の子がいたという事実を思い出すことはできなかった。
――一体あれは何だったんだろうか?僕は、あの日のことを思い浮かべた。
――あの子は、一体どこから来たんだろう?
――あの子の目的は何だったんだろうか?
――あの子の本当の目的は? 僕は、あの子が言っていた言葉を思い出した。
『私の名前は、××』
「××……。それが、彼女の名前だったのかな?」
僕は、もう一度、彼女に訊いてみるべきだと思った。
「よし!」
僕は勢いよく起き上がると、机の上に置いてあった携帯電話を手に取った。そして、アドレス帳の中から『××』という名前を探し出した。「えーと……。確か、名前は『れい』とか言ったっけな……。漢字は分からないけれど……。とにかく、これで登録しておけば大丈夫だろう。あとは、電話を掛けて、彼女が出てくれるかどうかだけど……。まあ、ダメなら、その時はその時だ。とりあえず、掛けてみよう。ええと……番号は……と」
僕は番号を押し終えると、ドキドキしながら呼び出し音が鳴るのを待った。すると、すぐに、プツッという音が聞こえてきた。どうやら、彼女は電話に出てくれたようだ。僕は、緊張しながらも、恐る恐る声を出した。
「も……もし……もし……」
「はい?」
受話器の向こう側から女性の声が返ってきた。どうやら、間違いない。この人が、僕の探していた人に違いない! 僕は興奮を抑えながら言葉を紡いだ。
「あっ、突然すみません。実はですね、あなたにどうしても伝えなければならないことがあるんです。それは、あなたのことなんですよ。いいですか? 落ち着いて聞いてくださいね? 今から言うことは真実ですから。嘘なんかじゃありませんから。信じてください。お願いします。では、言います。あなたの本名は、『れい』さんですよね?」
「……」
返事はなかった。ただ、沈黙だけが漂っている。
「えっ!? 違いました!? それとも、間違っていました!?」
「いえ……」
小さな声で女性が言った。
「そうです。私の名は、零崎玲於奈といいます……」
「ああ、やっぱり!」
僕は嬉しくなって叫んだ。
「それで?」
「はい!?」
「あなたは、どうして、そんなことを訊くのでしょうか?」
「えっ?……それは……」
まさか、君に会いたいからだよ、とは言えなかった。
「いやぁ……。何と言いましょうか……。そのぉ……」
「ひょっとしたら、誰かと勘違いしていらっしゃるんじゃないでしょうか?」
「勘違い!?」
「ええ……」
女性は静かに答えた。
「だって、私は幽霊ですよ?」
「幽霊? 幽霊ってどういう意味なんでしょう? 僕にはちょっと理解できないのですが」
「そのままの意味です」
「つまり、幽霊というのは、死んだ人の魂のことを指しているわけでしょ?」
「はい」
「じゃあ、君は死んでいないってことだよね? 幽霊じゃないってことでしょう?」
「そうですね」
「じゃあ、何なんだい? 君の言っていることが全然分からないよ」
「そう言われても困ります」
女性は淡々と答えた。
「私にも分かりませんし……。それに、私が生きているのか死んでいるのかなんて、私自身にも判断できかねることなのですから……。それを他人であるあなたに説明することなどできるはずがないじゃないですか……。ごめんなさい……。私の説明の仕方が悪いせいかもしれませんけど……。でも、本当に分からないんです……」
「うーん……」
僕は腕を組んで考え込んだ。確かに彼女の説明は筋が通っているように思えた。しかし、その一方で、何か違和感のようなものを感じた。まるで、どこかがおかしいような気がするのだ。しかし、それがどこなのか、僕には分からなかった。
だからといって、このまま電話を切るのも躊躇われた。せっかく見つけた手がかりなのだ。ここで諦めたら二度と彼女に会うことはできないかもしれない。僕は、必死になって考えた。そして、一つの結論に達した。そうだ!
「あのさ、れいさんは、自分がどこから来たか覚えているかい?」
「ええ……。もちろん、はっきりと覚えています」
「じゃあさ、その場所に行ってみようか。そこに行けば、きっと、れいさんが幽霊かどうか分かるはずだよ」
「なるほど。そういうことなんですね」
彼女は納得してくれたようだった。
「分かりました。行きましょう」
「じゃあ、今すぐ行こうか? れいさんはどこにいるんだい?」
「そうですね……」
彼女は少し考えてから言った。
「じゃあ、××公園に来てくれませんか? そこで待ち合わせをしましょう。場所は、ここからだと、だと、歩いて十分ぐらいのところになります。分かります?」
「うん。大丈夫だと思う。分かった。じゃあ、今から行くから待っていてくれるかな?」
「はい。お待ちしています。では、後程――」
「ああ、またね――」
僕は電話を切った。急いで服を着替えると、部屋を飛び出した。




