本当に幽霊なんているのかな
「本当に幽霊なんているのかな?」
「俺はいると思うね」
山下は自信ありげに応えた。
「へえー……。意外だな。お前なら、いないと言い張るかと思ったよ」
「確かに、幽霊の存在を信じていない奴は多いかもしれない。でも、それはあくまで少数派だと思うんだよな。大半の人間は、心のどこかで信じてるんじゃないか?」
「なるほど……。そうかもな」
僕は納得して肯いた。
「それに、世の中には科学じゃ説明できないような不思議なことがたくさんあるじゃないか」
「ああ……。そうだよな。例えば、超能力とか――」
「そう!それだよ! お前もやっぱり、あのことを覚えていたか! 俺もあれ以来ずっと考えていたんだよ! あれは一体どういうことだったのかなって!」
山下は興奮気味にまくし立てた。
「俺にも分からない」
僕は首を振った。
「でも、もし仮に超能力が存在するとしたら、世の中に超常能力者と呼ばれる人たちがいてもおかしくはないと思わないか? つまり、普通の人間には見えないものが見える人がいたり、触れないものに触れたりできる人がいたとしても不思議じゃないってことだ」
「うーん……。どうなのかな?」
「俺の考えが間違ってるって言いたいのか?」
山下は不機嫌そうに眉根を寄せた。
「いや、そういうわけじゃねぇんだけど……」
「だったら黙って俺の話を聞いてろ」
「はい……すみません」
山下は小さく溜息をつくと言った。
「いいかい? 俺が思うに、超能力というのは、人間の潜在意識の中に眠っている力のことなんだ。そして、その力は普段は眠っていて、何かのきっかけによって目覚めることがある。それが、いわゆる『覚醒』というやつだ。でも、中には、その力が目覚めたことに気付かないまま一生を終える人もいるだろう。
あるいは、『自分は特別な存在なのだ!』と思い込むあまり、自分が他人とは違うのだと勘違いしてしまう者もいるはずだ。そういう人は、自分の力を誇示するために、わざとおかしな行動を取ることもあるだろう。もちろん、そういった人たちは、決して悪いことをしているわけではない。むしろ、善良な市民であると言えるだろう。
だけど、中には、その能力を悪用する輩もいる。彼らは、他人の弱みを握ったり、時には命を奪うことも厭わず、自分だけが得をすることを考えたりしている。その結果、大勢の人間が不幸になってしまう。これは、非常に悲しい現実だと思わないか?」
「まあ……な」
僕は曖昧に同意した。
「でもさ、そんな悪人ばかりではないんだぜ? 中には、純粋に正義のために行動する者たちも存在する。彼らもやはり、何らかの理由で悪の道に染まってしまっただけであって、本当は心優しい人物なのかもしれない」
「ふむ……」
僕は腕組みをして考え込んだ。
「それで?」
「えっ?」
「いや、それでどうなったんだ?」
「どうって……?」
「だから、結局、何を言いたかったんだ?」
「あっ、そうそう。それで、だ。さっきも言ったように、俺は、この世に悪と善が存在している以上、必ず、どちらか一方が存在しなければならないと思っている。そして、それは、俺たち人間も同じなんじゃないか? 俺たちだって、生まれながらにして邪悪な部分を持っている可能性だってあるんだ。それは、誰だって同じだ。みんな、多かれ少なかれ、心に闇を抱えている。だからこそ、俺たちは分かり合えるんだ。きっと、この世界に生きるすべての人々が、お互いに手を取り合って生きていくことができれば、争いなんてなくなるはずさ。俺とお前のようにな」
「そうか……」
僕は山下の言葉を噛み締めるようにして呟いた。
「お前って、たまに良いこと言うよな」
「当たり前だろう。俺はいつだって真面目に生きているつもりだよ」
「はいはい……」
僕は苦笑した。
「ところでさ……」
僕は話題を変えた。
「その幽霊って、どんな姿をしていたんだ?」
「どんな姿って?」
「いや、だから……」
僕は少し口ごもってから言った。
「老女だったのか?」
「いや、違うらしいぞ」
「えっ!? 違うの!?」
僕は驚いて聞き返した。
「ああ……」
山下は肯いた。
「何でも、髪の長い少女の幽霊らしい」
「何だ。そうなのか……」
僕はホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあさ、男の姿の幽霊っていうのは?」
「それも、いないみたいだな」
「そっか……」
「ひょっとしたら、お前の彼女かもしれなかったのにな」
「うるせぇよ!」
僕たちは笑い合った。
「でも、本当に幽霊なんていると思うか?」
「うーん……。分からないな」
「だよなぁ……。でも、もしも本当にいたとしたら、会ってみたいな」
「ええー……。お前、怖いもの知らずだな」
「そうか? 別に怖がるような相手じゃないと思うけどな」
「へー……。お前って、結構大物なんだな」
「そうでもないよ」
山下は照れ臭そうに頭を掻いた。それから、しばらく他愛のない話をした後、山下は帰っていった。
「じゃあな」
山下は言って手を振った。
「おう」
僕は応えて、山下を見送った。




