昨日の出来事は全部夢だったのではなかろうか
昨日の出来事は全部夢だったのではなかろうかという気がしてきた。でも、そんなはずはない。あれは間違いなく現実に起こったことだ。僕が見たものは幻ではない。
学校へ行く途中、僕は何度も後ろを振り返ったが、林田さんの姿を見つけることはできなかった。
教室に入ると、いつものように山岸と鈴木が僕に近づいてきた。
「よう、おはよう」
山岸が声をかけてきた。
「ああ……」
僕は生返事をした。
「おい、どうしたんだ?」
今度は鈴木が言った。
「何か元気がないじゃないか」
「何でもねえよ」
僕はぶっきらぼうに応えた。
「ふーん……。そうか」
二人は不思議そうな顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。それから三十分後、授業が始まった。
午前中の授業が終わると、昼休みに入った。今日も屋上へ行って、みんなで弁当を食べることにした。
「おっす」
先に着いていた山下が片手を上げて挨拶した。
「おう」
僕たちも手を挙げて応えた。
「しかし、お前たち、毎日、飽きずによくやるよな」
「何が?」
「決まってるだろ? ここでメシを食うことだよ」
「それがどうかしたのか?」
「いや、別に……」
「変な奴だな」
「まあ、いいや。それより、今日の放課後のことなんだが――」
「悪い。俺、パスするわ」
「えっ?」
山下は驚いたように目を丸くして言った。
「どうしたんだ? 急用でもできたのか?」
「いや、そういうわけじゃねぇんだけど……」
僕は言葉を濁した。
「もしかすると、例の彼女と会う約束でもあるとか?」
「……」
「図星か」
「うるせぇよ」
僕はムッとして言った。
「別に怒らなくてもいいだろう。本当のことを言っただけじゃねぇか」
「悪かったよ」
僕は素直に謝った。
「それで、いつの間に彼女ができたんだ?」
山下は興味津々といった様子で訊いた。
「そんなんじゃないよ」
「また、嘘をつくつもりか?」
「いや、本当だって」
「じゃあ、どうして断るんだ?」
「それは……ちょっと事情があってさ」
「どんな?」
「それは言えない」
「どうして?」
「どうしてもだ」
「ふうむ……そう言われると、ますます気になるな」
「頼むよ。誰にも言わないからさ」
「駄目」
山下は渋々と引き下がった。
「ところで、話は変わるけど、今朝、学校で面白い話を聞いたんだ」
「何だ? 面白い話って?」
「実はさ、この学校に幽霊が出るらしいんだ」
「何だって!?」
僕は思わず大きな声を出してしまった。
「そんなに驚くことはないだろう」
「そりゃあ、普通は驚くさ。それにしても、まさか、こんな身近に心霊現象があるなんて思わなかったぜ」
「俺も同じさ。でも、実際に見たっていう生徒がいるんだよ。しかも、しかも、何人もな」
「マジか……」
僕は呆然と呟いて山下に尋ねた。
「その噂って、どこから出てきたんだよ」
「さっきも言った通り、今朝のホームルームの時に先生が話したんだろうけど、詳しいことは知らないな。でも、少なくとも俺たちの学年では結構広まっているみたいだぞ」
「そうなんだ……」
僕はガックリと肩を落とした。
「おいおい、何を落ち込んでるんだ?」
「いや、別に……」
「ひょっとしたら、彼女に会う予定があったんじゃないだろうな?」
「だから違うって言ってるじゃないか!」
僕は語調を強めて言うと、山下は「冗談だよ、冗談」と言って笑った。
「まったく……」
僕は大きく息を吐いて気持ちを切り替えた。




