林田神社の境内には大きなクスノキがある
林田神社の境内には大きなクスノキがある。樹齢は約700年だという。この木の下で結婚式を挙げるカップルが多いらしい。
「縁結びの神さまでもあるんですよ」
巫女姿の千佳子が言う。
「へえー、そうなんだ」
「私もここで式を挙げたんです」
「それは知らなかった」
「お兄ちゃんが結婚するときは、私が仲人を務めますよ」
「ありがとう」
「ところで、お兄ちゃんは何歳なんですか?」
「今年で24歳になるかな……」
「私は22歳です」
「そうだね」
「お兄ちゃんって呼んでもいいですか? なんか、お姉さんっていう感じじゃないし」
「いいけど……でも、俺には妹はいないぞ」
「じゃあ、私のことは千佳子とかチカとかチイコと呼んでください」
「わかった。これからよろしくね、千佳子」
「はい! こちらこそ!」
千佳子は元気よく返事をした。
「千佳子のお父さんとお母さんはどうしたの?」
「母は亡くなりました。父は再婚して新しい母と一緒に暮らしています」
「そっか……。ごめんなさい」
「気にしないで下さい。もう5年前ですから」
「今は一人で暮らしているのか?」
「いえ、友達の家に居候しています。その人の家に下宿しているのです」
「友達というのは女の子なのか?」
「はい。同じクラスの美香という娘です」
「ふうん……」
「どうかしましたか?」
「いや別に何でもないよ」
「変なお兄ちゃん」
千佳子が笑う。
「それで、今日は何を作るつもりなんだ?」
「カレーライスを作りたいと思います」
「それなら簡単だな」
「材料を買ってきましょう」
二人は商店街に向かった。
林田家の台所では、千佳子がタマネギを切っていた。
「お兄ちゃん、ニンジンを切り終わりました」
「よし、次はジャガイモを切ってくれ」
「わかりました」
「包丁を使うときは猫の手を忘れるなよ」
「はーい」
千佳子は手際良く野菜を切る。
「なかなか上手いな」
「料理は得意な方ですよ」
「俺は不器用だから羨ましいよ」
「お兄ちゃんは不器用ではないと思うけどなぁ」
「そうか? まあいいか。あとは炒めれば完成だな」
「そうですね」
鍋に油を入れて火にかける。そして肉を焼く。
「これで牛肉のステーキの完成だ」
「すごいです。美味しそうです」
「さて、ご飯の準備をするかな」
炊飯ジャーを開けると、炊きたてのお米があった。
「ちょうどよかった。米も炊けたみたいだし、後はルーを入れるだけだな」
「楽しみです」
林田家の食卓は、いつも賑やかな雰囲気になる。
「やっぱりカレーは最高だよ」
「そうですね。スパイスが効いてます」
「そういえば、千佳子は辛いものが苦手だったっけ?」
「そうでもないですよ。このくらい平気です」
「そうか。それなら良かった」
「それにしても、お兄ちゃんは料理が得意なんですね」
「そんなことはないよ。ただ慣れているだけ」
「それでも凄いです。私も見習わないといけませんね」
「千佳子にだってできることがあるはずだよ」
「例えば何ですか?」
「う~ん……。そうだな……」
「何か思いつきましたか?」
「掃除とか洗濯はどうだろう?」
「家事のことですか?」
「ああ。千佳子は一人暮らしをしているんだろ。自分でやらないといけないんじゃないか?」
「そうかもしれませんね」




