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林田力 短編小説集  作者: 林田力
短編
7/103

お手玉

林田力の目に一人の女性の姿が映り込んだ。その女性は、先ほどまで隠岐と話していた女性であった。彼女は縁側に腰掛けており、庭に向かって何かをしていた。林田力は不思議そうにその光景を見つめた。すると、その視線に気付いたのか、女性が顔を上げて林田力の方を見た。二人は目が合った。

「あら?」

女性は驚いたような声を出した。

「あなたは……」

「こんにちは」

林田力は笑顔で挨拶をした。

「えっ?」

女性は戸惑っているようだった。

「どうかしましたか?」

林田力は尋ねた。

「いえ、なんでもないわ」

その人は慌てるようにして立ち上がった。

「ただちょっとびっくりして……」

「そうなんですか?」

林田力は首をかしげた。その人はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

「あの……、林田さんでいいのよね」

「はい、そうですけど……。どうして知っているんですか?」

「ええっと、それは……」

その人は難しい表情を浮かべると、再び口を閉じた。どう答えたらよいか考えているように見えた。

「もしかして、誰かが私について話していたんですか?」

林田力は尋ねた。

「ええ……。そうよ」

その人はうなずいた。

「隠岐さんがあなたのことを楽しそうに話していらっしゃいましたから」

「なるほど」

林田力はその人の表情を見ながら言った。

「それで、隠岐さんが僕のことを面白おかしく話したので、名前を覚えてくれたということなんですね」

「いえ、そういうわけじゃないんだけど……」

その人は困ったように苦笑しながら答えた。

「違うんですか? でも、隠岐さんは私のことを面白い奴だって言ってましたよ」

「そうだったのね」

その人は小さくため息をついた。

「隠岐さんがそう言うのなら、きっとそうなんでしょう」

「ええ。まあ、確かに私は少し変わってるかもしれませんが」

林田力は笑みを見せた。

「ところで、何をされていたんですか?」

「ええ、これよ」

そう答えるとその人は手に持っていたものを見せてきた。それは丸いものであった。

「これは?」

林田力は尋ねた。

「えーと、確か、お手玉っていう遊び道具だと思うわ」

「へぇ。これがお手玉ですかぁ」

林田力は感心した様子でうなずいた。

「初めて見ました」

「そう。良かった」

その人は嬉しそうに微笑んだ。

「私、昔からこういうのが好きでよく遊んでいたの。だから、つい懐かしくなって作っちゃったんだけど」

「そうなんですね」

林田力は興味深そうに見つめた。

「ところで、このお手玉はどうやって遊ぶんですか?」

「そうね。まずは見てちょうだい」

その人はお手玉を一つ取ると、それを宙に投げ上げた。そして、落ちてくるタイミングに合わせて両手でキャッチする動作を繰り返した。林田力はそれをじっと見つめた。だが、特に変わったところはなかった。

「こんな感じよ」

その人がお手玉を投げるのをやめて説明を始めた。

「これを、こうやって投げるのよ」

その人は右手だけでお手玉を投げた。すると、左手にはいつの間にか別のお手玉を持っていた。

「おお!」

林田力は思わず声を上げた。

「すごい! 一体どういう仕組みになっているんですか?」

その人は微笑んだ。

「さっき見せた通り、投げて受け止めているだけなの」

「そうなんですね。う~ん。不思議だ」

林田力は首をひねった。

「ちょっとやってみてもよろしいでしょうか?」

「もちろんよ」

その人は笑顔のままうなずくと、もう一つお手玉を取り出して林田力に渡してきた。

「ありがとうございます」

林田力は受け取るとお手玉を投げ上げてみた。だが、上手くいかなかった。

「あれ?……おかしいな」

林田力は何度も試したが、やはり駄目だった。

「ふふっ」

その様子を見ていたその人はおかしそうに笑っていた。

「なかなか難しいでしょう」

「ええ、そうみたいです」

林田力は自分の不器用さに恥ずかしくなりながら答えた。

「でも、楽しいですね」

「そう言ってくれると嬉しいわ。作った甲斐があるわね」

その人は笑顔でうなずいた。

「よかったら、もっと作るから、持って帰ってもいいわよ」

「本当ですか?」

林田力は目を輝かせた。

「じゃあ、お願いします」

「分かったわ」

その人は楽しげに返事をした。

「それなら、たくさん用意してあげるわね」

「はいっ」

林田力は大きく首を縦に振った。

「あら、もう帰られるの?」

その人の言葉を聞いて林田力は我に帰った。見ると、窓の外は既に暗くなっていた。

「あっ、すみません」

林田力は慌てて立ち上がった。

「すっかり長居してしまいました」

「いいのよ。またいつでも来てくださって」

その人は優しい口調で言った。

「それに隠岐さんもきっと喜ぶと思うわ」

「そうですか」

林田力は照れくさそうに頭を掻いた。

「では、失礼いたします」

「ええ、気を付けてね」

その人は微笑みを浮かべたまま手を振った。林田力は一礼をした。先ほどまでよりも辺りが薄暗くなっているように思えた。

「ふう……」

林田力は小さく息をつくと、歩き始めた。

(しかし、まさかあの人がいるとは)

林田力は今の出来事を思い出していた。隠岐が私のことを面白おかしく話していたと言っていた。隠岐が私のことをどう言おうが別に構わないが、そのせいで名前を覚えられてしまうというのは何とも複雑な気分だった。まあ、私が覚えられやすい外見をしているというのもあるだろうが。そんなことを考えつつ歩いた。


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