どちらさまでしょう
「どちらさまでしょう?」
美千代の声だ。
「私です。覚えていませんか?」
若い男の声だ。
「どなたでしたっけ?」
「忘れたんですか。ほら、子供の頃に遊んであげたでしょう」
「ああ、あの時の……」
「思い出してくれました?」
「もちろんよ。久しぶりねえ。どうしたの、こんなところへ来て?」
「実は、頼みがあってきたんです」
「あら、そうなの。立ち話も何だし、上がってちょうだい」
「いえ、ここで結構です」
「そう?じゃあ、早速だけど、用件を話してくれるかしら?」
「はい。実は、この家に憑いている幽霊を追い払っていただきたいんです」
「幽霊を追い出すですって!?」
「ええ、お願いできませんでしょうか?」
「それは構わないけど、一体どういう事情なのかしら?」
「それが……」
男は言い淀んでいるようだ。
「言いにくいことだったらいいわよ。無理に聞くつもりはないわ」
「すみません。いずれわかることだと思いますので、今のうちにお話ししておきます。実は……」
「わかった!もういい!言わなくてもいい!何も言うんじゃない!!」
林田は大声で叫んだ。
「え?」
美千代と男が驚いている。
「いや、何でもありません。驚かせて申し訳ありませんでした」
林田は頭を下げている。
「はあ、別に構いませんけれど……、それで、引き受けていただけるんでしょうか?」
「そうですね。お話を伺った限りだと、何とかできるかもしれません」
「本当ですか!ありがとうございます」
「ただし、条件があります」
「どのような条件でしょう?」
「お金はいりません。その代わり、この家の中を調べさせてください」
「調べる?」
「はい。この家のどこかに、あなたに取りついている霊を呼び出した原因があるはずです。それを解明できれば、きっと問題を解決することができるでしょう」
「なるほど、そういうことでしたら喜んで協力させていただきます」
こうして、調査が始まった。最初に、家の中のあちこちを歩き回って、何か変わったことがないか探すことになった。
「最初に、一階の部屋を見て回りましょう」
「わかりました」
「それじゃ、僕たちは二階のほうを見てくるから」
二人を残して、美千代と男は階段を上っていった。
「ところで、あなたの名前は?」
「私は高橋といいます」
「では、高橋さん。さっきの話の続きを教えてもらえませんか?」
「わかりました。あれは私が小学校四年生の時の話でした。私は学校から帰る途中、道端に落ちていた石を拾ったのです。そして、その石を持って家に帰ったのですが、その日に限って両親は留守でした。仕方なく一人で夕食を食べた後、私は居間でテレビを見ながら宿題をしていました。すると、突然、どこからか視線を感じたのです。顔を上げると、そこには誰もいませんでした。気のせいでしょうと思い、再び机に向かったのですが、やはり誰かに見られているような気がします。そこで振り返ると、そこには……」
「そこに?」
「女の人の姿が見えたんです!」
「女の姿?」
「はい、髪の長い女性でした。着物を着ていて、とても美しい人でした。でも、なぜだか悲しそうな顔をしていたように思います」
「なるほど」
「私は怖くなって逃げ出そうとしましたが、足がすくんで動けなくなってしまいました。そうしているうちに、女性が近づいてきて、私の頭を撫でてくれたんです。その時は驚きましたが、不思議と嫌な感じはしなくて、むしろ懐かしい気持ちになりました。その後、女性は消えてしまい、私も落ち着きを取り戻して、そのまま寝てしまったというわけです」
「ふむ、興味深い話ですね」
「あの時以来、時々、女性の夢を見るようになりました。最初はぼんやりとしたイメージだったものが、だんだんはっきりしてくるようになったんです。最近では、はっきりと姿が見えるようになってきています」




