私はこの家の前の持ち主の娘でした
「私はこの家の前の持ち主の娘でした。名字は幸代といいます」
「幸代という名字なら聞いたことがある。確か、この辺りの名士じゃなかったかな」
「はい、父は地元の名士として尊敬されていました。ところが、ある日、突然姿を消してしまったのです。そして、しばらくしてから死体となって発見されました」
「殺されたというわけか?」
「そういうことになりますね」
「誰に?」
「それはわかりません。ただ、父が殺されてからというもの、家に奇妙な現象が起こり始めました。夜中に物音がしたり、誰もいないはずなのに人の気配を感じたり、部屋の中に誰かがいたような気がして振り向いたら、そこには誰もいなかったというようなことが何度もあったのです」
「それで、あなたはこの家を手放したのですか?」
「いいえ、そんなことはしませんでした。怖かったけれど、父には世話になった恩義がある。だから、せめて父の形見だけでも残しておこうと思ったのです」
「なるほど」
「しかし、困ったことに家はどんどん荒れていきました。雨漏りする箇所が増え、床板を踏み抜くようになりました。このままでは家ごと潰れてしまうかもしれない。そこで霊となりました」
「それがきっかけですか」
「はい、その通りです。最初は不安でしたが、霊になったら快適そのものでした。お陰様で、今ではすっかり元気になりましたよ」
「それはよかったですね」
「ありがとうございます。でも、最近になって、またおかしなことが起こるようになってきたんですよ」
「どんなふうに?」
「例えば……」
その時、玄関の戸を叩く音と、「ごめんください!」と呼ぶ声が聞こえてきた。
「はーい!」
美千代が慌てて出ていった。
「何か来客みたいだぞ」
「そうらしいですね」
「一緒に行けばいいじゃないか」
「いえ、私は遠慮します」
「どうしてですか?せっかく来たんですから、少しくらい付き合ってもいいじゃないですか」
「いえ、私は幽霊とか心霊写真といった類のものは苦手なんです」
「大丈夫ですよ。幽霊といっても人間なんだから」
「しかし、相手も幽霊なんでしょう?」
「まあ、そうだが……。しかし、心配はいらないと思うな」
「どうしてですか?」
「だって、ここには幽霊がいるんだぜ。だったら、相手の幽霊も幽霊みたいなもんじゃないか」
「ううむ、言われてみれば確かに……。しかし、何だか嫌な予感がするんだよなあ」
「気にしすぎだよ。さあ、行こう!」
林田は大場の腕を引っ張って連れて行った。
「ちょっと待ってくれ。まだ心の準備が……」
大場は抵抗したが無駄だった。二人は玄関まで引きずられていく。




