林田港は四国随一の心霊スポット
林田港は四国随一の心霊スポットである。海面から無数の手が出てくるという噂がある。林田港の夏は暑い。
「それにしても暑いね」
「日本も亜熱帯になったか」
「八月ですからね」
「まだ七月ですよ」
「そうだったかな。暑さでボケたらしい」
「私も初めて来たときは驚きましたよ。今ではすっかり慣れてしまいましたけどね」
二人は汗を拭きながら歩いた。
「この頃、先生のところへお寄りしていませんが……」
「もう来ないほうがいいよ。きみは、すぐ首を突っ込む人だからな」
「しかし、今度だけは特別です。私だって、それくらいの分別はあるつもりですから」
「では、なぜこの事実をご存知なのですか」
「それは……」
言いよどんだ時、横から声がした。
「私が教えたからですよ」
驚いて振り向くと、いつの間にか幽霊が隣にいた。白い着物を着ている。
「うわあ!」
「きゃああ!」
二人は同時に悲鳴を上げた。
「驚かせて申し訳ありません」
幽霊は頭を下げて謝った。
「あなたは何者ですか?」
「私はここに住んでいるものです」
「ここに住んでいる?こんなところに家なんかあるのか」
「ありますとも。ほら、そこに」
指差された方角を見ると、古い木造家屋があった。かなり大きいようだ。
「あの家がどうかしましたか?」
「いえ、別にどうもしませんが……。それより、さっきの話ですが、あれはどういうことなんでしょうか?」
「何のことでしょう?」
「先生に教えてもらったと言ったことですが……」
「その通りの意味ですよ」
「つまり、あなたの知っていることを話してほしいということですね」
「はい、お願いします」
「わかりました。でも、ここでは暑くていけません。私の家で話しましょう」
三人は幽霊の家に入った。中はかなり広い。土間があり、囲炉裏もある。
「どうぞ、座ってください」
言われるままに腰を下ろした。
「お茶を用意しますので待っていてください」
幽霊は奥の部屋に入っていった。
「驚いたな。まさかあんなものがいるとは思わなかった」
「私も驚きました。本当にいるんですねえ」
しばらくすると幽霊が現れた。盆の上に湯飲み茶碗を載せている。
「粗茶ですが」
二人に差し出した。
一口飲むと冷たい麦茶だった。喉を通る爽やかな感触が何とも言えない美味さだ。
「これはうまい!生き返る気分だ」
「本当ですねえ」
「喜んでくれて嬉しいですよ」
それから幽霊は自分の名前を名乗った。
「私は美千代といいます」
「私は大場と言います」
「僕は……」
「知っていますよ。林田さんですね」
「どうして僕の名を?」
「だって、ここに来る人はみんなそう呼んでいましたもの」
「そうなんですか。ところで、先ほどの話の続きをお聞かせ願えないでしょうか?」
「はい、構いませんよ」
「最初に言っておきたいことがあります。この話は絶対に他言無用ということです」
「もちろん誰にも言いません」
「約束するよ」
二人の返事を聞いて安心したらしく、美千代は語り始めた。




