ねえ、教えてください
「ねえ、教えてください」
彼女は真っ直ぐにこちらを見つめて訊ねてきた。
「あの時、なぜ私を助けてくれたんですか?」
「それは……、君を失いたくなかったからだ」
私は正直に答えた。
「それだけですか?」
「ああ、そうだ……」
「本当に?」
「ああ……」
私は肯いた。
「君は私の大切な人に似ているんだ……」
「私と似ている人を好きになるなんて、あなたも物好きなんですね……」
彼女はクスリと笑ったが、すぐに悲しそうな顔に戻った。
「でも、あなたは私を助けられなかった……」
「ああ……」
私は目を伏せて言った。
「あの時は、まだ君のことがよく分かっていなかったからね……」
「じゃあ、今は違うんですか?」
「ああ……、今なら分かるよ。私は今でも、その人のことが好きだ……」
「そう……」
彼女は小さく息をつくと言った。
「じゃあ、やっぱり、あなたの心の中にはその人が住んでいるんですね……」
「えっ?」
私は彼女の言葉の意味がよく分からなかった。
「その人はあなたの心の中に住んでいる……」
彼女は繰り返した。
「でも、それは私じゃない……」
「何を言っているんだ?」
私は戸惑った。
「君だって、私の心に生きているじゃないか」
「いいえ……」
彼女は首を振った。
「私はそんなに強くありません……」
「そんなことはないよ」
私は彼女を励まそうとした。
「いいえ!」
彼女は激しく拒絶した。
「私なんて、いてもいなくても同じなんですよ!私は誰からも必要とされていないんです。私なんて、いない方がいいんです!」
「そんなことは……」
私は言いかけたが、彼女は遮るように言った。
「お願いですから、もう私のことなんか忘れてください……」
「どうして?」
「これ以上、私を苦しめないでください……」
彼女は泣いていた。
「もう、私のために苦しまないで……」
「でも……」
私は何かを言いたかったのだが、うまく言葉が出てこなかった。
「私、もう行きます……」
彼女は立ち上がると、ゆっくりと歩き出した。
「待ってくれ……」
私は彼女を呼び止めた。
「私は……」
「さよなら……」
彼女は振り返ることなく、出て行った。私はしばらくの間、その場に立ち尽くしていた。頭の中では、先ほどの彼女の話がグルグルと回っていた。
彼女は自分の存在を否定していた。そして、私の存在を否定した。私は一体、どうすればよかったのだろうか? 私は彼女のために何ができたのだろう? 私は彼女のためになることをしてあげたかった。だが、それができなかった。私は無力だ……。私は彼女の後を追うことができなかった。私はベンチから立ち上がり、空を見上げた。そこには、いつもと変わらない青空が広がっていた。




