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林田力 短編小説集  作者: 林田力
林田港
55/103

私たちは神社の前までやってきた

私たちは神社の前までやってきた。辺りを見回したが、人の気配はなかった。

「誰もいないみたいですね……」

彼女は不安そうな表情を浮かべていた。

「ここには誰もいないんだ」

「どういうことですか?」

「つまり、この神社を管理している人間がいないということだよ」

「どうしていないんですか?」

「それは分からないけど……」

私は肩をすくめた。「とにかく、行ってみよう」

「はい……」

私は彼女を促がすと、境内の中へと入っていった。やはり、そこには誰の姿もなかった。

「ここが神社なんですか?」

「ああ、そうらしいね」

私は適当な石段の上に腰を下ろした。

「座らないかい?」

「はい……」

彼女は戸惑いながらも、隣に座ってくれた。私はしばらくの間、何も言わずに空に浮かぶ月を見上げていたが、意を決して彼女に話しかけることにした。

「君はどうして殺されたんだい?」

「どうしてって……」

彼女は戸惑っている様子だった。

「どうして、そんなことを訊くんですか?」

「いや、ただ興味があっただけなんだ」

私は嘘をついた。

「どうして殺されたのか知りたいんです」

「分かりました……」

彼女は小さく息をつくと言った。

「私は殺されたんじゃないんです」

「えっ?」

予想外の言葉だった。

「じゃあ、どうしてここにいるんだい?」

「自分で来たんです」

「どうして?」

「どうしても確かめたいことがあったんです」

「何を?」

「あの日のことですよ」

「あの日のこと……」

私はハッとした。

「まさか、あの事故のことを言っているわけじゃないだろうね?」

「ええ……」

彼女は肯いた。

「あの時の記憶は曖昧で、よく覚えていないんですけれど、どうしても気になることがあって……」

「何だい?」

「どうして、あの時、あなたは私を助けてくれたんですか?」

「あの時というのは、いつのことだ?」

「あなたが初めてこの神社に来た日のことです」「ああ……」

私は思い出した。確かに、私は彼女が車に轢かれそうになった瞬間、飛び出して助けようとしたのだ。しかし、結果は彼女の言う通りになってしまった。

「あれ以来、あなたのことが頭から離れなくて……、どうしても、もう一度会わなくちゃいけないと思って……」

「そうか……、でも、残念ながら、その願いは叶わなかったようだね」

「ええ……」

彼女は悲しそうに俯いた。

「でも、どうしても諦めきれなくて……」

「それで、ここまでやって来たんだね?」

「はい……」

彼女は力無く答えた。

「でも、無駄足になってしまいました……」

「そんなことはないよ」

私は首を振った。

「少なくとも、私は君に再会できたからね」

「本当ですか?」

彼女は顔を上げた。

「嬉しい……」

「私も嬉しいよ」

私は正直な気持ちを口にした。

「君とこうして話ができるなんて夢にも思わなかったからね」

「私もです……」

彼女は微笑んで言った。


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