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林田力 短編小説集  作者: 林田力
林田港
54/103

どこに行くんですか?

「どこに行くんですか?」

「この近くに小さな神社があるんだ」

私は言った。

「そこに行きたいんだけれど、案内してくれるかい?」

「分かりました」

私たちは手を繋いで歩いた。

「あの……」

しばらくして、彼女が口を開いた。

「何だい?」

「一つ訊いてもいいでしょうか?」

「ああ」

「どうして、こんなに親切にしていただけるんでしょうか?」

彼女は不思議に思っているようだった。

「どうしてだろうね」

私は苦笑いした。

「自分でもよく分からないんだよ」

「そうなんですね……」

「変な奴だと思っただろう?」

私が言うと、彼女はクスッと笑って、「いいえ」と答えた。

「あなたは優しい人だと思います」

「そうかな……」

私は照れ臭くなって頭を掻いた。

「きっと、そうですよ」

「そうかもしれないね……」

私は曖昧に同意した。

「あなたは本当に不思議な方ですね……」

「そうかな?」

「ええ、とても興味深いと思います」

「そうか……」

私は複雑な気持ちになった。

「ところで、その神社の名前は分かるかな?」

「確か、白水社というはずです」

「そうか……」

私は記憶を呼び起こそうとした。しかし、どうしても思い出せなかった。

「やっぱり駄目だな……」

私は苦笑した。

「ごめんよ」

「いいんですよ」

彼女は優しく言った。

「無理に思い出す必要はありません」

「でも、気になるんだろう?」

「いいんですよ」

彼女は首を振った。

「無理に思い出そうとしない方がいいかもしれません」

「どうして?」

「だって……」

彼女は悪戯っぽく笑った。

「また、忘れてしまうかもしれないでしょう?」

「そうだね……」

私は肯いた。

「確かに君の言う通りだ」

「ええ」

彼女は満足げに肯いた。

「それにしても、ここは静かですね……」

「うん……」

私たちの足音だけが響いていた。

「まるで、世界に二人しかいないみたい……」

「そんなことはないよ……」

私は否定した。

「君には大切な家族がいるじゃないか?」

「でも……、今は誰もいないんですよ」

彼女は寂しげに呟いた。

「だから、一人ぼっちなんです」

私は彼女の肩を抱いた。

「私がそばにいるから」

「本当ですか?」

彼女は私の顔を覗き込んだ。

「約束してくれますか?ずっと、一緒にいると……」

「もちろんだよ」

私は力強く答えた。

「私はどこにも行かないよ。絶対にね」

「ありがとうございます……」

彼女の瞳が潤んでいた。

「本当に嬉しい……」

「さあ、行こうか」

私は彼女の手を引いた。

「はい……」

私たちはゆっくりと歩き出した。

「今日はとても楽しかったです」

彼女は笑顔を見せた。

「私、幸せです……」

「そう言ってもらえると、私としても嬉しく思うよ」

私は微笑み返した。

「本当にありがとう……」

「どういたしまして……」

私は彼女との会話を楽しんだ。そして、同時に、自分がひどく残酷なことをしているのだという自覚もあった。だが、それでも構わないと思っていた。たとえ、これが自分のエゴなのだとしても、彼女を救うことができるなら、それで十分だと……。


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