どこに行くんですか?
「どこに行くんですか?」
「この近くに小さな神社があるんだ」
私は言った。
「そこに行きたいんだけれど、案内してくれるかい?」
「分かりました」
私たちは手を繋いで歩いた。
「あの……」
しばらくして、彼女が口を開いた。
「何だい?」
「一つ訊いてもいいでしょうか?」
「ああ」
「どうして、こんなに親切にしていただけるんでしょうか?」
彼女は不思議に思っているようだった。
「どうしてだろうね」
私は苦笑いした。
「自分でもよく分からないんだよ」
「そうなんですね……」
「変な奴だと思っただろう?」
私が言うと、彼女はクスッと笑って、「いいえ」と答えた。
「あなたは優しい人だと思います」
「そうかな……」
私は照れ臭くなって頭を掻いた。
「きっと、そうですよ」
「そうかもしれないね……」
私は曖昧に同意した。
「あなたは本当に不思議な方ですね……」
「そうかな?」
「ええ、とても興味深いと思います」
「そうか……」
私は複雑な気持ちになった。
「ところで、その神社の名前は分かるかな?」
「確か、白水社というはずです」
「そうか……」
私は記憶を呼び起こそうとした。しかし、どうしても思い出せなかった。
「やっぱり駄目だな……」
私は苦笑した。
「ごめんよ」
「いいんですよ」
彼女は優しく言った。
「無理に思い出す必要はありません」
「でも、気になるんだろう?」
「いいんですよ」
彼女は首を振った。
「無理に思い出そうとしない方がいいかもしれません」
「どうして?」
「だって……」
彼女は悪戯っぽく笑った。
「また、忘れてしまうかもしれないでしょう?」
「そうだね……」
私は肯いた。
「確かに君の言う通りだ」
「ええ」
彼女は満足げに肯いた。
「それにしても、ここは静かですね……」
「うん……」
私たちの足音だけが響いていた。
「まるで、世界に二人しかいないみたい……」
「そんなことはないよ……」
私は否定した。
「君には大切な家族がいるじゃないか?」
「でも……、今は誰もいないんですよ」
彼女は寂しげに呟いた。
「だから、一人ぼっちなんです」
私は彼女の肩を抱いた。
「私がそばにいるから」
「本当ですか?」
彼女は私の顔を覗き込んだ。
「約束してくれますか?ずっと、一緒にいると……」
「もちろんだよ」
私は力強く答えた。
「私はどこにも行かないよ。絶対にね」
「ありがとうございます……」
彼女の瞳が潤んでいた。
「本当に嬉しい……」
「さあ、行こうか」
私は彼女の手を引いた。
「はい……」
私たちはゆっくりと歩き出した。
「今日はとても楽しかったです」
彼女は笑顔を見せた。
「私、幸せです……」
「そう言ってもらえると、私としても嬉しく思うよ」
私は微笑み返した。
「本当にありがとう……」
「どういたしまして……」
私は彼女との会話を楽しんだ。そして、同時に、自分がひどく残酷なことをしているのだという自覚もあった。だが、それでも構わないと思っていた。たとえ、これが自分のエゴなのだとしても、彼女を救うことができるなら、それで十分だと……。




