私たちは病院の入り口まで行くことにした
私たちは病院の入り口まで行くことにした。入り口には警備員室があり、そこには二人の男が詰めていた。彼らは私たちの姿を見ると、不審そうに目を細めた。
「何か用かね?」
一人が訊いた。
「ここは立ち入り禁止になっているんだが……」
「中を見せてもらえないだろうか?」
私は頼んだ。
「少しだけでいいんだ」
「駄目だ」
男は首を振って拒絶した。
「悪いが、そういう規則なんだ」
「そこを何とか頼むよ」
私は頭を下げた。
「だから、無理だって言ってるだろう」
男は不機嫌そうに言った。
「もう、帰ってくれないかな」
「そうはいかないんだよ」
私は食い下がった。
「お願いだ」
「しつこいなぁ」
男はうんざりした口調で言った。
「あんた、警察を呼ぶぞ」
「構わないよ」
私は言った。
「呼べばいいじゃないか。ただし、呼んだら最後、君はもう二度とここには戻れなくなると思うけどね」
「何だと?」
男の表情が変わった。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。もし、本当に呼ぶつもりなら、今すぐ電話すればいい」
私は携帯電話を取り出してみせた。
「ほら」
「ふざけてるのか?」
「いいえ」
私は首を振った。
「大真面目ですよ」
「あなたは何を考えているんですか?」
彼は呆れたような顔つきをした。
「そんなことをしたら、あなたが捕まってしまうんですよ!」
「分かっています」
私は冷静に応じた。
「でも、こうするしか方法がないんです」
「どうしてですか?どうしてそこまでする必要があるんです?あなたはただの探偵でしょう」
「ただの探偵じゃないんですよ」
私は苦笑した。
「僕はただの人間じゃないんです」
彼は黙りこくったまま、じっと考え込んでいるようだった。やがて、彼は諦めたような表情を浮かべると、深い溜め息をついた。
「仕方ありませんね……」
「ありがとうございます」
私は深々と頭を下げた。
「本当に感謝していますよ」
「その代わり、約束してください」
彼は厳しい眼差しを向けてきた。
「絶対に生きて帰ってくると……」
「もちろんです」
私は力強く肯いた。
「必ず戻ってくると誓いましょう」
病院の中は静まり返っていた。
「誰もいないみたいですね……」
彼女は怯えているように見えた。
「本当にここで間違いないんだよね?」
「ええ……」
彼女は自信なさそうに答えた。
「多分……」
「大丈夫だよ」
私は彼女を安心させようと、肩に手を置いた。彼女は小さく震えていた。
「行こう」
私は促した。彼女は無言のまま、私についてきた。病院内は薄暗かった。私は懐中電灯を点けた。
「こっちだよ」
私は彼女の手を引いて歩き出した。彼女は素直に従ってくれた。しばらく歩くうちに、私は奇妙な感覚にとらわれ始めていた。それは、まるで自分が過去にタイムスリップしてしまったかのような錯覚だった。初めて来たはずの場所なのに、なぜか懐かしさのようなものを感じていたのだ。
「ここだったよな……」
私は立ち止まった。そこは、彼女が初めて殺された場所だった。私は床の上に屈み込むと、指先でそっと触れてみた。冷たい感触が伝わってくるだけだった。
「どうしました?」
彼女が心配そうな声を出した。
「気分が悪いんですか?」
「いや、何でもないよ」
私は立ち上がった。
「ちょっと疲れちゃってね」
「そうですか……」
彼女はホッとした様子で微笑んだ。
「じゃあ、帰りますか?」
「いや、もう少しだけ付き合って欲しいんだ」
私は彼女に頼んだ。
「いいですか?」
「ええ、構いませんよ」
彼女はあっさり承諾してくれた。




