私はまた例の喫茶店にいた
二週間ほどが過ぎた頃、私はまた例の喫茶店にいた。
「あなたが探している建物は見つかりましたか?」
マスターがコーヒーを出しながら訊いた。
「えっ?」
私は驚いて顔を上げた。
「どうしてそれを?」
「いえ、別に深い意味はないんですよ」
彼は苦笑しながら答えた。
「ただ、あなたの顔つきが以前と違って見えたものですから……」
「違う?」
「何か悩み事が解決したような表情をしているなと思ったんです」
「なるほどね……」
私は苦笑した。
「何かあったんですか?」
「まあね……」
私は曖昧に答えた。
「実は、ずっと探し続けていたものが見つかってね」
「それはよかった」
「ありがとう」
私は礼を言った。
「本当に感謝していますよ」
「それで、見つかったのは何だったんですか?」
「病院だよ」
「病院?どこの?」
「うちの近くにあった総合病院だ」
「ああ、あそこのことですか」
「知っているんですか?」
「もちろんですよ」
「それなら話が早い」
私は身を乗り出した。
「その病院がどこにあるかご存じですか?できれば案内してほしいんだけど」
「いいですけど……」
マスターは困惑気味に口籠っていた。
「どうしてですか?」
「ちょっと気になることがあって……」
「どんなことですか?」
「病院の中に人影を見た気がするんだ」
「人がですか?」
「ああ、はっきりと見たわけじゃないけど、そんな感じがしたんだよ」
「勘違いなんじゃないですか?」
「そうかもしれないけど……」
「だったら、確かめに行ってみたらいいんじゃないですか?」
「行ってみる?」
「はい。あなたの言うことが確かなら、きっとそこに行けば分かるはずでしょう」
「そうだな」
私は溜め息をついた。
「よし、早速、明日、出かけてみるとするか」
翌日、私は朝早く起き出して、彼女の部屋を訪ねた。
「おはようございます」
彼女は眠そうな目をしながら私を迎えた。
「ごめんね」
私は謝った。
「こんなに早くから押しかけてしまって」
「構いませんよ」
彼女は笑顔を見せた。
「私、まだ寝ていたかったんでちょうど良かったくらいです」
「じゃあ、着替えるから出ていってくださらない?」
「ええ……」
私は慌ててドアの外に飛び出た。
「すみません」
彼女は笑い声を上げていた。
「今日、一緒に出掛けたいところがあるんだ」
「どこにですか?」
彼女が不思議そうに尋ねた。
「君と初めて出会った場所だよ」
私が答えると、彼女は一瞬、驚いたように目を丸くしたが、すぐに納得した様子で大きく肯いた。
「分かりました」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、準備ができたら声を掛けてくれないか」
「はい」
私は彼女に背を向けると、自分の部屋に引き返した。
私たちは林田港からタクシーに乗って、例の場所に向かった。
「あのときは確か……この辺りから歩いて行ったんだよな」
私は彼女に確認するように言った。
「間違いないかい?」
「ええ、確かにこの辺りから入り込んでいったと思います」
彼女も自信ありげに答えた。
「この辺りからか……」
私は辺りを見回して、記憶を呼び起こそうとした。しかし、どうしても思い出せなかった。
「どうしますか?」
彼女は不安気に私の顔を覗き込んだ。
「やっぱりやめますか?」
「うーん……」
私は腕組みをして考え込んでいた。




