この辺りでいいだろう
「この辺りでいいだろう」
道端に車を停めた。
「どこへ行くんですか?」
「すぐそこだよ」
私は助手席に置いていたリュックサックを背負った。
「何ですか?それ」
「秘密兵器さ」
「ふーん……」
「君も持ってくれよ」
「はい」
後部座席から彼女の荷物を持ち出した。
「重いなあ」
「そうでもないでしょう」
「いや、かなりあるぞ」
「そんなことないですってば」
「まあいいか……行こう」
私たちは車を出た。
「本当にここなんですね」
「ああ、間違いないと思うけどね」
国道沿いの歩道に立った。
「ほら、あれじゃないか?」
「えっ、どれですか?」
「あのマンションじゃないのか」
「うーん……」
彼女は首を傾げた。
「違うかな」
「違いますよね」
「でも、ちょっと行ってみよう」
「はい」
道路を渡った。
「こっちみたいだ」
「待ってください」
彼女が私の腕を掴んだ。
「どうしたんだ?」
「誰かいますよ」
「本当かい?」
私は目を凝らしてみた。確かに人影があった。その人物はこちらに向かって歩いてきた。
「こんにちは」
近づいてくるなり男は挨拶をした。年齢は四十代後半くらいだろうか。細身だが背が高くて姿勢が良い。服装はカジュアルだった。白いシャツの上に黒いベストを着ている。首からは小さなカメラを下げている。
「こんにちは」
私も会釈をした。
「お二人さんは観光の方ですか?」
「いえ、仕事ですよ」
「へぇ、どんな仕事をなさっているんですか?」
「カメラマンの助手みたいなものです」
「助手ねぇ……。それでこんなところまで来られたわけですか」
「ええ、そうなんですよ」
「それは大変ですね」
彼は微笑を浮かべた。
「あなたはこの辺に住んでいる方ですか?」
「ええ、すぐ近くに住んでおりますよ」
「じゃあ、この辺りのことに詳しいんじゃありませんか?」
「詳しいというほどではありませんが、それなりに知っているつもりです」
「実は私たち、この辺りにあるはずの建物を探しているんですが……」
「ほう、どんな建物でしょうか?」
「古い洋館らしいんだけど……」
「なるほど……」
「ご存じないですかねえ」
「申し訳ないが、私は知りません」
「そうですか……」
「力になれなくてすみませんでした」
「いや、とんでもない。ありがとうございます」
私は頭を下げた。
「ところで、そちらのお嬢さんの方はどこかで見たことがあるような気がするんですが……」
彼が言った。
「えっ……」
私は驚いて振り返った。
「気のせいでしょうかね……」
「どうかしましたか?」
「いや、何でもありませんよ」
私は苦笑しながら答えた。
「それならいいんですが……」
男は不思議そうに首を捻っていた。




