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林田力 短編小説集  作者: 林田力
短編
5/103

素麺と茶

「こちらが自慢の一品です」

目の前に出された皿の上には、細切りにした播州素麺が盛り付けられていた。その量は一人前の半分くらいだ。

「これが一口大ですか?」

「はい、そうです。こちらはお好みの量だけ取って下さいませ」

箸を使って少量を取り分ける。そして、それを口に運んだ。

「うおっ! これは美味いな!」

「ありがとうございます」

思わず声を上げてしまった。それほどまでに美味しかった。

「この細い麺がいいな。食感も楽しいし、何より食べやすい。それに香りもいいぞ」

「それは良かったです」

「これならいくらでも食べられそうだよ」

「ふふっ……たくさん召し上がってくださいね」

「ああ、遠慮なく頂くことにするよ」

次々と口に運んでいく。素麺とはこんなにも美味しいものだったのか? 今まで食べたことのないような感覚だった。スルスルっと入っていき、気付いたら完食していた。

「ふう……ご馳走さま。とても美味かったよ」

「喜んで頂けて嬉しいですわ」

「さすがは林田のお姫様なだけはあるな」

姫路の林田は播州素麺の産地である。

「いえいえ、そんなことはありませんわ」

「いや、本当に凄いと思うぞ」

「ふふっ……褒めすぎですよ」

「本心から言っているんだがなぁ……」

「まあ、嬉しいことを言ってくれるじゃないですか」

彼女は嬉しそうな顔をしている。どうやら喜んでいるようだ。

「これからは毎日でも食いたい気分だよ」

「あら、嬉しいこと言ってくれますねぇ?」

彼女は満面の笑みを浮かべている。

「だって、本当に美味かったんだよ」

そこまで言われると照れてしまいますね」

「ははは、可愛い奴め」

「もう、意地悪しないで下さいよぉ?!」

「悪い悪い。つい調子に乗ってしまった」

「全くぅ……」

頬を膨らませる彼女を見て少し可愛らしいと思ってしまう自分がいた。


「うん、これも美味いな」

彼女はお茶も出してくれたのだが、それがまた絶品なのだ。

「ふふ、お気に召されたようで何よりです」

「いやー、本当に幸せだなぁ」

「そう言って貰えると、作った甲斐がありました」

「いやいや、マジで感謝しかないよ」

そう言うと、彼女は笑顔になった。その表情があまりにも綺麗だったのでドキッとしてしまう。そして、そのせいか、心臓の鼓動が早くなっているのを感じた。

「あの、どうかされました?」

「え? いや、何でもないぞ?」

「そうですか?」

「ああ、大丈夫だ」

「それなら良かったです」

「心配してくれてありがとな」

「いえいえ、当然のことです」

「そうか。でも、本当に助かっているよ」

「そう仰って頂けると嬉しいです」

「ああ、だからもっと頼らせてもらってもいいか?」

「ええ、もちろんですとも」

そう言った後、二人の間に沈黙が訪れた。だが、不思議と居心地の悪いものではなかった。むしろ、落ち着くというか、ずっとここにいてもいいかな? なんて思ってしまうくらいだ。

「そういえば、今日はお仕事の方はよろしいんですか?」

「ん? ああ、問題無いよ。部下に任せてきたからな」

「そうだったんですか。では、ゆっくり休んで下さいね」

「おう、そうさせてもらおうか」

「はい、そうして下さい」

「ところで、お前はいつもここで何をしているんだ?」

「そうですね……基本的には読書をしたり、刺繍したりといったところでしょうか」

「そうか。ちなみにどんな本を読んでいるんだ?」

「そうですねぇ……。恋愛小説とかが多いですかね」

「ほほう、そういうのも読むのか」

「はい、大好きですよ」

「なあ、ちょっと読ませてみてくれないか?」

「いいですけど、面白くないかと思いますよ?」

「いいからいいから」

彼女に本を渡してもらう。そして、パラッとページを開いた。すると、そこには男女のラブストーリーが描かれていた。

「おお! これは凄いな」

「はい……恥ずかしいですね///」

「はは、確かにそうだな」

「でも、どうして急に読みたくなったんですか?」

「いや、単純に興味があっただけだよ」

「そうなんですか」

彼女はクスッと笑う。どうやら納得してくれたようだ。

「ところで、この二人はいつ結ばれるんだろうな……」

「さあ、それは分かりませんが……きっと、近いうちに結ばれますわ」

「どうして分かるんだ?」

「だって、お互いに想い合っているじゃないですか」

「確かにな」

お互いのことを想っていることは一目瞭然だ。

「それにしても、こんなに幸せな気持ちになれるとはなぁ……」

「ふふっ……私も同じですよ」

「そうなのか」

「ええ、好きな人と過ごす時間は本当に楽しいものなんですよ」

彼女は微笑む。その笑顔はとても輝いていた。

「なるほどねぇ?」

「ふふっ、あなたもそうなんじゃありませんか?」

「まあな」

私は素直に答えることにした。

「あら、意外とお早いご返事でしたね」

「いや、別に隠すようなことでもないだろ」

「それもそうかもしれませんね」

「ああ、そうだぜ」

「ふふっ、本当に面白い人ですねぇ?」

彼女は楽しそうにしている。

「はは、褒め言葉として受け取っておくよ」

「ええ、是非そうして下さい」

「分かったよ」


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