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林田力 短編小説集  作者: 林田力
オムニバス
45/103

記憶喪失のふり

「ふぅ、やっと終わったぜ」

俺は神崎さんの手伝いを終えて自分の部屋へと向かっていた。

(そういえば、あの人はどうして俺のことを気にかけてくれているんだろう?)

そんなことを考えながら歩いているといつの間にか部屋の前に到着していた。

「よし、入るか」ガチャッ ドアを開けるとそこには誰もいなかった。しかし、机の上に一枚の手紙が置かれていることに気づいた。

「なんだこれ?」

手紙を手に取り中を確認するとそこにはこう書かれていた。

"あなたに伝えなければならないことがあります。なので至急屋上に来てください。

神崎より"

「伝えなきゃいけないこと?」

なんだろうと思いながらもとりあえず行ってみることにしよう。階段を上りながら考える。

「一体何を伝えようとしているんだろう?」

考えているうちに屋上に到着した。すると、そこにはすでに先客がいた。その人物はこちらを振り向く。

「こんにちは、来てくれてありがとう」

「あ、あなたは……誰ですか?」

そこに立っていたのは黒髪ロングヘアーの女性だった。身長は170cmくらいだろうか。スラッとした体型をしている。

「私はあなたの担当医よ」

「えっ!神崎先生ですか!?」

「えぇ、そうよ」

「すみません、全然気がつきませんでした」

「ふふ、無理もないわ。髪型を変えたりして雰囲気を変えていたからね」

確かに言われてみると少し違うような感じがする。

「それで、伝えたいこととは何でしょうか?」

「あなたにはこれから本当のことを話さなければならないわ」

「本当のこと?」

「そう、実はあなたは記憶喪失ではないの」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味よ。あなたは自分の名前も覚えていないし事故に遭ったことも忘れてしまっている。だけどそれは嘘なの」

「なぜそのようなことを?」

「あなたにはどうしても助けたい人がいるの。だからあなたは記憶喪失のフリをしてリハビリを行っていたの」

「なるほど、そういうことだったんですね」

「えぇ、理解してくれたかしら?」

「はい、大体ですけど」

「それならよかったわ。それじゃあ、早速始めましょうか」

「まず初めに言っておくことがあるのだけれど、あなたは私のことが好きよね?」

「えっ!?」

突然の質問に動揺してしまう。

「あら、どうかしたかしら?顔が赤いわよ」

「い、いえ、何でもないです」

「そう、それじゃあ続けるわね。私があなたに好意を抱いていることは知っているわね?」

「はい、知っています」

「そう、良かったわ。それでは改めて言うわね。私と付き合ってくれないかしら?」

まさか告白されるとは思っていなかった。

「もちろん返事はすぐにとは言わないわ。でも、できるだけ早く欲しいわね」

「……」

「あら、黙っちゃったわね。もしかして私みたいなおばさんは嫌なのかしら?」

「違います!!」

「あら、いきなり大きな声を出してどうしたのかしら?」

「あっ、すいません。つい……」

「ふふ、いいわ。それじゃあ、もう一度聞くわね。私でもいいのかしら?」

「はい、よろしくお願いします!」

こうして僕たちは恋人同士になった。そして、僕たちの関係に大きな変化が訪れた。

「ねぇ、今度デートに行きましょうよ」

「デートですか?」

「そうよ、デート」

「はぁ、まあ別に構いま―――」

「やったー!!それじゃあ、次の日曜日でどう?」

「いや、まだ行くって決めていませ――」

「楽しみだなぁ?」

「……」

(まあ、いっか)


「ねぇ、今日はどこに行くの?」

「そうですね、映画とかどうでしょう?」

「うーん、まあいいわ。行きましょうか」

「はいっ!」

「ところで、何か見たいものでもあるの?」

「いえ、特にはないですね」

「そうなの?珍しいわね」

「そうですね。たまにはこういうのも良いかなと思ったので」

「へ?、なかなかやるじゃない。見直したわ」

「ありがとうございます」

(それにしてもこの人は本当に綺麗だよな。スタイル抜群だし、美人だし、優しいし、完璧な女性って感じがする。こんな人が俺の恋人なんて未だに信じられないな……)


「あの、神崎さん」

「なに?」

「どうして僕の手を握っているんですか?」

「だって、迷子にならないようにするためにはこうするのが一番良い方法だと思うんだけど?」

「そ、そうかもしれませんね」

「うん、そうだよ。だから気にしないで」

(いや、気になるんだよ!めちゃくちゃ緊張するし、周りの目が痛いし……)

映画館に到着してから30分後、ようやく上映が始まった。

「あの、神崎さ――」

「静かにして」

「はい、わかりました」

それから約2時間、僕はずっと手を握られ続けていた。

「面白かったね」

「えっ!?」

「何驚いてるの?」

「い、いえ、なんでもありません」

「もしかして面白くなかった?」

「そんなこと無いですよ。とても楽しかったです」

「それなら良かった。また一緒に来ようね」

「はい、是非とも」

「それじゃあ、次はどこに行こうか?」

「えっと、少し休憩したいので喫茶店とかどうかなって思ったんですけどダメでしょうか?」

「全然大丈夫よ。むしろ、そうしましょう」

「はい!そうしましょう」


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