リハビリ
目が覚めると、そこは見慣れない部屋だった。
天井に蛍光灯はなく、代わりに豆電球がついている。部屋の中を見回すと、机やベッドなど最低限のものしか置かれていない殺風景な空間が広がっている。
「ここは……どこなんだ?俺は一体何をしていたんだっけ?」
自分の記憶を辿るように思い出そうとするが、何も思い出せない。しかし、何か大切なことをしようとしていた気がする……。そんなことを考えているうちに、だんだん意識がはっきりしてきた。そして同時にあることに気づく。
(俺の手が小さい?)
手だけでなく身体全体が小さくなっているようだ。そこで改めて周りを見る。すると、鏡のようなものがありそこに写っていたのは小さな子供の姿であった。
「これはどういうことだ!?」
思わず声を出してしまった。
「起きたのかしら?」
突然後ろから女性の声が聞こえてきた。振り向くとそこには白衣を着た女性が立っていた。女性は身長が高くモデルのような体型をしている。年齢は20代後半くらいだろうか。綺麗な黒髪ロングヘアーがよく似合っている。
「あなたの名前はわかるかしら?」
女性は優しく微笑みながら質問してくる。
「名前ですか……」
「わからないなら無理には聞かないけど、もし覚えていたら教えてほしいわ」
「すみません、わかりません」
「そう、わかったわ。それじゃああなたのことについて説明していくわね」
「お願いします」
「まず最初に確認しておくけれど、あなたは自分の名前はわかるかしら?」
「はい、わかっていると思います」
「それはよかったわ。それじゃあ自己紹介をするわね。私はこの施設の責任者である神崎
咲夜という者よ。よろしくね」
「はい!よろしくお願いします」
「ふふ、元気があっていい子ね。それでは話を続けるわね。あなたは昨日交通事故に遭ってしまったの。それで命は助かったんだけど、後遺症として脳に大きなダメージを負ってしまい記憶喪失になってしまったみたいね」
「そうなんですか……」
「えぇ、だからこれから少しずつリハビリをしていこうと思うのだけれども大丈夫かしら?」
「もちろんです。早く元の生活に戻りたいですから」
「そう言ってくれると嬉しいわ。それじゃあさっそく始めましょうか」
それから2週間ほど経ったある日のこと。
「よし、これで終わりだね」
「お疲れ様、よく頑張ったね」
「ありがとうございます!」
今はリハビリの時間だ。僕は今、先生と一緒に筋トレを行っているところだ。
最初は腕立て伏せなどの簡単なものから始めて今ではランニングまでできるようになった。
「そろそろ休憩にしましょうか」
「はい!」
三人で椅子に座って水分補給を行う。
「それにしても本当に凄いわね。たった1ヶ月でここまで動けるようになるなんて」
「いえいえ、これも全て先生のおかげです。それに、こんな僕に毎日付き合ってくれてありがとうございます!」
「気にしないで。私も好きでやってることだしね。でも、もうすぐ退院だと思うと寂しくなるなぁ」
「そうですね……。あっそうだ!退院したら一緒にどこかに行きましょうよ」
「あら、デートのお誘いかな?」
「ち、違いますよ!!ただ単にお礼がしたいだけです!!」
「ふーん、まあいいや。楽しみにしてるからね」
「はい、任せてください」
「ねぇ、そろそろいいかしら?お姉さんを仲間外れにするのはよくないんじゃないかしら?」
「あ、ごめんなさい。つい夢中になっちゃって」
「別に怒ってなんかいないわ。それより、今日は天気もいいことだしさっきの話の続きをしましょうか」
「そうですね。どこに行きますか?」
「うーん、遊園地とかどう?」
「あー、楽しかったですねー」
「そうですねー」
「……」
「楽しかったですねー」
「ちょっと、聞いているの?」
「はいっ!?」
「どうしたの?」
「いえ、なんでもありません」
「そういえば、さっき何を言おうとしていたのかしら?」
「いえ、本当に何も言うつもりはなかったんですよ。本当ですよ!」
「本当かしら?」
「本当ですよ!」
「怪しいわね……」
「本当に何もないので信じて下さい!」
「わかったわ。そこまで必死になるってことは何かあるんでしょうけど、今回は信じることにするわ」
「ほっ……」
「ただし、次はちゃんと聞くわよ」
「はい、わかりました」
「それじゃあ、また明日来るわね」
「はい、待っています」
「それじゃあ、またね」
「失礼します」




