追伸文はけしからん(前編)
「だ、誰?」
私が尋ねると男は静かに口を開いた。
「久しぶりだな、小娘」
「……ッ!!」その男の顔を見た瞬間、全身から汗が噴き出してきた。
間違いない。こいつはあの時の……!!
「どうしてあんたがここにいるのよ……?」
「ふん、決まっているだろう」
そう言いながら、男はゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
私は後ずさりしながら叫んだ。「来ないでっ!」
だが、私の叫びなどまるで聞こえていないかのように近づいてくる。そして、ついに目の前までやってきた。
「くっ……」
恐怖に怯える私に、奴はニヤリと笑いかけた。
「お前に会いに来たんだよ」
「会いたくなんてなかったわよっ!!」
私は力いっぱい叫ぶ。
「まあまあ、そう怒るんじゃねえよ」
「うるさい! どっか行ってよ!」
「おいおい、そんな言い方するなよ。せっかく俺が来たっていうのに」
「ふざけるな!!」
私は怒りに任せて拳を振り上げた。
「おっと」
しかし、その攻撃は簡単にかわされてしまった。
「ちぃ……」
私は舌打ちをした。
「危ねぇじゃねーかよ」
「黙れ!! この悪魔め!! 今すぐ消えろ!!」
「はは、酷い言われようだな。俺はそんな大層なものじゃないぜ」
「……どういうこと?まさか、本当にただの人間だって言うつもり?」
「ああ、そうだとも」
「信じられるか!」
「本当なんだってば」
「嘘つけ!!」
「だから信じてくれよ」
「嫌だ!」
「頼むよ。お願いします」
「絶対無理!」
「そこを何とか?」
「しつこいわね!……ん?」
ふとあることに気がついた。よく見ると男の着ている服に見覚えがあるのだ。それは以前、私が買ってきたものだった。
「それってもしかして……」
「おう、気づいたか。これなら少しは信用してくれるかい?」
「えっと……」
確かにこれで一応は納得できた。でも、まだ完全に安心はできない。なぜなら、こいつが本物の人間だという証拠がないからだ。
「わかったわ。とりあえず今はそれでいいことにする。だけど、もし少しでもおかしな真似したら容赦しないから」
「はいはい、わかりましたよ」
「返事は一回!」
「へいっ!」
「よろしい。ところであなたの名前は何ていうの?」
「名前? 俺の名前を知りたいのか?」
「うん」
「そっかぁ。知りたいんだったら教えてやるけど、その代わりちゃんと約束してくれよ?」
「何を?」
「絶対に他の連中に名前を聞かれても答えないこと」
「なんで?」
「なんでもだよ」
「理由を教えなさい」
「どうしても言わないとダメなのか?」
「当たり前でしょう」
「仕方ないな……。実は俺には名前が二つあるんだ」
「はあっ!?」
「驚くのも当然の反応だと思うが、これは本当のことだ」
「ちょっと待って。つまり、あんたは二重人格者だとでも言いたいわけ?」
「そういうことになるかな」
「マジで言ってるの?」
「もちろんさ」
「はあ……」
私は深いため息をつく。どうやらこいつの言っていることは真実らしい。ということは、こいつはあの時とは別人ということになる。
「ちなみに名前はなんていうの?」
「俺の名は……」
男が口を開いたその時だった。




