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林田力 短編小説集  作者: 林田力
オムニバス
42/103

追伸文はけしからん(前編)

「だ、誰?」

私が尋ねると男は静かに口を開いた。

「久しぶりだな、小娘」

「……ッ!!」その男の顔を見た瞬間、全身から汗が噴き出してきた。

間違いない。こいつはあの時の……!!

「どうしてあんたがここにいるのよ……?」

「ふん、決まっているだろう」

そう言いながら、男はゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。

私は後ずさりしながら叫んだ。「来ないでっ!」

だが、私の叫びなどまるで聞こえていないかのように近づいてくる。そして、ついに目の前までやってきた。

「くっ……」

恐怖に怯える私に、奴はニヤリと笑いかけた。

「お前に会いに来たんだよ」

「会いたくなんてなかったわよっ!!」

私は力いっぱい叫ぶ。

「まあまあ、そう怒るんじゃねえよ」

「うるさい! どっか行ってよ!」

「おいおい、そんな言い方するなよ。せっかく俺が来たっていうのに」

「ふざけるな!!」

私は怒りに任せて拳を振り上げた。

「おっと」

しかし、その攻撃は簡単にかわされてしまった。

「ちぃ……」

私は舌打ちをした。

「危ねぇじゃねーかよ」

「黙れ!! この悪魔め!! 今すぐ消えろ!!」

「はは、酷い言われようだな。俺はそんな大層なものじゃないぜ」

「……どういうこと?まさか、本当にただの人間だって言うつもり?」

「ああ、そうだとも」

「信じられるか!」

「本当なんだってば」

「嘘つけ!!」

「だから信じてくれよ」

「嫌だ!」

「頼むよ。お願いします」

「絶対無理!」

「そこを何とか?」

「しつこいわね!……ん?」

ふとあることに気がついた。よく見ると男の着ている服に見覚えがあるのだ。それは以前、私が買ってきたものだった。

「それってもしかして……」

「おう、気づいたか。これなら少しは信用してくれるかい?」

「えっと……」

確かにこれで一応は納得できた。でも、まだ完全に安心はできない。なぜなら、こいつが本物の人間だという証拠がないからだ。

「わかったわ。とりあえず今はそれでいいことにする。だけど、もし少しでもおかしな真似したら容赦しないから」

「はいはい、わかりましたよ」

「返事は一回!」

「へいっ!」

「よろしい。ところであなたの名前は何ていうの?」

「名前? 俺の名前を知りたいのか?」

「うん」

「そっかぁ。知りたいんだったら教えてやるけど、その代わりちゃんと約束してくれよ?」

「何を?」

「絶対に他の連中に名前を聞かれても答えないこと」

「なんで?」

「なんでもだよ」

「理由を教えなさい」

「どうしても言わないとダメなのか?」

「当たり前でしょう」

「仕方ないな……。実は俺には名前が二つあるんだ」

「はあっ!?」

「驚くのも当然の反応だと思うが、これは本当のことだ」

「ちょっと待って。つまり、あんたは二重人格者だとでも言いたいわけ?」

「そういうことになるかな」

「マジで言ってるの?」

「もちろんさ」

「はあ……」

私は深いため息をつく。どうやらこいつの言っていることは真実らしい。ということは、こいつはあの時とは別人ということになる。

「ちなみに名前はなんていうの?」

「俺の名は……」

男が口を開いたその時だった。


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