転校生(後編)
昼休みになると、右近君の周りには多くのクラスメイトが集まってきた。その中には七瀬の姿もあった。
俺はその様子を眺めながら、自分の弁当を食べ進めていった。
「おい、久遠寺。ちょっとこっちに来てくれ」
突然、俺の名前が呼ばれた。声の主は担任の教師だった。
「なんでしょうか?」
「お前に話したいことがあるそうだ」
「誰からでしょう……?」
「さぁな。とにかくついて来てくれ」
「はい……」
こうして、俺は職員室へと向かった。そして、そこで待っていた人物を見て驚いた。なぜならば、そこには右近君の姿がったからである。彼は真剣な表情で言った。
「単刀直入に言う。久遠寺に頼みたいことがあるんだ」
「えっ!?」
俺は驚きの声を上げた。まさか、転校初日にこんなことを言われるとは思っていなかったからだ。
「とりあえず、詳しい話は後だ。ついてきてくれないか」
「はい……」
こうして、俺は右近君と一緒に屋上へと向かうことになった。俺たちが屋上にたどり着くとそこには誰もいなかった。
「ここなら誰にも聞かれる心配はない。だから安心して話をすることができる」
「はい」
「まず最初に言っておくが、俺はお前のことを信用している。だから、正直に答えてほしい」
「わかりました……」
「まずは、昨日七瀬と何があったのか教えてくれるか?」
「はい……。七瀬さんの告白を断りました」
「理由は?」
「他に好きな人ができたからです」
「本当か?」
「はい」
「嘘じゃないよな?」
「もちろんです」
「わかった。それじゃあ、次の質問だ。七瀬のことは嫌いなのか?」
「いえ、そんなことありません。むしろ好きです」
「だったら付き合えば良かったじゃないか」
「それができない事情があるんです」
「どういうことだ?」
「実は僕にはもうすでに婚約者がいるんです」
「ええぇー!!」
俺は思わず大声で叫んでしまった。
「そいつはマジか?」
「はい、事実です」
「ちなみに相手の名前は何ていうんだ?」
「水無月彩音といいます」
その名前を聞いて、俺はハッとした。
「もしかして、その人はあの有名な女優の水無月彩香さんの妹か?!」
「よく知っていますね。そうです。彼女は僕の婚約者です」
「なるほど。そういうことだったのか」
「はい。なので、僕は七瀬さんと付き合うことはできないんです」
「そうか。でも、どうしてそのことがバレたんだ?」
「それは、七瀬さんとメールをしているときに、うっかりそのことを書いてしまって……」
「それで、そのことを知った彼女が嫉妬に狂って襲ってきたというわけか?」
「はい。まぁ、半分正解です」
「半分だと? どういう意味なんだ?」
「実は、七瀬さんは僕に好意を抱いているようなんです」
「それは知っている」
「ただ、それは恋愛感情ではなく、あくまで友情の範囲内らしいんです」
「つまり、友達として好きということか?」
「はい、そうなんです」
「それで?」
「七瀬さんは僕に対して恋愛相談をしていたみたいなんです」
「なんだよ、そりゃあ。紛らわしいな」
「僕だって最初は信じられませんでした。だけど、実際に七瀬さんは僕に抱きついてきたり、キスしようとしてきたりしたんです」
「おいおい、まじかよ……」
「はい、残念ながら……」
「なんじゃそら……」
俺は呆れ果ててしまった。
「それでも七瀬さんは僕と恋人同士になりたいのではなく、親友のような関係を望んでいるのだと思います。だから、彼女には申し訳ないけど断るしかなかったんですよ」
「なぁ、右近君」
「はい?」
「お前は本当に七瀬のことが好きじゃないのか?」
俺は真剣な表情で右近君の目を見つめながら尋ねた。すると、彼は少し考えた後に言った。
「正直言って、まだわかりません。でも、今は彼女よりも気になる人がいます」
「誰だ?」
「久遠寺さんです」
「えっ!?」
「実は今日、久遠寺さんに一目惚れしてしまったんです」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。お前は俺に告白するために転校してきたっていうのか?」
「はい」
「なぁ、右近君。悪いことは言わねぇから考え直せ」
「いいえ、考え直すつもりはありません」
「なんでだよ! どうしてそこまでして……」
「久遠寺さんのことが好きだからです」
「……」
「それに、この気持ちに嘘はつけません」
「そうか……。お前が本気だということはよくわかった。だが、一つだけ約束してくれないか?」
「何でしょうか?」
「絶対に後悔だけはするなよ」
「わかりました。肝に命じておきます」
右近君は覚悟を決めた表情を浮かべていた。どうやら彼は本気みたいだな……。




