記憶喪失の少年が料理に感動する
ある日のこと。一人の少年が訪れた。彼は料理を食べて感動した様子で言った。
「これは美味しいね! 僕のために作られた料理みたいだよ!」
それを聞いていた他の客たちは不思議そうな顔をした。なぜならば、彼の目の前にある料理は彼のために作られたものではないからだ。だが、少年はそのことに気付いていないようだった。
「そうだよね! やっぱり僕のためだけに作られたものじゃないんだ!」
「えっ!? 違うのか?」
「うん。だって僕は君たちと同じものしか食べていないんだよ? なのに、僕の好みに合わせてあるわけないじゃん」
「ああー、言われてみると確かにそうだな」
「それにさ、もし本当に僕だけのための料理があるとしたら、それはきっと特別な料理だと思うんだ。そういう料理は一品しかないと思うからね」
「なるほど……」
「まあ、今度からはこういうことは言わないようにするけどね」
少年の言葉を聞いた客たちは笑い出した。どうやら彼なりに場の空気を読んで発言したようだ。それに気付いた客たちも笑顔を浮かべた。
「ハハッ、お前さん面白い奴だな」
「本当だよ。でも、気に入ったぜ。特別にタダで食わせてやるよ」
「いいのかい? ありがとう」
少年は嬉しそうに料理を口に運んだ。その様子を見て客たちの表情が変わった。
「おっ、こいつは美味いな」
「本当だ。今まで食べたことがない味だよ」
「こりゃあ、とんでもない料理人が現れたかも知れねえぞ」
客たちが絶賛していると、店主が慌てて厨房から出て来た。そして、少年に話しかけた。
「おい、あんた名前は何と言うんだ?」
「ん? 名前? 僕の名前か……。う~ん……あっ、思い出した。確か『シン』っていう名前のはずだよ」
「そうなのか? 俺は聞いたことがねえが……」
「そりゃあ、そうだろうね。だって、つい最近まで忘れていたくらいだし」
「どういうことだ?」
「実は記憶喪失なんだ」
「マジかよ……」
客たちは驚きの声を上げた。そして、一斉に質問を始めた。
「どこに住んでいたの?」
「今まで何をしていたんだ?」
「どうしてここにやって来た?」
「家族はいるのか?」
様々なことを聞かれた。
「ちょっと待ってよ。一度にたくさん質問されても答えられないよ」
「それもそうか。じゃあ、一つずつ聞いていくぜ。まずは――」
こうして、シンと客たちとの長い会話が始まった。最初は戸惑っていたものの、次第に打ち解けていった。やがて、彼らは友人となった。それからも、彼らの交流は続いた。




