表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
林田力 短編小説集  作者: 林田力
東雲さん
29/103

物件探し

私達は電車に乗っていた。東雲さんは相変わらず、私の隣に座っている。

「昨日も訊こうと思ってたんだけどさ」

「……うん」

「なんで一人暮らし始めるの?」

東雲さんは一瞬、何かを迷うかのように視線を動かして、それから答えてくれた。

「……親と喧嘩したから」

「それだけ?」

「……」

東雲さんは黙り込んでしまう。その表情からは、それ以上の事が読み取れそうもない。

「そっか。じゃあしょうがないよな」

無理に話させることもないと思い、私はそれ以上追及するのはやめた。

「三並君は?」

「私?」

「……家族と、うまくいっていないとか」

「まさか」

私は笑って手を振った。

「うちはみんな仲良いよ。……父さんと母さんはあんまり喋らないけどさ、兄貴とは毎日のように話していた」

「お兄さんがいるんだ」

「うん。ちょっと歳離れてて、すっげぇ偉そう」

「そうなの?」

「そうだよ。もう大人になったからって、いつも偉そうにしてんの。……まぁ、確かに私はガキだし、あいつから見たら子どもみたいなもんかもしんないけどさ」

そんな話をしているうちに、電車は駅に着いた。

「ほら、行くぞ」

「うん」

改札を出ると、駅前には不動産屋の看板を掲げた店があった。

「ここでいいんだよな」

「うん」

中に入ると、カウンターの向こうにいた男がこちらに目を向けてくる。

「いらっしゃいま……せ?」

男は私達の姿を見て、怪しむような目つきをした。男はまだ若く、二十代前半か、せいぜい十代の後半といったところだった。

「えっと……どのような物件をお探しでしょうか」

「部屋を探しています」

東雲さんがそう答えると、男はますます不審な顔をした。

「学生さんですか?……失礼ですが、ご予算はいかほど?」

私は東雲さんの方をちらと見た。彼女は首を傾げながら呟いた。

「いくらぐらいなら大丈夫でしょう」

「家賃は月に6万前後。できれば風呂トイレ別だと助かります。あとは駅から近ければ近い程ありがたいですね」

東雲さんが口を挟む前に、私は希望を伝えた。東雲さんが驚いている様子だったが、気にしないことにした。

「なるほど……。それでしたら、いくつかありますね」

男は店内を見回しながら、手早くファイルを取り出してめくっている。

「ここなんかはどうでしょう。1LDKで月6万円。お風呂もついていますし、駅までは歩いて5分かからない。悪くないかと思いますが」

示されたマンションの写真を見ると、いかにもそれらしい外観をしていた。オートロック付き、エレベーターも完備されているようで、セキュリティ面も安心できそうである。しかし、何より私が気に入ったのは、ベランダからの眺めが良さそうだったことだった。

「そこがいいな」

「はい、では内見の方手配いたしますね」

それから私は東雲さんに向き直った。

「どうする?」

「うーん……」

東雲さんは少しの間、考え込んでいた。

「私は別にどこでもいいんだけど、お風呂とトイレが一緒なのは嫌だなって思ってた」

「じゃあそこにしよう」

「でも、高いよ」

「バイト代入ったばかりだから平気」

「……ありがとう」

東雲さんは嬉しそうに笑った。私もつられて笑ってしまう。

「では、まずは内見ということでよろしいでしょうか」

男がそう言ったので、私達は揃って「はい」と答えた。

「よろしくお願いします」

「はい、こちらこそ」

私は軽く頭を下げたが、男は小さく会釈しただけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ