物件探し
私達は電車に乗っていた。東雲さんは相変わらず、私の隣に座っている。
「昨日も訊こうと思ってたんだけどさ」
「……うん」
「なんで一人暮らし始めるの?」
東雲さんは一瞬、何かを迷うかのように視線を動かして、それから答えてくれた。
「……親と喧嘩したから」
「それだけ?」
「……」
東雲さんは黙り込んでしまう。その表情からは、それ以上の事が読み取れそうもない。
「そっか。じゃあしょうがないよな」
無理に話させることもないと思い、私はそれ以上追及するのはやめた。
「三並君は?」
「私?」
「……家族と、うまくいっていないとか」
「まさか」
私は笑って手を振った。
「うちはみんな仲良いよ。……父さんと母さんはあんまり喋らないけどさ、兄貴とは毎日のように話していた」
「お兄さんがいるんだ」
「うん。ちょっと歳離れてて、すっげぇ偉そう」
「そうなの?」
「そうだよ。もう大人になったからって、いつも偉そうにしてんの。……まぁ、確かに私はガキだし、あいつから見たら子どもみたいなもんかもしんないけどさ」
そんな話をしているうちに、電車は駅に着いた。
「ほら、行くぞ」
「うん」
改札を出ると、駅前には不動産屋の看板を掲げた店があった。
「ここでいいんだよな」
「うん」
中に入ると、カウンターの向こうにいた男がこちらに目を向けてくる。
「いらっしゃいま……せ?」
男は私達の姿を見て、怪しむような目つきをした。男はまだ若く、二十代前半か、せいぜい十代の後半といったところだった。
「えっと……どのような物件をお探しでしょうか」
「部屋を探しています」
東雲さんがそう答えると、男はますます不審な顔をした。
「学生さんですか?……失礼ですが、ご予算はいかほど?」
私は東雲さんの方をちらと見た。彼女は首を傾げながら呟いた。
「いくらぐらいなら大丈夫でしょう」
「家賃は月に6万前後。できれば風呂トイレ別だと助かります。あとは駅から近ければ近い程ありがたいですね」
東雲さんが口を挟む前に、私は希望を伝えた。東雲さんが驚いている様子だったが、気にしないことにした。
「なるほど……。それでしたら、いくつかありますね」
男は店内を見回しながら、手早くファイルを取り出してめくっている。
「ここなんかはどうでしょう。1LDKで月6万円。お風呂もついていますし、駅までは歩いて5分かからない。悪くないかと思いますが」
示されたマンションの写真を見ると、いかにもそれらしい外観をしていた。オートロック付き、エレベーターも完備されているようで、セキュリティ面も安心できそうである。しかし、何より私が気に入ったのは、ベランダからの眺めが良さそうだったことだった。
「そこがいいな」
「はい、では内見の方手配いたしますね」
それから私は東雲さんに向き直った。
「どうする?」
「うーん……」
東雲さんは少しの間、考え込んでいた。
「私は別にどこでもいいんだけど、お風呂とトイレが一緒なのは嫌だなって思ってた」
「じゃあそこにしよう」
「でも、高いよ」
「バイト代入ったばかりだから平気」
「……ありがとう」
東雲さんは嬉しそうに笑った。私もつられて笑ってしまう。
「では、まずは内見ということでよろしいでしょうか」
男がそう言ったので、私達は揃って「はい」と答えた。
「よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
私は軽く頭を下げたが、男は小さく会釈しただけだった。




