チャーハン
翌日から、東雲さんはまた元通りの態度に戻っていた。以前と同じように私に接してくれるし、一緒に買い物にも出かける。ただ一つ変わったことがあるとすれば、東雲さんが私に甘えなくなったということくらいだろう。
「どうする? 晩飯、食べてくだろ?」
東雲さんはちらと私を見て、すぐに視線を逸らしながら言った。
「あの……迷惑じゃないなら、食べたいな」
「いいに決まってるじゃん。すぐ作るよ」
「ありがとう」
そうして私は立ち上がると、台所へと向かう。炊飯器をセットしてから、冷蔵庫を開ける。中には昨日の残りのご飯と卵が入っていた。あとは冷凍庫に豚肉が少し。野菜室に玉ねぎと人参があるから、適当に炒めてチャーハンでも作ればいいか、と考える。
フライパンを温めてから油を引き、まずは米を炒り始める。その間に卵を取り出し、水を入れて蓋をする。水を吸ったところで火を止め、皿に盛っておいた白菜の漬物の上に割る。軽く塩を振りかけてから、また火をつけて少し待つ。火の強さや火力を調整することによって、料理全体の仕上がり具合が大きく変わってくる。火を強くしすぎると焦げてしまう。そうして出来上がったものを皿に盛り付けていると、背後から東雲さんの声が聞こえた。
「手伝うね」
「いいよ。座ってれば?」
「でも、それじゃ悪いし……」
「全然悪くないってば。私が好きでやってることなんだからさ」
そう言うと、東雲さんはそれ以上食い下がろうとしなかった。代わりに私の手元をじっと見つめている。
「そんなに見られるとやりにくいんだけど」
「……ごめんなさい」
謝られても困る。私は何とも言えない気分になりながら、チャーハンを二人前、食卓に並べた。
「いただきます」
手を合わせる東雲さんの前には、箸だけが置かれている。
「あ……スプーン、忘れてた」
「いいよ。私は、これで食べる」
東雲さんはそう言ってレンゲを手に取った。
「でも、熱いぞ?」
「大丈夫」
私はため息をつくと、自分の分のチャーハンを持ってきて、同じように席に着いた。そして「いただきます」と言ってから、チャーハンを口に運ぶ。我ながら、なかなか美味く出来たと思う。東雲さんはというと、やはり熱かったのか、最初こそフーフーと冷まして口に運んでいたものの、次第に普通に食べられるようになってくる。それを眺めつつ、私は口を開いた。
「で、これからどうする?」
「……うん」
東雲さんは少し考える素振りを見せてから答えた。
「明日、電気屋さんに行ってみるつもりだけど」
「パソコン探しか。まぁ、早い方がいいもんな」
「うん。それで、もし良かったら、三並君にも付き合って欲しいなって」
意外な言葉だったので、私は思わず聞き返してしまった。
「え? なんで?」
「……一緒に行ってくれた方が心強いから」
「そりゃあ、もちろん構わないけど」
東雲さんは嬉しそうに微笑んだ。その笑顔は、やっぱり可愛くて、綺麗だと思った。
「三並君が一緒だと、すごく安心できる」
その言葉で、自分がひどく浮かれていることを自覚した。まるで付き合いたての恋人同士みたいじゃないか、なんてことを考えてしまう。しかし同時に、不安にもなった。東雲さんの言葉が、単なる友人としての意味しか持たないものであることは分かり切っているからだ。
私が黙ってしまったのを不審に思ったのか、東雲さんは小首を傾げて私を見つめている。私は慌てて、言葉を繋げた。
「まぁ、私なんか大した力になれないかもしれないけど」
東雲さんは小さく首を振る。
「ううん」
その言葉が嘘ではないのだとしたら、どんなに嬉しいだろう。そんな事を考えながらも、心のどこかでは、ただの友人である私には、そこまでの事は期待されていないのだという事も分かっていた。
食事を済ませ、後片付けをすると、部屋の中には静寂が訪れた。いつもならテレビを見るところだが、今日はそういう気分ではなかった。
東雲さんは、今頃、何を考えているだろうか。私は何となく落ち着かない気持ちになって立ち上がった。台所へ食器を下げに行くと、東雲さんが私を追いかけてきた。
「あの……私も、手伝うよ」
「いいよ。これぐらい一人で出来る」
「でも……」
「いいって」
少し強めに言うと、東雲さんは俯いて、それから小さな声で言った。
「……ごめんなさい」
別に東雲さんが悪いわけじゃない。けれど、私は東雲さんを責めたいような気持になっていた。だから、つい、ぶっきらぼうな態度になってしまう。




